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『鳴かず飛ばずのピン芸人、異世界で「なんでやねん!」と言ったら魔王軍が半壊した件 ~切れ味鋭いツッコミは、もはや因果律崩壊の即死魔法でした~』  作者: セルライト
第3章 大怪獣ツッコミ激闘乱舞編

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第21話:静寂はツッコミの墓場か、あるいは聖域(サンクチュアリ)か

魔法学園を旅立ったアキラ一行が辿り着いたのは、地図にも載っていない、灰色の砂に覆われた「静寂の荒野」だった。

ここでは風の音すら響かず、一歩踏み出すたびに、自分の足音が砂に吸い込まれて消えていくような、不気味な感覚が一行を包んでいた。世界から「音」という概念が磨り減り、色のない映画の背景に迷い込んだような錯覚に陥る。


「……おい。エルナ。さっきからお前のタコ、元気がなさすぎやろ。いつもならヌチャヌチャ鳴いとるのに、今は干しタコみたいに萎びとるぞ」


アキラが声をかけるが、自分の声がいつもより「薄い」ことに気づく。言葉が唇を離れた瞬間、目に見えない何かに削り取られ、湿った綿の中に放り込まれたように響かない。


「……アキラ様。見て、村よ。でも……何かおかしいわ」


聖女エルナが指差した先には、石造りの小さな村「サイレンス」があった。

そこには、アキラの理解を越えた**「無音の日常」**が広がっていた。


村人たちは外に出て活動しているが、誰一人として口を開かない。

広場では鍛冶屋が真っ赤な鉄に巨大な金槌を振り下ろしているが、火花は散れど「カンッ!」という硬質な音は一切しない。まるで映像の音量設定をゼロにしたかのような光景だ。

子供たちは全力で追いかけっこをしているが、楽しげな笑い声も、地面を蹴る足音もしない。


「……完全な無音。……不自然。

 ……あ。今のツッコミ(予備)、ノートに書いた。

 ……音がない世界、私の『無言の愛』には有利だけど……。

 ……アキラ様の声が聞こえないのは、死ぬより辛い。……助けて」


重度のストーカー獣人、シズクが震える手でノートを差し出す。そこには、いつもより必死な筆致で**「婚姻届(音響保護機能付き)」**の文字が並んでいた。


「婚姻届に音響保護とか付けるな!! そんなもん、ただの厚紙やろがい!!」


パキィィィン……。


アキラのツッコミが響く。だが、その音は村の中に入った瞬間、目に見える「波紋」となって空中に現れ、そのまま頭上の空間から染み出してきた**「黒い霧」**に食い散らかされて消えてしまった。

「……!? 俺のツッコミを、食べたのか?、今!?」


「……アキラ様、危ない! 空中に『音を主食にする魔物』が潜んでいます!」


地味魔法少女ミリティが杖を掲げ、周囲を警戒する。彼女のマジカル・耳かきが、微かな振動を感知して「キーン」と不快な金属音を立てた。


「この村は、魔王軍四天王の一人……『沈黙のアルペジオ』の呪いにかかっています。音を出せば出すほど、魔力と生命力が吸い取られ、最後には存在そのものが消去クリーニングされてしまうんです。今の村人たちは、生きながらにして『静かなる置物』にされているんですよ」


「……えげつないことしよるな、そのアルペジオとかいう野郎。俺からツッコミを奪うってことは、呼吸を止められるのと同じやぞ!!」


そこへ、一人の老人が、音もなくアキラたちに近づいてきた。

彼は震える手で、地面の砂に文字を書いた。


『……旅人よ。この村で声を出すな。音が止まって、もう三ヶ月。……我々は、笑うことも、怒ることも忘れた。魔物に音を捧げ続け、村は枯れ果てた。……逃げろ』


老人の目は絶望に染まり、その体からは徐々に色彩が失われつつあった。「存在の消去」――すなわち、世界のバグとしてデリートされるカウントダウンが始まっているのだ。


「……笑うことを忘れた、やと?」


アキラの脳裏に、かつて漫才の舞台でスベり倒し、客席が静まり返った時の「あの死ぬほど寒い感覚」が蘇った。あの時の静寂は、自分を否定される恐怖だった。

だが、この村の静寂は、世界そのものを否定する悪意だ。


「……ふざけんな。音が死ぬ? 笑いを忘れる? そんな『スベり倒した世界』、芸人ツッコミとして見過ごせるわけないやろがい!!」


アキラは、村の中央にある「鐘楼」を見上げた。

そこには、巨大な蝙蝠のような翼を持つ魔物――音喰らいの**「ソニック・イーター」**が、鐘に巻き付いて村の音を監視していた。


「ミリティ! エルナ! ルビィ! シズク! この村の『沈黙』という名のバグを、今から俺が全力でブチ壊す!! お前ら、俺の喉が保つように、全力でバックアップしろ!!」


「……はい、アキラ様! タコちゃんの吸盤で、村中のマイクスタンドを固定するわ!!」


「アキラ殿! 私がその魔物の攻撃を、すべて全身で受け止めよう!!」


「……アキラ様。……音の代わりに、私の愛の重低音を響かせる。……逃さない。……ノートの1ページ目、アキラ様の紹介文から読み上げる」


「読み上げるな!! 恥ずかしさで死ぬわ!! ミリティ! お前は村の空気を『音の伝わりやすい超高密度』に整えろ!!」


「了解です! マジカル・サウンド・ワックス!! 村中の空気を磨き上げて、音の通り道をクリアにします!!」


アキラは、鐘楼の下に立ち、大きく息を吸い込んだ。

ソニック・イーターが、アキラの「音の予兆」を察知し、邪悪な赤い瞳を見開く。


「……おい、魔物野郎! お前、その大きな翼……。せっかく羽ばたいとんのに、羽音がせんのは『存在感が地味』すぎるやろ!! もっとバサバサ言わせろや!! 沈黙がかっこいいと思っとるんは、中二病の時だけやぞ!!」


ドォォォォォン!!!!!


