第16話:旅の荷造りは「生存戦略」か「断捨離」か
卒業式の喧騒(タコとタオルの嵐)がようやく収まり、魔法学園ラピス・ラズリの正門前。
アキラは、これ以上この「ボケの養殖場」に滞在しては命(と喉)が持たないと判断し、早々に次の目的地へ向かおうとしていた。
「よし、エルナ、ルビィ、シズク。行くぞ。
四天王メフィストが逃げた先には、もっと強力な『論理のバグ』が潜んどるはずや。
俺のツッコミで世界を正常に戻す……なんて大層なことは言わんが、とりあえずあのアホな電卓野郎の鼻を明かさな気が済まへんからな」
「アキラ様、待って! 旅の食料として、学園の生け簀から最高級の『教育熱心なタコ』を百匹確保したわ!
この子たちは計算ができるから、お鍋の中でも自分の煮え時を自己申告してくれるのよ!」
「怖いわ!! 自分の死に際をプレゼンするタコなんか食えるか!!
あと、そんな大量の軟体生物、どこに収納するつもりやねん!!」
パキィィィン!
アキラのツッコミが、朝の静かな学園に響き渡る。
そこへ、大きなリュックサックを背負い、杖(先端はやはり耳かき)を握りしめたミリティが、猛烈な勢いで走ってきた。
「ま、待ってください! アキラ様!
私……ミリティも、皆さんの旅に同行させてください!!」
ミリティはアキラの前で勢いよく土下座をした。その角度は、分度器で測ったかのように正確な45度だった。
「……あ? お前、卒業したんやろ。
実家の掃除でもして、近所の溝掃除でも手伝って、静かに暮らしとけ。
俺らの旅は、タコが空を飛んだり、騎士が自ら罠に飛び込んだりする、精神衛生上最悪な場所やぞ」
「だからです!
私は、あの地下の魔導書を読んで、理解してしまったんです。
この世界が『書き損じの駄作』だとしたら……。
アキラ様がツッコミで大まかな汚れ(ボケ)を落とし、私がその後に残った微細なゴミ(矛盾)を清掃する。
これこそが、世界の『正しいお洗濯』なんです!!」
ミリティが顔を上げると、その瞳は、汚れ一つない磨き上げられたガラスのようにキラキラと(物理的に)発光していた。
「……お洗濯って言うな。俺はコインランドリーの店主か。
お前の魔法、地味すぎて戦闘には向いてへんやろ。
魔王軍が襲ってきたら、どうすんねん。『マジカル・ボタン付け』で敵の鎧のボタンを直すんか?」
「いえ、戦闘のサポートは完璧です!
例えば……シズクさん! その背負っている荷物、パッキングが甘いです!
これでは移動中に重心が0.3ミリブレて、アキラ様へのストーキング効率が5パーセント低下します!」
シズクがピクリと反応した。
(……聞き捨てならない。
アキラ様を追う速度は、私の人生のすべて。
それが、5パーセントも低下している……?
ミリティ、貴様……何を根拠に。……試しにやってみろ)
「はい! いきます。……マジカル・テトリス収納!!」
ミリティが杖を振ると、シズクの巨大な荷物が一度分解され、空中で再構築された。
毛布、婚姻届の予備、アキラの抜け毛コレクション、調理器具。
それらが、原子レベルで隙間なく組み合わされ、元の半分以下のサイズに圧縮された。
「…………(絶句)」
「……お前、空間魔法を『整理整頓』だけに極振りしとんのか!!
そんな高度な魔法、普通は『四次元倉庫』とか、もっと便利な名前にするやろ!
それをテトリスって呼ぶな! 最後に一列揃ったら消えてまうやんけ!!」
ドガァァァァン!!
アキラのツッコミが、ミリティの完璧すぎるパッキングを直撃する。
だが、荷物はビクともしない。あまりに密に詰まっているため、衝撃をすべて吸収してしまったのだ。
「さらに、ルビィさん! その鎧!
わざとダメージを受けやすいように、継ぎ目に『チクチクする産毛』を植え付けていますね?
不衛生です。……マジカル・除毛!!」
「ああっ!? 私の、私の大切な『チクチク刺激』が……!?
肌が……肌がツルツルになって、鎧との摩擦が心地よくなってしまった……!
これでは、苦痛という名の快楽が……ただの『快適なフィット感』に……!!
