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56.無謀な救出作戦2

 娘二人を守る陣営は、シュカ、グレッグ、ロンドの三人が前衛としてお互い一定の距離を取って得物を振るい、その鉄壁の防衛ラインに守られながら、後衛のセラフィナが火炎魔法を連発して前衛に襲い掛かる妖魔の群れを焼き払う。


「あっちはオーガーかトロール以外に崩される心配はねえな。シュカにはシャーマンの魔法も大して聞かねえだろうし……」


 シュカたちの完璧に見える陣形(フォーメーション)を横目で見ながら、ジェイクが誰にともなく呟く。そこへ、トロールの棍棒が迫る。


「うおっと!!」


 咄嗟にかがんで躱すと、トロールの一撃はジェイクの髪をかすめ、勢いそのままにジェイクのすぐそばにいた哀れなホブゴブリンの顔面を叩き潰した。


 トロールは身長こそ三・五メートルと、オーガーとほぼ同等だが、筋骨隆々のオーガーのさらに倍ほどの体重を持つ、最大・最強の妖魔(グリム)だ。“岩重鬼”または単に“岩鬼”と呼ばれることもある。


 青緑色のぶよぶよとした肌、そして明らかにバランスの悪い巨大で長い腕。腕の長さは同じ身長のオーガーの倍、太さは三倍近くある。

 直立していても地面に届きそうな程異常なまでに発達した巨腕とは対照的に、太いが極端に短い脚。


 そして何よりトロールの最も厄介なところは、極めて高い再生能力を持つことだ。かなりの深手を負わせても、命を絶たなければ短時間でたちまち回復してしまう。


(……他人の心配なんかしてると、オレが一番最初に死ぬな、こりゃ)


 後ろに飛び退ってトロールから距離をとると、ジェイクは腰のポーチをまさぐった。ポーチに差し込んだ指に五つほどの球体の感触が伝わる。


(出し惜しみしてる場合じゃねえな)


 ポーチの中から緑色の球体をとり出すと、トロールに向かって投げつけた。

 球体がトロールのぶよぶよとした醜い腹にあたって割れると、次の瞬間複数の風の刃が出現し、トロールの巨体を一気に包み込むと恐ろしい勢いで全身を切り裂いた。


「ガ、ガアアアアアアア!!!?」


 トロールの絶叫が広間に木霊する。

 だが、全身から激しく血を吹き出しながらなお、トロールは倒れなかった。生々しい傷も、ゆっくりとふさがっていく。


「ちいっ!いくらすると思ってるんだよ!」


 ブクブクと泡を立てて傷口の再生が始まったのを見ると、ジェイクは即座に第二撃となる球体をとり出す。今度は青い輝きを放っている。


「……ちゃんと経費で落ちるんだろうなああ!!?」


 落ちなかったら大赤字だからなっ!?と叫びながら、青色の魔法石をトロールに投げつける。

 二撃目も狙い過たずにトロールに直撃すると、今度は突如として強烈な吹雪が巻き起こり、たちまちトロールを氷漬けにしていく。

 トロールの動きがだんだんと緩慢になり、やがて氷の中に閉ざされて、止まる。


「……!!」


 いや、止まったかに見えたが、徐々に氷に罅が入り始める。パキキッ……と音を立てながら、ゆっくりと腕が動き始める。


「いい加減、死んどけよ!」


 ジェイクは動き出そうとするトロールの体を駆け上がって中空に舞い上がると、逆手に持った小短剣(ダガー)を振りかぶり、巨大な妖魔の背後から、首の付け根に振り下ろした。


「グボアッ!!」


 刀身が根元まで突き刺さる。だがそれでもトロールは動きを止めない。巨大な両手がジェイクの細い体を握りつぶそうと迫る。


「しつこいんだよ!」


 ジェイクは流れるような動作で腰のホルスターから拳銃を抜くとトロールの後頭部に銃口を押し付け、引き金を引いた。


 パアアンッ!


 乾いた音が響く。

 ゼロ距離で射出された銃弾が頭部を貫通し、トロールの眉間から血が吹き上がる。

 ビクッと一度、巨体を大きく振るわせたかと思うと、トロールはゆっくりと倒れ始めた。

 ジェイクはうまく身を翻して軽やかに着地する。


 ズウウウゥゥゥゥン……!!


 砂煙を巻き上げて、青緑色の醜い巨体が、地面に倒れ伏した。


「一匹斃すのに最上級の魔法石二つ……ちくしょうっ、割に合わねえ!」


 灰色の髪を掻きむしりながら、ジェイクは不機嫌そうに吐き捨てた。


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