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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

あなたと同じ気持ち

作者: 夜月紅輝
掲載日:2026/02/14

 彼女からバレンタインをせがまれた。


 かれこれ三日前、一緒に下校していれば彼女である由梨から「もうすぐバレンタインだね」と言われ、「そうだね」と返事をすれば、「どうせ用意してないでしょ」と文句を言われたのだ。


 どうして自分があげるのか。

 確かに、世間一般的にはバレンタインは特別視されるだろう。

 しかし、自分からすればそれは日常の一部でしかなく、結局あるのはチョコのやり取りだけ。


 言ってしまえば、チョコなんていつでも買えるのだから、その時に買って食べればいい。

 わざわざバレンタインに特別感を出す必要もなく、だからそっちも無理に用意しなくていい。

 という気持ちを抱きつつ、それを言葉に出さずに、


「用意してない」


 と答えれば、


「必ず用意して! 欲しいから!」


 と強めの口調で言ってきた。

 そして現在、仕方なくバレンタイン用のチョコを作るためショッピングモールに来ている。


 一度先にスーパーに行ってみたのだが、さすがに味気なかったのでこっちに来た。

 いや、もっと言えば、種類もそこまで多くなかったというべきか。

 仮に既製品を送るにしても、既製品過ぎては由梨もガッカリするだろうし。


 もちろん、ショッピングモールぐらいの派手さなら既製品でも許されるだろうという希望的観測も含まれていることは否めないが。


「つってもなぁ、ここまであると逆に何がいいかわからなくなってくるな」


 男兄弟しかいない影響か、はたまた自分特有の感性によるものか。

 ともあれ、今の自分にはこの目の前に広がる赤やピンクの光景に目が酔ってしまう。

 見た感じ、どれも似たような感じだし......あ、でもギーナチョコは美味いっけ。


「いやいや、ここは由梨の好みを探すべきだろう」


 危うく自分の普段用を買いそうになって、咄嗟に伸ばした手を止める。

 といっても、由梨って普段何食べてたっけ?

 お菓子を食べてたイメージがあまりない。

 いや、それ以前に「今ダイエット中」とか言ってなかったっけ?

