第17話:聖女の祈りは「吸盤」と共に。アキラ、軟体動物と和解せよ!?
魔法学園を後にした一行は、次の目的地へ向かう街道の途中でキャンプを張っていた。
夕暮れ時、シズクは薪を斬り刻み(アキラの形に)、ルビィは地面に掘った穴に入って反省(という名の快楽)に耽り、ミリティは周囲3メートルの石ころを大きさ順に並べ替えている。
そんな中、アキラは一人、河原で喉を冷やしていた。
「あー……喉が痛い。さっきミリティが『空気の粒子が整列しすぎてて吸いにくい』とか言い出した時に叫びすぎたわ……」
そこへ、エルナが「ぬるり」とした足音を立てて近づいてきた。
彼女の腕には、相変わらずあのタコが抱かれている。
「アキラ様、お疲れ様。そんなに喉を酷使して……。
私の『聖女の特別なケア』が必要じゃないかしら?」
「断る。お前のケアは、大抵の場合、事態を悪化させるからな。
大体、そのタコをこっちに向けるな。さっきから俺の首筋を『美味しそうな徳利』みたいな目で見てるやろがい」
「失礼ね! タコちゃんは純粋に、アキラ様の声を『いい振動ね』って褒めてるだけよ。
ほら、見て。アキラ様が喋るたびに、タコちゃんの体色が『興奮の真紅』に染まって……。
これはもう、種族を超えた愛の共鳴よ!」
「茹で上がる寸前の色になっとるだけやろ!!
あと、タコに音楽性を理解させるな!
俺のツッコミは、軟体生物の娯楽じゃないんじゃ!!」
パキィィィン!
アキラのツッコミが、夕焼けの河原に木霊する。
エルナは満足そうに微笑むと、おもむろに聖典(中身はタコのレシピ本)を開いた。
「アキラ様、実は相談があるの。
私、聖女として『新しい奇跡』を開発したのよ。
名付けて……『聖なるタコの抱擁』!!」
「嫌な予感しかせぇへんわ!! 名前の中に絶望が詰まっとるやろがい!!」
「いいえ、これは究極の癒やしよ。
聖光で強化されたタコが、対象の体に隙間なく吸い付くことで、
毛穴から毒素を吸い出し、代わりに『高濃度のタウリン』を注入するの。
さあ、アキラ様。シャツを脱いで。世界で最初の被験者(生贄)にしてあげる!」
「生贄って言うたな今!! 本音が漏れとるぞ!!
あと、毛穴からタウリンを入れるな! ドリンクで飲ませろ!!
なんで俺が、全身吸盤マークだらけの『水玉模様の勇者』にならなあかんねん!!」
エルナは聞く耳を持たず、杖を天に掲げた。
すると、どこからともなく、発光する巨大なタコの幻影が空中に現れ、アキラを包囲するように触手を伸ばしてきた。
「アキラ様、逃げないで! これは世界のバグを直すための『免疫強化』でもあるのよ!
タコの吸盤は、この世界の論理的な隙間にピッタリ密着して、歪みを吸い取ってくれるの!
ほら、タコちゃんの足が、アキラ様の喉仏に……『愛のネクタイ』を締めにいくわ!!」
「ネクタイじゃなくて絞殺縄やろがい!!!
世界の隙間を吸盤で埋めるな! 世界がヌチャヌチャになるわ!!
お前の信仰対象は、神様じゃなくて『足が八本の悪魔』なんか!!」
ドガァァァン!!
アキラの全力のツッコミが、空中の巨大タコ幻影を粉砕した。
飛び散った光の粒子が、河原の石を一瞬で「タコの形」に変えていく。
「……あ、見てアキラ様。石が全部タコになったわ。
これぞまさに、聖女の奇跡。……明日の朝ごはんは、タコ尽くしね!」
「石を食わせようとすな!! 歯が全部折れるわ!!
あと、お前。さっきから『世界のバグ』っていう言葉を免罪符に、
自分の欲望を押し付けてきとるやろ!
お前自身が、この世界で最大級のバグの温床やって自覚を持て!!」
エルナは、アキラの怒号を子守唄のように聞き流しながら、
足元で動く「タコ型の石」を愛おしそうに撫でた。
「ふふっ……。アキラ様ってば、照れちゃって。
でも、気づいている? アキラ様がツッコむたびに、
私の周りのタコたちが、少しずつ『二足歩行』の兆しを見せ始めているのを。
アキラ様の言葉が、彼らに『進化の光』を与えているのよ……!」
「進化させるな!! 気持ち悪いわ!!
タコが立って歩き出したら、それはもう別のホラー映画なんじゃ!!
俺のツッコミを、生物の変異に使うな!!!」
アキラは、脱力して河原に座り込んだ。
聖女エルナ。彼女の純粋すぎる(狂った)信仰心は、
世界の謎を解く鍵どころか、新たな生態系を創り出そうとしていた。
「……はぁ。もうええ。エルナ、お前は一生、そのタコと喋ってろ。
俺はミリティに、喉の洗浄を頼んでくる……」
「あら、残念。じゃあ、この『タコの吸盤で作った喉飴』は、自分で舐めるわね」
「飴に吸盤を混ぜるな!! 舌に張り付いて一生取れへんようになるやろがい!!」
アキラの叫びは、夜の帳が下りる河原に虚しく響き渡った。
聖女との個別面談は、和解どころか「人類のタコ化」という新たな懸念を生んだだけで終わったのである。
【現在のパーティ状況】
• アキラの喉: タコ幻影との闘いで、少し塩味がするようになった。
• エルナの成果: 周囲の石を80個ほどタコに変えることに成功。
• シズクの動向: 影から「アキラ様がタコにネクタイを締められるシーン」を、1秒24コマの速度でスケッチしていた。