おのれミリティ! なんて恐ろしい、地味な拷問を……!!」
「拷問ちゃうわ!! 快適になったなら喜べよ!!
お前ら、ボケのベクトルが違いすぎて、俺の処理能力が追いつかへんわ!!」
アキラは頭を抱えた。
エルナはタコを増やし、ルビィは苦痛を求め、シズクはアキラを追い、今度はミリティが「すべてを清潔に正しく整える」という、別の意味で恐ろしいボケをぶち込んできた。
「……いいですか、アキラ様。
私の魔法は、世界の『汚れ』を許しません。
魔王軍の基地に行けば、床をワックスでツルツルにして、敵を転ばせて全滅させます。
魔王の玉座が埃っぽければ、それを指摘して魔王を精神的に追い詰めます。
そして何より……アキラ様のその、荒れ果てた喉を、マジカル・加湿器で守り続けます!!」
ミリティが杖を振ると、アキラの周囲だけ、絶妙な湿度60パーセントの清浄な空気が維持され始めた。
「……くっ、この喉への優しさ……。
ツッコミすぎて、いつもガラガラやった俺の喉が……潤いを取り戻していく……。
なんて、なんて腹の立つ利便性や!!」
(……負けられない。
アキラ様の喉を守るのは、私の愛の潤滑油(物理)のはずだった。
ミリティ、お前の『利便性』という名の攻勢……認めよう。
……共闘する。アキラ様を「清潔で安全な檻」に閉じ込めるために。……ノートに、契約書を書く)
「閉じ込めるな!! 檻を清潔にするな!!」
そこへ、エルナがタコを引きずりながらやってきた。
「決まりね! ミリティがいれば、タコちゃんも常に新鮮な海水で洗ってもらえるわ!
さあ、新しい仲間と一緒に、世界を『ヌルヌルでピカピカ』に塗り替えましょう!」
「ヌルヌルとピカピカを混ぜるな! 結局、汚いやろがい!!」
アキラは、自分を囲む四人のヒロイン(?)を見渡した。
聖女、重騎士(ドM)、獣人、魔法少女(潔癖)。
これから先、どんなにシリアスな世界の謎が待ち構えていようとも、この四人がいれば、すべては「意味不明なコント」へと変換されてしまうのだろう。
「……わかった。勝手についてこい。
ただし! 旅の途中で俺のパンツを勝手に洗濯板でゴシゴシすなよ!
生地が薄くなって、ツッコミのキレまで薄くなる気がするからな!!」
「はい! 私は『手洗い』派なので、生地を傷めずに、アキラ様の情熱(加齢臭)だけを100パーセント除去してみせます!!」
「情熱を加齢臭って言うな!! 俺はまだ20代やぞ!!」
ドゴォォォォォォォォォォン!!!!!
アキラの新たなツッコミが、学園の正門を物理的に「磨き上げ」、鏡のような光沢を与えた。
こうして、ツッコミ勇者と四人の「バグ」たちの旅は、新たなメンバー・ミリティを加え、さらに騒がしく、清潔で、そして救いようのない方向へと再出発したのであった。
門の外には、地平線が広がっている。
その先には、世界を壊そうとする魔王と、それを必死で「修復(ボケの塗りつぶし)」しようとする四天王が待っているはずだ。
「よし、野郎ども! 旅の始まりや!
世界が滅ぶ前に、俺の喉が保つかどうか……賭けようやないか!!」
(……私は、アキラ様が負ける方に、私の全人生を賭ける。
……負けて、喉が潰れて、声が出なくなったあなたを、私が一生介護する。
……筆談用の婚姻届、もう1000枚用意した。……逃がさない)
「予備が多すぎるわ!! どんだけ書き損じる前提やねん!!」
アキラの絶叫と共に、第2章・魔法学園編は幕を閉じ、物語はさらなる混沌の荒野へと続いていく。
アキラの現在の状況
• ツッコミ回数: 150回(もはや時報の役割を果たしつつある)。
• 喉の状態: ミリティの加湿魔法により、過去最高にコンディションが良い。キレが増したせいで、一回のツッコミで山が一つ削れるようになった。
• パーティーのパワーバランス: 「タコ」「ドM」の野放しなボケを、シズクとミリティの「管理系女子」が背後から包囲する、逃げ場のない布陣が完成。




