第9章 料理人とチキンライス
白い世界も変わらないようで変わっているのかもしれない。
『りんね』の中には、この間のように匂いにつられてくるお客さんもいる。このカウンターに座っているコック帽をした男性もだ。
マスターは平皿の上に盛られたチキンライスを料理人に差し出した。一口食べると、
「こんな味してたのに、作れなくなってた、みんなに食べて欲しかったのに」
彼の名は和正。小さい頃から自宅で家族の食事を作ったりしていた。家業は農家であり、家族が田に畑に忙しくしている姿を見て、家族のために料理を作っていた。
そんな少年時代に彼の友達が遊びに来て、お腹を空かしているのを見つけると、簡単なチキンライスを作って出してあげた。
「なにこれ、ちょーうめぇじゃん!」
和正は嬉しかった。自分の料理を、家族以外の人に初めて食べてもらった。美味しいと言ってもらえる喜び。彼の中で料理人を目指すきっかけとなった。
彼は成長し、専門学校を卒業後、ホテルの調理場に就職した。しかし、中々修行は上手くいかない。そして金融不安が起こり、ホテルは潰れてしまう。
和正はいろんなところで修行した。料亭、レストラン、ラーメン屋、居酒屋まで和洋中関係なく。
頑張って自分の店を持つために。
ある程度お金が貯まった時、ある男が近づいてくる。
「いい居抜きの店舗があるんですが」
内見に行くと理想的な店であった。テーブルとカウンター、調理場からはお客さんの顔が良く見える。
「よし、決めました。契約お願いします」
和正は契約のために貯めていたお金を渡した。
しかし、和正は店を持つことが出来なかった。
ある男は姿を消した。あの男はペテン師で、何人も騙されていた。
和正はお金を失い、ショックの余り、料理をすることができなくなった。その後、白い世界へとやってきた。
ある男とは、あのペテン師の悟である。こんなところでも騙しやがって。
白い世界で、匂いにつられて入った喫茶店。
ショックの余りに、失ってしまった味。
和正は、ゆっくり味わいながらチキンライスを食べると、マスターにお礼を言って扉を出ていった。
神の前
[願いを言え。ひとつ叶えてやる]
和正は
料理人として、食べる人の喜ぶ顔が見たい
神は願いを叶えた。
新しい世界
行列の先にはあの居抜きの店舗。
「あのオムライスの店、とっても美味しいよね」
「チキンライスがいい味出してる」
「あの伝染病が流行っていた時も、パックに詰めて、うちでも食べれるようにしてくれた」
「コックさんが優しいんだ。いつも笑顔で」
店の中では、子供が目を輝かせながらオムライスを食べている。店の中がよく見える調理場からは、満員のテーブルとカウンターを見て、嬉しそうにフライパンを振る料理人がいた。
神は気まぐれだ。神のテーブルの上にはパックに入ったチキンライス。神も美味しいものには、弱い。
彼のために、あのペテン師は違う世界にしたことは、神のみぞ知るところである。