アキラの第一声が、ミリティの整えた空気の道を走り、ソニック・イーターの鼓膜を物理的に強打した。


「ギ、ギギィィィ!?」


魔物が悲鳴を上げるが、その悲鳴すらもアキラのツッコミの糧になる。


「なんやその悲鳴! 蚊が鳴いとんのか!? 魔物ならもっと『ガオー』とか『グオオ』とか、近所迷惑なレベルで自己主張せんかい!! お前の人生(魔物生)、消音モードでええんか!! 恥を知れぇぇぇ!!!」


パキィィィン!! ズガガガガッ!!


アキラの連撃のようなツッコミが、音を喰らう霧を突き破り、魔物の体に直接ダメージを刻み込んでいく。

村人たちが、信じられないものを見る目でアキラを見上げた。消えかけていた彼らの体から、わずかに「色彩」が戻り始める。


「……お、音が……。あの男の声が、砂に消えない……!」

「……バカげたことを言っているのに……。……胸の奥が、何だか……ムズムズして……」


村人たちの中に、忘れかけていた「失笑」という名のエネルギーが芽生え始めた。


「さあ、見とけ!! これが、不条理な世界に対する『人間の意地』や!! エルナ! 今や、タコを飛ばせ!! ルビィ! 敵の前に立って、わざと弱点を晒せ!!」


「任せて! 聖なるタコの、無音の奇跡!!」


「はぁ、はぁ……! さあ、魔物よ! 私のこの『隙だらけの構え』を、音速で貫いてくれ!!」


カオスが加速する。

タコが空を舞い、ドMの騎士が敵の攻撃を悦びで受け流し、ストーカーが影から婚姻届を突きつける。そのあまりの「論理の崩壊」に、音を司る魔物は混乱し、その防衛本能が麻痺していく。

「……よし、最後や!! お前のその、音を喰らう能力……。俺の『魂のツッコミ』で、満腹にしてやるわ!! 喰らえ! 」


アキラは喉を限界まで広げ、肺の中の空気をすべて、この世界に存在する「あらゆる不条理」への怒りに変換した。

「――お前、その『沈黙』という名の能力ちから……!!

よく聞いたら、俺が中学二年生の夏休みに、

『俺の右腕には、言葉を奪う暗黒の魔獣ダーク・レゾナンスが封印されている……』

とかノートに書いて、誰とも喋らんかった時の『黒歴史』と完全に一致しとんねん!!

世界を否定する悪意じゃなくて、

ただの『自己満足ポエム』やないか!!

その翼も、包帯巻いて『静寂の堕天使』とか名乗ってろボケェェェ!!!

恥ずかしさで爆散しろぉぉぉ!!!!!」



ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!



アキラの、自身の過去を切り刻むような「魂の黒歴史全否定ツッコミ」が、ソニック・イーターの存在理由レーゾンデートルを根本から打ち砕いた。

魔物は、自らの能力が「ただの痛々しい厨二病」と定義されたことへの、精神的な羞恥心バグに耐えきれず、鐘楼ごと粉々に砕け散った。

魔物が霧散すると同時に、村を覆っていた黒い霧が晴れ、空からは本来の「風の音」と、村人たちの「どよめき」が降り注いだ。


「……やった……。音が……戻ったぞ!!」

村人たちは、抱き合い、泣き、そしてアキラの「静寂の堕天使」という謎すぎる例えに、堪えきれずにドッと笑い声を上げた。


「……ふぅ。……喉が、死んだわ……」


アキラは地面にへたり込んだ。

ミリティが慌てて「マジカル・のど飴・洗浄型」をアキラの口に放り込む。


「お疲れ様です、アキラ様。村の空気の汚れ(沈黙)は、完全にクリーニングされました。……ただ、アキラ様の喉の粘膜が、今の叫びで3ミリほど摩耗しています。今すぐ、私の特製ナノバブル水で喉を洗浄シュッシュッさせてください」


「喉を水圧で洗うな!! 溺れるわ!!」


アキラのツッコミが、平和を取り戻したサイレンスの村に、いつまでも元気に響き渡っていた。

【現在のパーティ状況】

• アキラの喉: 自分の黒歴史を大声で叫んだことで、精神的ダメージがHPに直撃している。

• ミリティの成果: 「音の通り道」をクリスタル化した際、ついでに村中の窓ガラスもピカピカに磨き上げておいた。

• ルビィの動向: 魔物の超音波を浴びすぎて、鎧が微かに共鳴し続けている。本人は「心地よい余韻だ」と満足げ。

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