 そう思って連絡してみれば、


『ねぇ、ダイエット中だったような気がするけど、チョコ食べていいの?』


『約束覚えてくれてたんだ! 嬉しい♡

 その日をチートデイにするように調整してるから問題なし!』


「一声目がそれって......だいぶ信用無いな」


 ともあれ、食べる気満々な意思は伝わって来た。

 いや、考えてみれば、自分からせがんでくる時点で聞かなくても良かったか。

 まさかチョコをせがまれるなんて思ってなかったけど。

 ま、そういう所も可愛いからいっか。


「さて、言質も取れたことだし、選ぶとするか」


 一瞬、由梨に好みを聞くことも考えたが、たぶんあっちは自分の選んだものが食べたい気がしたから止めた。

 もちろん、推測の域を出ないので、間違っていたら今度美味しいお店でも一緒に食べに行こう。


「どれにするかなぁ......」


 棚に陳列する商品をジーっと眺めつつ、顎に手を当てて考える。

 お菓子をあまり食べない由梨のことだから、正直好みのチョコとかわからない。

 なので、少し彼女のことを振り返って考えてみるか。


 彼女である涯内(はてない)由梨は、有名な女子高に通う美少女だ。

 クリーム色の髪をし、ちょっとふわっとした所もあるけど、家庭的で真面目。

 たまたま同じ電車で痴漢されそうになったところを助けたら惚れられた。


 もちろん、最初は何かの勘違いと思ったけど、自分も察せないほど馬鹿じゃない。

 というか、もはやそれしか考えられないほどの猛アタックというか。

 正直、あんな出来事一回でこんな自分によく惚れたなという具合なのだが。


 だって、自分はただの一般高であり、偏差値だって由梨より劣る。

 それに目つきが鋭いと周りから避けられ、これまでモテたことが無かったのだ。

 それがまさか女子から告白されるとは。まぁ、おかげで退屈しないけど。


『まーちゃんのために腕をよりをかけて準備してるから楽しみにしててね』


「これは......遠回しに脅されてる?」


 「私が準備かけてるんだから、そっちも準備かけるよね?」と思えてしまうのは気のせいか。

 いや、さすがに邪推すぎるか、うん。

 でも、去年もせがまれて適当な既製品を渡した時は、だいぶ微妙な反応された......って、あっ。


「っぶねぇ......今、普通に既製品で行こうと考えてた」


 いやまぁ、去年が適当過ぎただけなのかもしれないが、また既製品にして同じ失敗を繰り返すというのもどうだろうか。

 となると、手作り? いやまぁ、経験がないわけじゃないけど、正直面倒だったからなぁ。


「ねぇ、何作るの?」

「えー、それ言ったらつまんないじゃーん」


「ん?」


 その時、隣からキャッキャしている声が聞こえてきた。

 その声に視線を向ければ、同い年ぐらいであろう女子二人が同じ棚の前で話し合ってる。

 恐らく、既製品を溶かしてそれで手作りのものを作ろうとしているのだろう。


 いや、手作りって言ったら大体そうか。かくいう自分もそれだったし。

 むしろ、カップケーキとかマカロンとかそっちを作る方が珍しかったというか。

 自分が作ったのだってせいぜいクッキーぐらいだ。もちろん、自分用だけど。


「でもまぁ、ヒントを言うとチョコ系じゃないよ」

「チョコの棚の前にいるのに?」

「前にいるのに。というか、もう既に渡す用の材料は買ってあるから、今は自分用なだけ」

「えー、それってなんかズルくない?」

「ズルくないよ。言ってないだけだし」


「......普通はこういうのも二人で来るもんなのか」


 自分は一人が好きな方なので、基本一人行動が多いが.....こういう時も誘った方が良かったか。

 確かに、そう考えれば由梨の好みも盗み見れるし、変に悩む必要がなかったかも。


 まぁ、さすがに今回はもう準備してるようだから、これは次のバレンタインンの時だな。

 問題はその時まで覚えてればの話だけど。メモってもメモしたことを忘れそうだし。

 とそれはともかく――、


「由梨のことを思い出して既製品はダメそうなのはわかった。

 となると、次は何をあげるかだが......正直手間がかかるのは嫌だな」


 あまり手間がかからず、されど美味しいものであればそれがベスト。

 そんなことを思いつつ、もうしばらく辺りを物色してみることに。

 そんな時間を過ごしていると、ふととあるポップに目が留まる。

 そこにあったのは既製品のマドレーヌであり、そのそばにある小さなポップには――


『マドレーヌには『もっと近づきたい』って意味があるよ!』


 と書いてあった。

 そういえば、バレンタインには渡すものによって意味があるんだっけ。

 そんなことを中学の時に聞いたことがあるようなないような。

 あれ? 兄ちゃんの彼女だっけ? うーん.......ま、なんでもいいか。


「意味ねぇ......由梨はどうだろ? そこら辺考えてんのかな?

