第11話:勇者の休日は、ボケの波状攻撃で朝から晩まで胸焼けがする!
フェンリル・パレスでの激戦から数日。
アキラ一行は、魔導大国へと続く街道沿いの小さな宿場町に滞在していた。
魔王軍二万を消し飛ばした「ツッコミ勇者」の噂は、幸いにもまだここまでは届いていない。アキラにとっては、久々に訪れた平穏な朝――になるはずだった。
「…………おい。エルナ、起きろ。何してんねん」
アキラは、宿の相部屋(予算の都合で雑魚寝だ)で目覚めると同時に、目の前の光景にツッコんだ。
聖女エルナが、寝巻きのまま床に這いつくばり、一匹のタコと**「睨み合い」**をしていたからだ。
「しっ、静かにしてアキラ様。今、タコちゃんと『朝の交信』をしてるんだから」
「交信すな! 眠いなら二度寝しろ!
あと、そのタコ! なんで俺の枕元に**『一輪のタンポポ』**を置いてドヤ顔しとんねん!
お前、この間のゴブリンの営業スキルに感化されたんか!?
『いつもお世話になっております、吸盤商事です』みたいな挨拶は求めてへんぞ!!」
パキィィィン!
アキラの朝イチのツッコミにより、宿の窓ガラスが軽くひび割れた。
「ひゃうんっ! 朝からアキラ様のビブラートの効いたツッコミ……タコちゃんも喜んで吸盤を全開にしてるわ!」
「喜ぶな! 威嚇されとるんや、それは!!」
アキラは溜息をつきながら起き上がった。
視線を横にやると、さらに深刻な状況が視界に入った。
重騎士ルビィが、部屋の隅で**「自分の体をベッドのシーツでぐるぐる巻き」**にして、芋虫のような状態で転がっていたのだ。
「……ルビィ。お前、寝相が悪すぎるんか、それとも新しい修行か?」
「……あ、アキラ殿……。おはよう……。
これは、その……寝ている間に魔王軍に捕まった時のシミュレーションだ……。
見てくれ、この『自由を奪われた屈辱感』……。
さあ、アキラ殿! この動けない私を、足蹴にするなり、『このシーツ野郎!』と罵るなりしてくれ……っ!」
「シーツ野郎ってなんやねん! 悪口のセンスが壊滅的やぞ!
しかもお前、さっきから自分でシーツの結び目を固く締め上げとるやろ!
自作自演の拘束劇を朝から見せつけられる俺の身になれ!
騎士の誇りはシーツと一緒に洗濯機に放り込んできたんか!!!」
ドガァァァァン!
アキラの叫びでシーツが弾け飛び、ルビィは壁まで吹っ飛んだ。
「あぁぁぁ……! 『洗濯機に放り込め』……!
なんて……なんて冷徹で、衛生的なお言葉……!
アキラ殿に洗われる自分を想像して、私のガードスキルが……っ!」
「想像すな! 自分で洗え!!」
朝からカロリーを消費しすぎたアキラは、フラフラと宿の食堂へ向かった。
そこでは、獣人少女シズクが既にテーブルに座っていた。
彼女は無言で、山盛りの**「キャベツの千切り」**を前に、一心不乱に包丁を振るっていた。
「……シズク。お前、宿の厨房の人じゃないやろ。なんで手伝っとんねん」
シズクはピタリと手を止めると、無言で一冊のノートを掲げた。
『アキラ様の健康のため。愛妻弁当の練習。
具材はキャベツのみ。私の愛は重いから、カロリーはゼロに抑えた』
「……物理的な重さと栄養価を混同するな!
あと、キャベツだけじゃ弁当にならんわ、ただの飼育小屋の餌や!
愛妻弁当言うなら、もっとこう……赤とか黄色とか、彩りを考えろ!
あとお前のノート、文字が真っ黒で怖いんじゃ!!」
アキラの怒声が食堂に響き渡り、他のお客たちが一斉に逃げ出した。
店主が震えながら
「……あの、お客様。お静かに……」
と声をかけてくる。
「……すんません、店主。こいつら、放っておくと世界の理をボケで上書きしよるもんで」
朝食後、一行は魔法学園のある都市『ラピス・ラズリ』への道中を急いでいた。
道中、エルナがふと思い出したようにタコを持ち上げた。
「そういえばアキラ様。魔法学園には『知恵の門』っていうのがあって、そこを通るには、門番が出す『なぞなぞ』に答えなきゃいけないんですって」
「なぞなぞ? まぁ、知恵を司る学園なら妥当やな。どんな問題が出るんや?」
「えーっと……伝説だと、『パンはパンでも、食べられないパンはなーんだ?』とか……」
「……古いわ!!! 昭和の学級会か!!」
アキラのツッコミで、街道の標識が逆方向を向いた。
「魔法の最高峰が集まる場所で、そんなベタな問題出すわけないやろ!
もっと高度な、量子力学とか魔導回路の矛盾とか、そういうのを問われるはずやろがい!」
「でもアキラ様、異世界の人にとっては、その『フライパン』っていう概念自体が、魔法のような高度な発明品かもしれないわよ?」
「……やかましいわ! さっき宿の厨房でシズクがキャベツ炒めるのに使っとったわ!
異世界の文明レベルをなぞなぞ基準で下げるな!!」
そんなやり取りをしている間に、空に巨大な「浮遊大陸」が見えてきた。
青く輝くクリスタルが街を囲み、無数の魔法使いがホウキに乗って飛び交う。
「……あれが、魔法学園……」
アキラは、喉元のタコの吸盤跡を無意識に撫でた。
四天王の刺客、メフィストが「理論」を語っていた場所。
そこは、知性という名のボケが、最も高度に練り上げられた魔境に違いない。
「アキラ殿、見てくれ! 学園の結界が、私の存在を拒絶している……!
不審者として捕まるかもしれない……。ああ、校門で全校生徒に尋問される私……最高だ!」
「不審者はお前や! 自覚があるならマントを着ろ!!」
アキラのツッコミが、学園の結界にビキビキと亀裂を入れる。
【アキラの現在の心境】
• 早く、まともな人間(ツッコミ仲間)に会いたい。
• 胃薬が、この世界の薬草では効かないことに気づき始めている。




