第2話:スライムの分際で、そのプルプルはあざとすぎる
「……はぁ。もう一回言ってくれ。耳が腐ったんかと思ったわ」
アキラは、豪華絢爛な王城の客間に座り、頭を抱えていた。
目の前には、相変わらず左手にタコを握りしめたままの聖女、エルナが立っている。
「だから……アキラ様。あなたのステータスを鑑定した結果、驚くべきことが分かったの」
エルナは、水晶板のような板を指差した。
「あなたは……この世界で唯一の、**『魔力ゼロ、武技ゼロ』**の勇者様よ!」
「……勇者ちゃうやんけ! ただの無職やんけ!」
アキラの叫びが、高い天井に反響する。
あまりの理不尽に、右手の拳が震えた。
「おい、異世界転移ってのは、普通こう……『全属性魔法が使えます』とか、『伝説の聖剣を振り回せます』とか、そういうボーナスステージちゃうんか? 魔法が使えへん? 剣も振れへん? 詰んでるやん! 1面で詰んでるやん!」
「いいえ、アキラ様。そこがあなたの凄さなのよ」
エルナは、タコをぶんぶんと振り回しながら、興奮気味に語りかける。
「普通の人は、魔力を使って物理現象を起こすわ。火を出したり、風を起こしたり。でも、あなたは違う。あなたのスキルは……『真実の弾劾』」
「……なんやそれ。宗教の勧誘みたいな名前やな」
「世界には『理』があるわ。でも、生き物や現象がその理から外れたこと……つまり、あなたの言う『ボケ』をした瞬間、世界に微小な歪みが生じるの」
「ほう」
「あなたは、その歪みを、正確な言葉で指摘することで……歪みを一気に爆発させ、**【強制的な理の修正】**を行うのよ。それが、あの破壊力の正体!」
アキラは、自分の右手をじっと見つめた。
(つまり……この世界そのものが、壮大な『漫才の舞台』ってことか?)
(で、誰かが変なことをしたり、矛盾した存在だったりすると、俺のツッコミが『強制終了ボタン』として機能する……。物理法則を無視した、言葉による暴力。……最高やんけ)
だが、エルナは顔を曇らせた。
「でも、欠点があるわ。相手が『ボケていない』場合、あなたのツッコミはただの悪口になっちゃう。つまり……真面目な正統派の騎士様とか、全く隙のない完璧な魔導師には、あなたは手も足も出ない、ただの『口の悪い一般人』なのよ」
「……極端すぎるわ! 敵が全員、出オチ芸人であることを祈るしかないやんけ!」
数時間後。
アキラは、エルナに連れられて、王城近くの「初心者の森」に来ていた。
「まずは、実戦を経験してみましょう。この森には、最弱の魔物『スライム』が出るわ。アキラ様のツッコミが、魔物にどこまで通用するか試すのよ」
エルナは、聖女らしい清らかな笑みを浮かべる。
……が、その腰には、さっきのタコを「お守り」としてぶら下げていた。
「……いや、そのタコ、腰にぶら下げたままで戦うつもりか? 歩くたびに足がペチペチ当たって、お前の太もも吸盤だらけやぞ。不衛生すぎるわ!」
ズガァァァン!
アキラのツッコミの余波で、近くの枯れ木が一本、粉砕された。
「ひゃうん! さすがアキラ様、歩きながらでも破壊力がすごいわ!」
「感心してんと、さっさと歩け! 匂いが移るわ!」
二人が森の奥へ進むと、茂みがガサガサと揺れた。
現れたのは、ファンタジーの定番。
水色で、プルプルとした、バレーボール大の半透明な塊。
スライムだ。
「出たわ! スライムよ! アキラ様、気をつけて! 奴らは核を攻撃しない限り、物理攻撃が効かない……」
エルナが警告を発した、その瞬間。
スライムが、不気味に体を震わせた。
そして。
スライムの表面に、突如として**「クリクリとした、やたら可愛い目」と、「控えめなピンク色の頬」**が浮き上がった。
「…………ぷにゅ?」
スライムが、あざとい鳴き声を上げた。
さらに、体を上目遣い(?)のように傾け、プルプルと震わせながら、エルナの足元に擦り寄っていく。
「……きゃあああ! 可愛い! 何この子、すごく可愛いわ! 攻撃なんてできない……!」
エルナは杖を放り出し、しゃがみ込んでスライムを撫でようとした。
「よしよし、いい子ね……。そんなにプルプルして……」
だが、アキラの目は騙されない。
アキラの脳内にある「ツッコミ・センサー」が、過去最大級のアラートを鳴らした。
(……待て。待て待て待て。おかしい。絶対におかしい)
(お前、魔物やろ? 人間を食う存在やろ? なんでそんな『サンリオの新キャラクター』みたいな顔してんねん!)
