59.規格外の援軍
————ズガガガガガガガガアアアアアン!!!!!!
耳を劈くような爆音とともに、目もくらむような雷光が広間を駆け巡る。
一瞬の後に二十を超えるゴブリンが黒焦げになって広間の石畳に転がった。
「!!!??」
「全員、生きているか!」
広間に続く階段の上から、若い女の声が響いた。
アリス達が見上げた先には白い鎧に蒼色のマントを纏った二人の女。
「……ルシア隊長!カレン隊長!!」
セラフィナが歓喜の声を上げた。
二人の女のうち、先に声を発した黒髪で長身の女が階段から飛び降りる。紫掛かったの銀髪の小柄な女もそれに続いた。
少し遅れて、さらに四人の〈星芒騎士〉が次々に広間に着地する。
周囲の妖魔たちは、数瞬前の雷撃のあまりの凄まじさに半ば呆然としているようで、新たに出現した六つの人影に襲い掛かるのも忘れているようだった。
その隙に、シュカがジェイクを片手で担いで、アリス達のもとへ素早く移動する。
ゴブリンたちはその二人を目では追うものの、先刻の稲妻を警戒してかその道を遮る者はいなかった。
「すまない、遅くなった。……『扉』の封印の解除に少し手間取ってな」
黒髪長身の美女がアリス達のもとへ歩み寄ってきた。
「思ったより『扉』がデカかったのでな。魔力の起動点が中々見つからなかったんだ。あいつの魔眼も、調査系は今日はもう打ち止めだったしな」
カレンはそう言いながら、緑色と紫色の液体の入った小瓶を一つずつ、アリス、シュカ、セラフィナに投げて寄越した。
「ほら!私のやり方が正解だったじゃん!」
受け取った小瓶のうち、まず緑色のほうを一気に飲み干してから、セラフィナが兄に向かって胸を張る。
「……まあ、終いには、焦れたあいつが周囲の壁ごと『扉』を吹き飛ばしたがな」
「隊長、フィナよりぶっ飛んでるな……」
アリスが呟く。
「もうちょっとで死ぬとこだったぜ」
ジェイクがカレンから受け取った青色の回復薬を飲み干してから、呟く。
「……グオオオオオオオウ!!」
その時、それまで祭壇の上で沈黙を守っていた巨大なゴブリンが凄まじい唸り声を上げた。
【戦女】と【魔女】が乱入する直前まで、眷属がアリス達をじわじわと追い詰めていく様を眺めながら高みの見物を決め込んでいた、貴族種二体のうちの片方だ。
その怒号が広間に響き渡るや否や、半ば呆気にとられるように新たな侵入者を見ていた妖魔たちが、我に返ったようにその目に怯えた光を宿しながら、広間の一角に固まったアリス達を取り囲み始める。
「カペラもポルックスも、同時に野盗の襲撃を受けていたけど、今はどちらも無事よ」
周囲を取り囲む夥しい数の妖魔を気にも留める様子もなく、ルシアが外の状況を端的にアリス達に伝える。
その間にも彼女はロンドの傍らに膝をつき、彼の腿の大きな裂傷に手を当て、治癒の魔法を施している。
アリスでは治せないであろう深い傷が、みるみるふさがっていく。
「あとはここを片付ければ終いだな」
カレンが片刃の大剣を軽々と右手だけで振り上げ、周囲を見渡しながら落ち着いた声で言う。
「とりあえず、さっさと始めようか。冒険者の方々は引き続きその少女たちを守っていただきたい。灰髪のキミもそちらに加わってくれるか?アリスとシュカはペアで、五番隊はフォーマンセルで行け。私とルシアはそれぞれ単独でやる。まずはトロールとオーガーを最優先に撃破。貴族種と邪霊師は後回しでいい。……それでいいな、ルシア?」
「ええ、いいわ」
カレンが問うと、ロンドに続いてグレッグの治療を終えたルシアは小さく頷いて答え、立ち上がった。
「では……行くぞ!」
そのカレンの声が、戦闘再開の合図となった。
死に物狂いの奇声を上げて、妖魔たちが群がってくる。
ジェイクはグレッグたちのところに残り、ルシアの治癒魔法で全快したグレッグとロンドが戦線に復帰。ジェイク、グレッグ、ロンドが前衛、フィナが後衛として再び防御陣形を築く。
カレンの指示通り、アリスとシュカがペアで、五番隊の四名がチームで妖魔たちを相手取る。そしてカレンとルシアがそれぞれ単独で敵を蹴散らしていく。
もはや、一方的だった。たった六名の増援にもかかわらず、凄まじい勢いで小鬼たちが絶命していく。
「……夢でも見てる気分だな……向こうは四百以上いたはずだが」
ロンドが広間の中央で舞う〈星芒騎士〉たち——特に、カレンとルシア——を横目で見ながら呟いた。
——だが、トロールとオーガーの数がおよそ半分くらいまで減った時だった。




