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55.無謀な救出作戦1

「おらぁぁあ!!」


 掛け声とともにジェイクが直径三センチほどの小さな球体を、祭壇の下、ゴブリンたちがうごめく中心に投げつける。


 ズドオオオオオオオオンッ!!!


 ゴブリンたちの頭上で球体が破裂し、凄まじい轟音が響く。


「三、二、一……!!」


 直後にまたジェイクの声が木霊する。

 同時にゴブリンの群れに躍り込んだアリス達は、敵の群れの真っ只中であるにも関わらず、全員がさっと視線を地面に向ける。

 一方、轟音に驚いたゴブリンたちは、一斉に球体が破裂した中空に目を向けていた。


「よっく見ろ、腐れ妖魔どもぉ!!」


 次の瞬間、同じ場所で、今度は凄まじい閃光が迸った。


 大多数の妖魔たちが、その暴力的な輝きに目を灼かれる。

 それでなくとも暗闇に潜み光を嫌うゴブリンたちは、醜い悲鳴を上げながら、目を押さえて地面を転がった。


「よし、今だ!前半はさっきの作戦通りで!」


「作戦と呼べるほどのものでもねえけどな!」


 アリスの掛け声と、シュカの減らず口がゴブリンたちの悲鳴の渦の中でも仲間たちに届いた。

 各々のたうち回るゴブリンを蹴散らしつつ、着地点から一斉に四方に散らばる。


「まだまだぁ、終わりじゃないぜえ!」


 ジェイクが今度は祭壇に向かって煙玉を連投する。あっという間に煙が祭壇全体を包み込む。

 その煙の中へ、真っ先にシュカが輝く薙槍(グレイヴ)を振りかざして突っ込む。


「俺達も行くぞ、ロンド!」


「おう!」


 シュカの後ろにグレッグとロンドが続く。


 アリスは一人、祭壇から離れた場所で武器を振るう。

 先陣を切って煙に包まれた祭壇に突っ込むシュカと、広場の中心で縦横無尽に駆け巡るアリスが手にしているのはどちらも〈星芒騎士〉の標準装備である細剣(レイピア)ではない。


 シュカは薙槍(グレイヴ)、アリスは大剣(クレイモア)を《光の剣(レイブレード)》の魔法で強化して戦っている。

 凄まじい威力だ。ホブゴブリンの分厚い胴が、紙切れのようにサクサクと切断されていく。

 だが、細剣以上に魔力の消耗は激しい。


 ジェイクとセラフィナは敵の手薄なところに向かって絶えず移動しながら、セラフィナの火炎魔法で小鬼たちを薙ぎ払っていた。敵に囲まれないよう常に走り続けている。

 ジェイクは時々煙玉を投げる以外は、攻撃はセラフィナに任せて、彼女の守りに徹している。


「よし、人質は保護したぞ!!」


 まだ煙に包まれている祭壇から、グレッグが、続いてロンドが、一人ずつ娘を抱きかかえて飛び出してきた。その後ろにシュカが続く。そしてシュカはすぐに前の二人を追い越すと、ゴブリンたちを薙槍(グレイヴ)で薙ぎ払って道を切り開く。


 そのまま広間の隅まで駆け抜けると、グレッグたちは娘たちを床におろし、二人を守る形でシュカ、グレッグ、ロンドが振り返って得物を構える。


 と、シュカが身体を沈めて地面に右手を当て小声で呪文を詠唱し始める。にわかに彼の身体が淡い光を放ち、短髪がゆらゆらとかすかに揺れる。


 ゴゴゴゴゴッ——!!


 地響きを立てながら、瞬く間に地面の石畳が盛り上がり、シュカの周囲にいくつもの石柱が生成される。


「地属性の精霊魔法か!」


「すごい……一気に要塞が出来上がった!」


 グレッグとロンドが感嘆の声を上げる。


「あんまし期待すんな!俺の魔力じゃ全部を石壁で覆うことはできねえし、この程度じゃあ重量級どもにはちょっとした障害物くらいにしかならねえ!」


 だがシュカは肩で息をしながら二人に忠告する。


「わかってる。でもおかげで格段に戦りやすくなったさ」


 グレッグが戦斧を構え直して不敵に笑う。


 彼らの周囲に生み出された複数の石柱は圧倒的な物量で押しつぶそうと迫る妖魔たちを分断し、少数で彼らの下へ向かわざるを得なくしている。


 一方で娘たちを背に陣を引くグレッグ達一人ひとりの周りには十分に彼らの大きな武器を振るうスペースが確保され、石柱の合間を縫って迫りくる理不尽な数の妖魔どもを各個撃破に近い形で迎え撃つことを可能としていた。


『おいアリス。トロールとオーガーはそっちでなんとかしやがれ!奴らに石柱ごとぶっ壊されたら元も子もねえし、こっちはこれ以上魔力を使ったら光剣を維持できねえ!』


『分かった!!』


 シュカが魔石を通してアリスに呼びかけ、アリスもそれに応じる。


 アリスは雑魚を蹴散らしながら、巨体の妖魔(グリム)たちの意識を自分にだけに向けさせるべく、輝きを放つ大剣と魔法を駆使して広間を縦横無尽に駆け回っている。


 その間にセラフィナもシュカたちの陣形に合流する。一方、ジェイクは彼女のそばを離れ、アリスと同じように敵を攪乱する役割に加わった。


 ゴブリンたちは石柱を抜けてシュカ達に迫る一方で、別の一団が広間と上の階を結ぶ唯一の階段を埋め尽くし、肉の壁を築いていく。


「くそっ!出口が塞がれた!これでもう、脱出はできなくなったな……!」


 ロンドの掠れた叫びに、グレッグは振り返らずに言葉を返した。


「……俺達もいよいよ覚悟を決めるしかないってことさ」

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