(しかもその頬のピンク、自分でお化粧したんか? スライムにチークは必要ないやろ! どこで売ってたんやそのコスメ!)
(さらにその鳴き声! 『ぷにゅ?』ってなんや! 普通『グチャッ』とか『ドロォ』とか、もっと粘液質の音がするはずやろ! 自分の可愛い見せ方を熟知しすぎや!)
アキラの中で、怒涛のツッコミが沸点に達する。
目の前では、スライムがエルナのスカートの裾を、あざとく口(?)で引っ張っていた。
「うふふ、一緒に遊びたいの? いいわよ……」
デレデレのエルナ。
だが、スライムの口の奥で、鋭い牙が一瞬、キラリと光ったのをアキラは見逃さなかった。
こいつは、可愛さを武器にして油断させ、獲物を丸呑みにする「あざとボケ・ハンター」だ。
「……おい、ポンコツ聖女! 離れろ! そいつ、お前のことを『食べ頃の特上ロース』としてしか見てへんぞ!」
「え? でも、こんなに可愛いのに……」
「可愛ければ何しても許されると思うなよ! その、計算され尽くした『あざとさ』が……俺の逆鱗に触れたんや!」
アキラは右手をビシッと突き出し、スライムの「顔」を指差した。
「おい、そこにおる水色の塊ぃぃ!!!」
アキラの喉から、衝撃波のような声が漏れる。
「お前、スライムの分際で、キャラ設定が盛りすぎなんじゃい!!! その目はなんや、カラーコンタクトか!? そのチークはなんや、血行が良いんか!? そもそも、無脊椎動物が『ぷにゅ?』とかいう可愛い擬音を発するな! 文字数稼ぎか! 媚びすぎやろがぁぁぁ!!!」
「……ぷ、ぷにゅ……?」
「首を傾げるな! お前に首はないやろ!!! なんでやねん!!!」
ドガァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!
アキラの叫びと同時に、世界が激しく震動した。
ツッコミのエネルギーがスライムの「あざとい外見」という矛盾を直撃。
因果律の修正が働き、スライムの体細胞が、分子レベルで自己崩壊を起こした。
次の瞬間、スライムは巨大な風船が破裂したかのように、木っ端微塵に爆散。
あざとい目も、ピンクの頬も、水色の粘液も、すべてが森の彼方へと吹き飛んだ。
……静寂が訪れる。
スライムがいた場所には、クレーターができ、周囲の草花は一本残らず消え去っていた。
「…………え?」
エルナは、尻餅をついたまま、呆然と空を見上げた。
空からは、雨のように、スライムだった破片(ただの無機質な水滴)が降ってくる。
「……あ、私の可愛いスライムちゃんが……霧散したわ……」
「ちゃん付けすな! 殺されかけとったんやぞ、お前は!」
アキラは、肩で息をしながら、突き出した手を下ろした。
今の一撃で、かなりの精神力を消耗した。だが、確信した。
(……いける。この世界のボケ、かなり手強いけど……俺のツッコミは、それ以上に破壊的や)
(武器はいらん。魔法もいらん。……俺の『口』さえあれば、この世界は俺の独壇場や!)
「……アキラ様。やっぱり、あなたこそ真の勇者よ」
エルナが、目をハートにして立ち上がった。
「その圧倒的な語彙力……。その、ボケを許さない冷徹な眼差し……。私、あなたのツッコミの虜になっちゃったかも……」
「……おい、顔を赤らめるな。お前、さっきスライムにデレデレやったやんけ。浮気者か! 惚れっぽすぎるわ!」
アキラは、ため息をつきながら歩き出した。
「さっさと行くぞ。次の魔物はどいつや? どいつもこいつも、ツッコミどころ満載でお待ちしてくれてるんやろ?」
「ええ! 次は……『露出狂のオーク』の目撃情報があるわ!」
「……どんな魔物やねん! オークは最初から裸やろ! どこを露出するねん! 矛盾しすぎやボケ!!!」
ズガガガガァァァン!
またしても、アキラの独り言ツッコミで、遠くの崖が崩落した。
アキラの異世界無双は、まだ始まったばかりである。
【アキラの現在のステータス】
• HP:100
• MP:0
• スキル:【真実の弾劾Lv.2】
• 現在のヒロイン:エルナ(聖女/タコ愛好家/天然ボケ)
• 今回の被害:スライム(爆散)、枯れ木(粉砕)、王の像(既に粉砕済み)、崖(崩落)




