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53.戦女と魔女

 ——ズガガガガガガガガアアアンッツ!!!


 ガッド達とエクレウス達の間に、雲一つない晴天から巨大な稲妻が落ちた。

 土煙が舞い、地面に転がっていた妖魔の死骸が何体も吹き飛ぶ。


「!??」「!!?」「!?!」


 まさに青天の霹靂。

 両陣営とも何が起こったか全く理解できないまま、すべてが静止する。あたかも時間そのものが止まったかのようだった。


「——どうだルシア、言ったとおりだっただろう?馬鹿な奴ほど、勝手によく喋る。焦ってすぐに殲滅しなくて正解だったな」


 煙が立ち込める中、〈漆黒の牙〉とエクレウスがいるのとは反対側から、若い女の声が響いた。


「……確かに、おかげでだいたい事情が分かったわ。とは言っても、くだらない……本当にくだらない陰謀だったけどね」


 別の若い女の声がする。


「ちなみに『妖を統べる王』ってなんだ?三百年前とか言っていたが」


「私も聞いたことがないわ。少なくとも今の私の知る限りはね」


「お前が知らないなら、そんなものはハナからないんだろう。この狂人の世迷言か」


「私だって何でも知ってるわけじゃないわ」


 立ち込める煙の中で、若い女たちの会話だけが続く。


「だ、誰だ!?」


 堪らず悲鳴じみた誰何の叫びを上げたのは、エクレウスだ。

 だがその疑問だけはガッドもビスタも同様に抱いていたものだった。全く見当がつかない。


 やがて煙が徐々に収まっていく。

 煙が完全に晴れると、そこには白い鎧を纏った二人の若い女が立っていた。

 そしてその横にちょこんと座る、黒い猫。


 いやよく見ると、二人の女の奥には同じように白い鎧を身に着けた男が三人、女が一人。合計で六人と一匹だ。


「あんたらのその鎧……!」


「〈星芒騎士〉!?なんでここに?」


 驚愕するガッドとビスタのもとに、黒髪で長身の女が歩み寄ってくる。一人だけ、身に着けている鎧が全身鎧(フルプレート)に近い。少し遅れて奥にいた四人もこちら側へ歩いてきた。


「怪我はないか?こちらの都合ですぐに助けに入らず、すまなかったな」


 長身の女がガッドとビスタの前まで来て、二人に声を掛けた。


(……すっごい美人!)


 ビスタが思わず見惚れて声を出すのを忘れている間に、長身の女の後についてきた四人がてきぱきと行動を開始した。

 四人のうち一人の女が、震えている二人の娘の前で膝をつくと、腰のポーチから何かを取り出し、二人に飲ませ始める。

 残りの三人の男たちはそれぞれ一定の間隔をあけて、娘たちを守るような位置まで移動して立ち止まると、各々、腰の細剣を引き抜いた。


「……あ、あなたたちは?」


 ビスタが我に返り、何とか言葉を紡ぎ出す。


「私はカレンだ。〈星芒騎士団(スターナイツ)〉五番隊の隊長をしている。彼らは私の部下だ。それと、あっちにいるのが一番隊隊長のルシア」


 黒髪の美女が落ち着いた低い声で答える。


「カレン?ルシア!?あの【戦女】と【魔女】か!?」


 その説明に、ガッドが目を丸くする。ビスタも同じだ。


「アリス君たちの隊長さん!?昨日、近くまで来てるって聞いてたけど、でも何でここに……?」


「理由は後で話そう。だがその前に、貴方たちのほうの状況を教えてはもらえないか?アリス達は、今、洞窟の中……というか、あの男の話だと『遺跡の中』と言うことになるかな?」


 カレンと名乗った女が洞窟の入り口を見やって尋ねた。


「……教えるのは良いけどよ、その前にまずはあいつ等をなんとかしてからだろ」


 ガッドがエクレウス率いる〈漆黒の牙〉のほうへ視線を向けた。

 落雷があった地点に一人残った小柄な女——ルシアと呼ばれていた——と黒猫を、十二人の黒装束の男たちとエクレウスが取り囲んでいた。


「これで八対十三か。まだ数じゃ負けてるし、俺もケガ人だが、あんたらがいてくれれば何とかなりそうだな」


 予想外の援軍に士気がみなぎってきたガッドだったが、カレンの回答は意外なものだった。


「ん?ああ、いや。あいつ一人で大丈夫だ。あとでいろいろ聞き出したいしな」


 言葉の意味が良く分からない。

 だが、他の五番隊の隊員たちも、ルシアのもとへ行こうとはしない。

 相変わらず女の騎士は娘二人の介抱をしているし、残る三人も、黒ずくめの集団から矢が放たれても瞬時に迎撃できるよう油断なく構えてはいるが、その場を動こうとはしない。


 その間にも、ルシアと黒猫を囲む黒装束たちの包囲網が少しずつ縮まっていく。


「……おのれ、魔女め……!!」


 エクレウスは最初、明らかに動揺しているようだった。怒りと焦りで目が血走っている。

 しかし、残りの五人がかなり離れたところに陣取ったまま、加勢してくる様子がないと気づくと、口の端を釣り上げた。


「救世主のつもりだったか?だが少し人数が足りなかったようだな。まずは貴様から始末してやろう。残念だったな、貴様ほどの上物、星の騎士でさえなければ生かしてやっても良かったのだが」


 凶悪な表情を顔に貼り付けたまま、エクレウス自身も剣を構え、少しずつルシアとの距離を詰め始めた。それに合わせて、残りの十二人の野盗たちもさらに包囲網を縮める。

 だが、紫色の髪をした小柄な女は、一瞬たりとも動じる素振りを見せなかった。


「あなたに構ってる時間はないの」


 紫の長い髪が、風もないのにゆらゆらと靡く。その紫水晶(アメジスト)の瞳が徐々に紅玉(ルビー)色に変わり、そして妖しく輝き始める。


「……しばらくの間、大人しく寝てなさい」


 静かな声がルシアの美しい唇からこぼれる。——と、一瞬の後。周りを取り囲んでいた十二人の黒ずくめの男たちがバタバタと倒れた。


「……き、貴様、一体何を!?」


 驚愕と恐怖の色を湛え薄茶色の瞳を見開いたエクレウスに、ルシアはもう一度、囁くように告げた。


「眠りなさい。あなたも」


 次の瞬間、エクレウスの目が焦点を失ったように虚ろになり、そして膝から崩れるように前のめりに倒れ伏した。

 地面に突っ伏した男の後頭部に、何故か黒猫がしきりに猫パンチを見舞っているが、エクレウスは微動だにしない。


「え?いや……え?」


 あまりの光景に思考が追いつかないビスタとガッドを他所に、小柄な女が振り返った。

 耳に着けた紅玉が揺れる。


「アリス達は……遺跡の中ですか?」


(うわっ……この人も超美人!!)


 ビスタがまた息を飲んだ。

 だがビスタを見るその美しい紫水晶の瞳には、微かな焦りの色が浮かんでいた。


お読みいただきありがとうございました!

もしよろしければ、厳しめなのご意見も含めて正直な評価・感想などいただけるととても嬉しいです。


これで第五章は終わりです。次回は第一部の最終章に入っていきます!


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