 考えてそう。だって由梨だし」


 これまでの由梨を想起させると、この結論に辿り着く。

 だって、カレンダーで付き合った記念日には丸を付けてるみたいだし。

 そこら辺を踏まえた上で手の込んだものとか全然あり得そう。


「他に何個か意味があったはず......少し調べてみるか」


 というわけで、スマホの検索欄に「バレンタイン 意味」と入れて検索をかける。

 すると、パッと検索結果が表示され、その一番上にあるものをとりあえずアクセスしてみた。

 そこには先程のマドレーヌ同様に、いくつかの種類が意味を持っているようで、


「へー、マカロンって『あなたは特別な存在』って意味なんだ。

 で、ガトーショコラって逆に意味が全くない。

 グミは『あなたのこと嫌い』って......そもそも嫌いな相手にはグミすら渡さんだろ」


 しばしスクロールして内容を読みつつ、その中からの一つを選ぶことにした。

 その上でシンプルで......あ、そういえば、昔母さんが作ってくれたやつでハマったのあったっけ。


 そう考え、それに合わせた既製品のチョコを購入することに。

 もちろん、それは板チョコで手作り用のための材料である。

 それからたぶん家に置いてないだろうものも買って......と。

 だいぶ余るけど、これは何にでも合うから大丈夫だろ。


「よし、結局大事なのは気持ちのはずだ。由梨ならそこを考慮してくれるはず......たぶん!」


 そんな希望的観測をしつつ、商品を買って帰路に着いた。


―――バレンタイン当日


 その日は幸い土曜日だった。

 平日であれば、学校で渡すことができないため、チョコも溶ける可能性があっただろう。

 しかし、土曜日なのでその心配はない。


「お待たせ。ごめん、少し準備に手間取っちゃって」


「そんなことないよ。今日の由梨の服装も可愛いね」


「ありがと。まーちゃんも似合ってるよ」


 待ち合わせの公園で、由梨が足早にやってくる。

 二月であり、まだ寒さが厳しい中、今日の由梨は少し大人びた格好だ。

 それに加えて、自分はダウンジャケットにジーパンとラフな格好。


 もちろん、好きでこの格好をしてるわけだが、いつもより特別感がある今日であれば、もう少しオシャレな格好をしてきた方が良かっただろうか。


 ついつい由梨が「普段の格好で十分カッコいいよ」という言葉に甘えて、ラフな服装を選びがちだ。

 いやまぁ、この格好で会ってしまった以上、今更それを考えても仕方ないか。


「それよりも――ちゃんと用意してきたよね?」


「もちろん。あれだけせがまれちゃね。ちなみに、既製品じゃないから安心して」


「やったー!」


 たったそれだけの言葉で、由梨が満面の笑みを浮かべる。

 どうやら去年の既製品でだいぶ今日という日の信用を失っていたらしい。

 となれば、今日のもので少しはその信用を取り戻せればいいけど。


 そんなことを考える一方で、由梨は「そうと決まれば」と視線を巡らせる。

 それから空いているベンチを見つければ先に座り、隣のスペースを手で軽くタップした。

 どうやらここに座れということらしい。なので、指示通りに座れば、


「はい、早速だけど――これバレンタインの」


 そう言って、由梨はバッグから透明な袋をそっと取り出した。

 その中に入っていたのはマカロンだ。

 色もピンク、水色、茶色、黄緑とカラフルに用意されている。


「マカロンか、いいね。今食べていい?」


「もちろん!」


 許可も得た所で、その包装を開け、一つのマカロンを口の中に放り込む。

 すると、口の中にパァッと優しい甘さが広がり、少し噛めばすぐに溶けていく。


「美味しい......」


「ふふっ、本当に美味しいものを食べた時の顔してる」


「そ、そうなの? あんまり自分じゃわからないな......」


 両手で顔を包み込むように頬杖をつく由梨の上目遣いが刺さり、見られてることが少し恥ずかしくなる。

 たまに食べてる所を見られるけど、今日はなんか格別恥ずかしいな。


「照れてる」


「照れてない! はい、これ!」


 由梨のからかいを回避するように、自分も由梨用のものを取り出す。

 由梨と同じように透明な小袋を渡すと、外側から中身を見た由梨は、


「これ、抹茶チョコ?」


「正確には抹茶ホワイトチョコだけどね。昔、好きでよく作って食べてた。

 ちょっと抹茶みが強いのが好きだから、由梨の口に合えばいいけど」


「たとえ美味しくなくても、まーちゃんが気持ちを込めて作ってくれたなら全部食べるよ」


「あ、ありがとう......」


 足を組み、その上で頬杖を突きながら、顔を由梨から逸らす。

 しかし、反応は気になるため、視線だけは彼女の行動を追っていた。


「いただきます」


 そう丁寧に言って、由梨はアルミカップに入った一つを手に取り、カップを外して口の中にいれた。

 瞬間、彼女は頬を頬を緩ませ、その落ちそうになる頬を支えるように手を沿える。

 その反応を見て、ホッと安堵の息が漏れた。


「美味しい~♡」


「口に合ったようで何よりだよ。どうやら無事に去年のリベンジは出来たようだ」


「それなら、もうちょっと手の込んだものが欲しかったけど」


「うっ」


「うそうそ、冗談だよ。手作りを貰えただけで嬉しいから。

 それにこうして手作りにしておきながらチョコを選ぶ辺り......ねぇ、知ってる?

 バレンタインには渡すものによって意味があるらしいよ」


「......」


 そう言って、由梨はもう一つのチョコを口に含む。

 二個目というのに、反応は先程と同じで美味しそうに食べていた。

 そして口の中のチョコが溶け切ったのか口を開き、


「ちなみに、マカロンは『あなたは特別な存在』って意味なんだよ」


「......そ、そっか」


「チョコは......なんだろぉねぇ?」


 まるでこっちの気持ちを見透かしたような反応に、自分の頬に熱を帯びるのがわかる。

 に、ニマニマとしやがって。本当はなんとなくわかってるだろうに。

 あーもう、ウザい! 絶対にこっちからは言ってやらねぇ!


「アタシは何も知らねぇ!」


「そっか、ざんね~ん。なら、教えてあげる。チョコの意味は――」

読んでくださりありがとうございます(*^_^*)


たまには季節ものを書いてみようと思い、書いてみました。

楽しんでもらえたなら幸いです。

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