51.『生命の誓約』
「——『生命の誓約』だと!?」
「ふん、そう言えば貴様も一応魔法使いだったな。……その通りだ」
エクレウスが冷たい目でガッドを一瞥する。
「オイオイ冗談だろ?相手は妖魔だぞ!?」
「何?……何の話?」
一人意味が分からないビスタが、エクレウスを見据えたままガッドに尋ねる。
「お前の言う通り魔法の巻物の一種ってのは間違いねえ。……まあ簡単に言うと、約束を破ったヤツを問答無用でぶっ殺す魔導具だ。その性質は魔法って言うより呪いの類に近えがな。約束する奴が本心からその覚悟を持ってねえとそもそも誓約自体が成立しねえが、逆に言えば一度あの魔法の巻物にその誓いが刻まれれば、どんなに強え野郎でも約束を破った瞬間、絶対に死ぬってシロモノだぜ」
ガッドも身構えたまま、ゆっくりと答える。
「何、その物騒な魔導具……!」
「魔法の巻物としては、実はそんなにレアじゃねえ。つっても、持ってるだけでも牢屋行き確定の禁呪だがな。けど妖魔になんて効果があるわけねえんだよ。そもそも言葉が通じねえだろが」
「フッ……もし言葉が分かるゴブリンがいたとしたらどうだ」
さも勝ち誇ったように、エクレウスが初めてガッドにも笑みを向けた。侮蔑の込められた邪悪な微笑みだったが。
「ふざけろよ。言葉をしゃべるゴブリンなんて聞いたことがねえ!」
「百歩譲ってゴブリンが言葉を喋れたとしたって、なんであんたなんかに命を差し出すのよ?割にあわないでしょ!」
ガッドに続いてビスタも思わず叫ぶ。平常心を保とうと心掛けていたつもりだが、気づけば声が上ずっていた。
「『魂贄の呪詛』の情報と、それによってもたらされる強大な力と引き換えに、さ。今の力がなければいくら貴族種とは言え、遅かれ早かれ王国の軍隊か、さもなくば冒険者どもに殺される運命だったからな」
対するエクレウスは、ガッドの言葉は完全に無視した上で、ビスタにのみ答えた。
「信じられない……人間が妖魔を従えるなんてこと、本当に有り得るの……?」
「この『誓約』がある限りはな。私は自らの手を汚すこともなく、国を浄化することができるわけだ」
ビスタの青ざめた顔を見て、エクレウスは嬉しそうに口元を歪める。
「けっ、馬っ鹿じゃねえのか!?このイカレた蛆虫野郎!」
それまで我慢していたガッドが、今までよりひと際声を張り上げた。
そして、ちらっとビスタの顔を見る。
ビスタはやれやれという顔をしていたが、今度は止める風でもない。
もうこれ以上、欲しい情報は得られないし、たぶんこれ以上時間も稼げない、と思ったからだ。
いや、何より彼女自身も、エクレウスの嫌らしい視線に耐え続けるのは、正直なところそろそろ限界だった。




