第4章 女性5人組と介護食
白い世界
変わらず神は人々の願いを聞き、時に笑顔で、時に冷徹に人々に話している。
『りんね』は喫茶店だが不思議と店内をいろんな形へと変えている。テラス席、窓から離れた席、カウンター、
中央席と様々だ。
今日は壁際の席て談笑している4人の妙齢の女性と傍に立っている少し若めの女性。
囲んで食事しているが食べているのは介護食なのである。もちろんマスターが提供している。
マスターは言う。
「何故、そのお姿なのですか?大変失礼なのですが、この店では姿が自由に変えられるのです。皆様なら、もっと美しいお姿に変えようと思えばいくらでも変化できますのに。そのお姿じゃ食事もされにくいのではありませんか」
妙齢の女性4人は、1人は片腕を吊っており杖歩行、1人は車いすで片足が無い、1人は目が見えにくそうにしており、1人は顔色が黄色くなっている。
「いいんです。この姿で。じゃないと彼が気づいてくれないかもしれないので。」
マスターは気になり、
「よろしければ、お話を聞かせて下さいませんか?」
女性たちは話し始めた
この女性4人は生前あるデイサービスに通っていた。
そこには1人の若い男性が働いていた。
彼の名は侑。
両親はいない。理由はわからない。ただ捨てられたことだけはわかった。施設で育った彼は御多分に洩れず、非行に走った。バイクを無免許で乗り回し、喧嘩もした。
が、彼には譲れないルールがあった。
こちらから先に相手を攻めることは絶対しなかった。
そして必ず自分より強い相手にしか戦わない。
弱いものいじめが大嫌いだった。
理不尽に対する抵抗なのかもしれない。
自分の生まれに起因しているのかもしれない。
はたまた前世のものなのかもしれない。
でも曲げなかった。
大人になってある漢と出会い、デイサービスで働くこととなった。漢は侑を家族のように可愛がり、漢が初めたデイサービスで一生懸命に働いた。そこに4人の女性は通っていた。
腕を吊っている女性は、
「彼は分け隔てなく真摯に私に向き合ってくれた。こんな体になってやけになってた私に」
車いすの女性は、
「彼は送り迎えしてくれた。片足が無く立ち上がることも辛い時も励ましてくれた」
目の見えにくそうな女性は、
「わたしは彼の顔を手探りで見ている時にいじわるでつねったり引っ張ったり叩いたりしても痛がらず、形わかる?イケメンやろ?と言ってくれた」
顔色が黄色くなっている女性は、
「私がガンでこんなに顔色が黄色くなっているのに、気を使っていつも通り接してくれた.気持ち悪く感じてもおかしくないのに」
そして口を揃えて
「この姿じゃないと彼が気づいてくれないかもしれない」
と
傍にいる女性は車いすの女性の娘なのだと言う。母の大分後から白い世界に来たのだが、母に会いたいと思っていると自然と喫茶店の戸の前だったという。
話を聞いていると新しいお客が来たようだ。店の前ではヨボヨボな姿だったが、入った途端に30歳くらいの優しい男性に変わった。そして壁際の席に手を振りながら歩いてくる。
「中根さん、奥村さん、志茂さん、橋本さんまでどうしたんですか?」
「侑くんを待ってたの。
みんなで。
一緒にいきましょ。」
6人はマスターに食事の御礼を伝えた後、光の中へと入っていった。
神は言う
[願いを言え。ひとつずつ叶えてやる]
4人の女性は
私を彼の母にしてください。
彼は
僕を待ってくれた皆さんとまた逢えるならどんな形でも構いません。
娘は
また母の子として生きたいです。
それを聞いた車いすの女性はギョッとし、内心こう思った。
あの子は私の世話で不幸にした。今度は幸せな家庭に生まれてほしい。
神は気持ちがわかる、隠し事はできない。
しかし難題だ。彼の魂を分けて産ませるか?いやそれでは娘とその母の願いが無理だ。
なんか手はないか
人間の世の中を見た神はひらめく。
[よし、みなの願い叶えてやろう]
神は車いすの女性にウインクして見せた。
新しい世界
とある庭先で3人の男の子に、1人の女の子が泣かされている。
そこに走って来て、女の子をかばう1人の男の子。
喧嘩になったが4人の女性が、走って来て男の子達を1人ずつ連れていった。
夕方
女の子と庇った男の子は母親が迎えに来て、別々の方向へと帰る。女の子が小さく手を振ると男の子は笑顔で大きく振り返す。幸せそうに帰って行く。
その姿を見ている4人の女性。
ここはとある保育園。
彼女達は残念ながら産みの母にはなれなかった。
しかし、数年間ではあるが、確実に『母』となった。
神は気まぐれだ。こっそり2つの願いを叶えたり、たまに難題を上手く解決し、6人全員の願いを叶えてくれる。




