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68.春の訪れと新たな物語の始まり

 ルシアとカレン率いる五番隊が大広間に突入してからおよそ三十分後、ビスタ、ガッドとともにおよそ三十名のカストール兵が合流した。

 さらに、それから遅れること三十分、〈漆黒の牙〉を退けたカペラからも三十名の兵が遺跡に到着したが、その頃にはすでに妖魔たちはすべて掃討されており、彼らの主な仕事は負傷者の救護と、遺跡の事後調査となった。


 妖魔たちに攫われた四名の娘たちは、憔悴しきってはいたものの外傷はほとんどなく、今は魔法薬で眠っている。この後、王都にて精神面の治療を受ける手筈になっている。



 洞窟の入り口前。

 兵士たちが慌ただしく行きかう中で、グレッグ、ロンド、ガッド、ビスタの四人は体を休めていた。

 すでに日は大きく傾き、夕陽が彼らの横顔を赤く照らしている。

 事後処理を担当するカペラ兵たちが、散乱する妖魔たちの死骸を一か所にまとめて火をつけ始めた。


 死んだ妖魔たちの焼却が完了したら、グレッグ達も兵団の馬車に乗せてもらってポルックスまで送ってもらう予定になっている。

 夜は闇の者たちの時間だ。

 本来なら日が暮れる前に一刻も早くこの地を離れたいところだが、大量の死体を放置すると、時に不死者として偽りの生を受け、徘徊することがある。

 放っておけば数日で『風化』する妖魔であってもそれは同じだ。そのため、退魔香を焚きながら、炎で焼却するのだ。


「……結局のところ、あれだけの数の妖魔(グリム)を、十人にも満たない〈星芒騎士〉とアリスの連れがほとんど全部倒しちまったな」


 ロンドがホブゴブリンに切り裂かれた腿をさすりながら、呟くように言った。

 骨が見えるほどまで深くえぐられたはずのその傷は、ルシアの治癒魔法ですでに完全にふさがっている。

 傷跡がわずかに残るばかりだ。


「ほんと、レベルの違いをまた見せつけられたよ」


 しみじみと言うロンドの背を、ビスタが平手ではたく。


「あたしたちも、そこそこ貢献したでしょ?ちゃんと女の子四人とも最後まで守ったじゃん。もっと胸張りなよ」


「あ、ああ……そうだな」


 夕陽に顔を赤く染めながら屈託のない笑顔を浮かべるビスタに、ロンドは苦笑して頷いた。


「ああ、そうだぜ。俺らも立派な英雄だろ」


 ガッドもドン、と胸の革鎧を叩いた。


「……とりあえず、あの状況を乗り越えて、こうして全員そろって生きてるんだから、それだけで十分だろ」


 グレッグが、優しい声で諭すように口を開いた。


「彼らと自分を比べる必要はねえ。俺達は俺達のペースで、これからもゆっくりやって行こうや」



     Ψ


 当初は三十強と推測された討伐対象は、蓋を開けてみれば総勢五百近く、しかもゴブリンロードを二体、ゴブリンシャーマン五体、他多数のトロールやオーガーを含む、かつてない規模の巨大な大群であったが、アリス達討伐隊とルシア・カレン率いる救援隊の活躍により一体残らず全滅した。


 エクレウスは後に合流したカペラ兵団によって拘束され、現在は王宮の地下牢に投獄されている。

 極刑を免れることはできないはずだ。


 首領の逮捕により〈漆黒の牙〉は事実上壊滅、一部の残党はまだ逃走中だが、大部分は掃討された。

 ゴブリンロード討伐の三日後、カペラ兵団長ダリエルの葬儀が執り行われた。

 アリス達も王都への帰還を遅らせ、葬儀に列席して棺に花をたむけた。

 ダリエルには妻子がいなかったが、面倒見がよく気さくな彼の死を悼む者は多く、百を超える参列者を数えた。


 ルシア達の救援があったとは言え、アリスの討伐隊の隊長としての功績及びゴブリンロードを討った功績は〈星芒騎士団〉内に留まらず、王宮内で高く評価された。

 当然と言えば当然だ。

 ゴブリンとは言え、五百にも及ぶ妖魔の大軍勢など、人々にとっては脅威でしかない。


 この功績が認められたことで、王都への帰還から二週間後、アリスは分隊の隊長に任じられることとなった。

 加えて、その他の討伐隊員にも特別ボーナスが支給された。

 ちなみに、ジェイクが消費した魔法石も、交渉の末すべて必要経費として認められたので、灰髪の少年はご満悦だ。



「ありがと。グレンディーノ」


 紅茶を淹れたカップを受け取り、セラフィナが笑顔で礼を言うと、長身の使用人は微かに微笑んで一礼し、部屋を出ていく。

 セラフィナは彼女の部屋から退室する使用人の後ろ姿を見送ってから、淹れたての紅茶を一口啜り、


「これはあなたの分のボーナスね」


 肩に乗るロロにクッキーを渡した。

 王室御用達のパティシエが作った、最高級の菓子だ。

 ロロは舌を伸ばして、それをペロッと食べる。


「ちょっと、ちゃんと味わってますかー?」


 セラフィナは笑いながらもう一つクッキーを取ってロロに差し出す。ロロはそれも一口で平らげた。


「……それにしても、お兄ちゃんにあの七番隊の隊長なんか務まるのかねぇ、ロロ?」


 ロロの頭を撫でると、ロロは「キュイ!」と気持ち良さそうに鳴いて、自分から頭をセラフィナの掌に擦り付けてきた。


 兄のアリスはこれから、新たに自分の(チーム)を率いて任務に臨むことになる。

 妹としては、ちょっと.....いや、かなり心配だ。

 戦闘技術だけならともかく、人見知りだし、コミュニケーション下手だし、そのクセに変に八方美人なところもあるし……まあ、この辺りは、あの頃よりは大分マシになったのだけれど。


「お兄ちゃんは結構抜けてるとこあるから、また私が時々面倒を見てやらないとね」


 そう言って、少女は窓の外に目を向けた。


 ——そうだ。あの時、自分が守ってあげると決めたのだ。

 あの時、あの場所から帰ってきた兄を見て。


 開け放たれた窓から、心地よいそよ風が吹き込んできた。

 ひんやりとした空気がセラフィナの亜麻色の髪を優しく撫でていく。

 早咲きの桜の花弁が、部屋の中へひらひらと舞い込んだ。

 テーブルの上に陣取っていたロロが、その花弁をパクっと小さな口でキャッチする。


 今まさに春を迎えようとするレグルスの城下町を、人々が慌ただしそうに流れていく。

 もうそろそろ、ローエンデール皇国との国交再開記念式典だ。

 祭り好きのナディアの国民性もあってか、早くも王都はどこもお祭り騒ぎだ。


「——とりあえずお兄ちゃん。隊長としての初仕事——記念式典デビュー、頑張ってね」


 Episode 1 fin.


これで第一部完結です!

読んでいただき、本当にありがとうございました!

少しでも面白かったと思ってもらえれば何よりです。

もちろん、アリスたちの冒険はまだまだ続きます。


一区切りなので、もしよろしければ評価や感想・ブックマークなどいただけたら、とてもとても嬉しいです!

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