57.終わりの見えない持久戦1
「グルルアアアアアッ!!」
オーガーの棍棒が真上から振り下ろされる。
アリスは地を蹴ってその凶暴な一撃を躱すと、輝く大剣を下から振り上げた。
分厚い筋肉も太い骨さえもまるで紙でできているかのように、オーガーの丸太ほどもある腕が切り飛ばされ、宙を舞う。
「グウアアアアア!!」
腕ごと武器を失ったオーガーは、恐ろしい悲鳴を上げながらも、左手でアリスの頭を握りつぶそうとする。
アリスはそれを難なく躱すと、そのままその腕も切断しようと大剣を振りかぶるが、そこへもう一体のオーガーの棍棒が迫る。
「――くっ!」
それをなんとか大剣で受け流す。
閃光を放つ大剣の輝く刃が棍棒の端を切り取ったが、そもそも大木をそのまま引き抜いたような雑な造りのその打撃武器には大したダメージにもならない。
むしろそのとてつもない腕力によって繰り出された衝撃を完全に殺しきれず、アリスは思わず一歩後退する。そこに、今度はトロールの極端に長大な腕が襲いかかる。
「!!」
後ろへ飛んでその一撃を辛うじて躱し、振り向きざま火球を放つ。トロールの顔に炸裂し、一気に燃え上がる。
間髪入れずに地を蹴ってトロールに肉薄し、アリスは止めの一撃を放とうと光の大剣を振りかぶる。が、またもやそこへ、右腕を失ったオーガーが口から泡を吹きながらも、アリスの頭を踏み砕こうと右足を振り下ろしてきた。
「ちっ!」
地面を転がってその一撃を躱し、距離を取ると瞬時に立ち上がる。
(……ちょっと派手に挑発しすぎたかな?)
我知らず、アリスは苦笑していた。
救出した娘たちを守るシュカたちのほうへ近づけまいと、輝く大剣を手に広間を駆け巡り、片っ端から巨体を持つ妖魔たちの気を引いてきた。
そして今。気づけば三体を同時に相手にする羽目になっていた。
(……しかも一匹トロールも混ざってるし)
見れば、すでに顔面を高熱で焼かれたはずのトロールの顔は、ブクブクと汚らしい泡を生じながら徐々に再生し始めている。それは身の毛のよだつような光景だった。
「……まあ、やるしかないんだけど!」
なおも追いすがろうとする片腕を失ったオーガーの太い首を、切り上げた光の斬撃で切断すると、アリスはその振り上げた勢いをそのまま利用してもう一体のオーガーの腿を切り裂いた。完全に切断するには至らなかったが、オーガーは重心を崩され片膝をつく。下がったその頭を、アリスの上段の一閃が叩き割った。
ブシャアアアッ!!
左右真っ二つに割れた巨大な頭蓋から噴水のように血しぶきを噴き上げ、二体目のオーガーはゆっくりと崩れ落ちる。
だが大剣を振り下ろした直後のアリスの背を、間髪入れずにトロールの横殴りの巨腕が襲う。
「——!!!」
アリスは反射的に身をよじって大剣の腹でその凶悪な打撃を受ける。
《光の剣》の力に弾かれ、トロールの腕からもどす黒い血が迸るが、アリスはそれ以上に大きく弾き飛ばされた。
数メートル吹っ飛び、ゴブリンたちの群れに突っ込む。
だが光の剣のおかげで致命傷は免れた。起き上がりざま、大剣を一閃して群がってきたゴブリンを三匹同時に瞬殺すると、短い脚でドスドスと大地を揺らしながら迫ってくるトロールの顔面に、もう一度火球を叩き込む。
「ギィアアアアアアアッ!!!」
よろめき進軍が止まる巨大な妖魔の背後に素早く周り、アリスはその背に横なぎの一閃を放った。ぶよぶよとした皮膚の奥にある肉が大きくえぐれる。
だが、それも致命傷には至らず、すぐにブクブクと再生が始まる。
まだ顔が炎に包まれているトロールは、闇雲にその長大な両腕を振り回した。身をかがめて躱すアリスの亜麻色の髪が数本、ちぎれて宙を舞う。
「もう一発!」
ゴウッ!!
アリスは跳躍すると、ようやく火が弱まってきたトロールの後頭部に、もう一発ダメ押しの火球を放った。
三度炎に包まれ、半狂乱に暴れまわるトロールの背に輝く大剣を突き入れる。
刃渡り一・二メートルの刀身がするりとその分厚い脂肪を突き破り、巨大な心臓を斜め下から貫いた。
「ゴボアッ!!」
口から大量の血を吐き、巨大な妖魔がついに倒れる。
「……これは、そう長くは持たないな……」
肩で息をしながら、アリスは呟く。
「……まだか?」




