第7章 ペテン師と蕎麦
白い世界
『りんね』の中は人だらけなのだが、ある一角はまた喫茶店ではない。湯気が立ち上るだけでなく、天ぷら油が用意されている。
そんな中でやたらとでかい声で騒ぐ1人の男性。
「これ、髪の毛入ってる!どうやって作った。信じられん」
マスターがそんなミスするはずない。これはこの男性が望む食べもの。つまりは、正しいものだが、元からケチをつける為、望んだものだ。
「こんなんなっているから、なんかサービスせいや!」
マスターはあらかじめ用意してあった天ぷらの盛り合わせを無言で差し出す。
「わかっとるやないか?ならいただくわ」
奪い取るように受け取って食べ始める。彼の名は、悟という。
ペテン師で、ある時は小さな会社に潜り込んで信頼を得て、会社の金を奪って消える。ある時は、芸能スカウトとして、女性を騙して好き放題し、姿を消す。またある時は、布団販売で高齢者を騙して消える。
だが金が無くなり、最後は飲食店でケチをつけるまでになり、入った店が反社がらみで店側から依頼を受けた屈強なものからの暴力が原因で白い世界に来た。
「腹一杯になったし、行くわ。会計いらんでしょ?迷惑かけられた か・ら・な!」
元から会計などない。マスターが扉を手で指し示すと
「また来るわ、今度は髪の毛いれないでな」
と大声で言って、悟は光の中へ風を切って入って行く。
神の前
[願いを言え。ひとつ叶えてやる]
悟は言う
なら、また、人間に生まれさせて
[わかった]
神は願いを叶えた
新しい世界
悟がめを覚ますと砂浜だった。
周り一面水平線。
そしてかろうじて横になれる砂浜だった。
世界には悟だけ。他に人間はいない。誰もペテンにかけれない。
腹が減ろうが、喉が渇こうが、病気になろうが、身体の大部分を喪おうが、天寿を全うするまでは死ねない。
自殺することさえ出来ない。
島から泳いで行こうが、何もない。すぐ一周回って砂浜である。
その事実さえ、だれにもわからない。
神は気まぐれだ。ペテン師には神なりのペテンで、罰を与える。それも厳罰を。




