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48.〈漆黒の牙〉の首領

 ビスタは撥ねるように立ち上がり、二振りの短剣を瞬時に抜き放つと、まだ目を覚まさない二人の少女を守るように立ちはだかり、素早く周囲に視線をめぐらす。


「……十二、いや十三!」


「野盗?あの恰好、〈漆黒の牙〉ってやつらか!?」


 周囲の崖に身を隠す人影をビスタが素早く数えるのと同時に、ガッドはそのうちの数人の服装をはっきりと視界の端に捉えた。黒いローブ、そして黒い覆面。


「ちっ」


 ガッドは左手の三本の指で広刃剣の柄を握ったまま、親指と人差し指でつまんだ『呼声の魔石』に魔力を籠める。


 ギュン!


「——!!」


 だが、魔力を発動するより一瞬早く第二射がガッドに迫る。


「ガッド!」


「くっ!」


 慣れない左手でなんとか剣を振り抜き、二本目の矢を打ち落とす。


 しかし、剣の柄を握りなおしたタイミングで、耳飾りが指から離れた。

 フルスイングに合わせて宙を舞い、数メートル前方へ——襲撃者たちのほうへ——落下する。


「……くそったれ!」


 ガッドは魔石の回収をあきらめ、ビスタとともに娘たちを守る位置まで後退する。


「え!?何??」

「……もういやあ!!」


 気づけば、娘は二人ともすでに目を覚ましていた。

 魔法薬の効果も切れるころだったから、耳元で戦闘が繰り広げられていれば当然の結果だ。二人はお互いにしがみつきながら、ガタガタと震えている。


「ごめんね。最悪のお目覚めになっちゃったね……でも大丈夫だから」


 少しでも落ち着かせようと優しい声を掛けるビスタだが、その額には冷や汗が滲んでいる。


「魔物ならまだしも、このタイミングでこんな場所に野盗だと?ふざけろよ!」


「……待って、あいつ……!」


 ガッド達を取り囲む人影の中から、一人の男がゆっくりと歩み出てくる。

 その男だけは、明らかに他の者と身なりが異なっていた。

 黒色のローブを羽織ってはいるが、その下には鉄色に輝く軽板金鎧(ライトプレートメイル)。覆面もしていない。青みがかった長髪で、色素の薄いブラウンの瞳をしている。

 ゴブリンたちが作った雑な道、そこに転がる無数のゴブリンたちの死骸を汚物を見るような目で一瞥すると、そのまま真っすぐにガッド達に近づいてくる。


 そして、地面に転がったアリスの耳飾りの前まで来ると、さも当然のように踏みつぶした。


「……あんたは、確かカペラ兵団のナンバー2……?」


「騎士エクレウスだ」


 ガッドの問いに、その男は無表情に答えた。


「なんでまたカペラのお偉いさんがこんなところに?しかもこれってどういうこと?助けに来てくれた……ってわけじゃないよね?」


 二刀流の短剣を油断なく構えたまま、ビスタが感情を押し殺した声で尋ねた。

 彼女の背後では、二人の娘が震えながら、目に涙を溜めて成り行きを見守っている。


「この状況を見れば、阿呆でも大方察しはつくだろう」


 エクレウスはビスタを見て、ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。


「そう……七年もの間ずっと追いかけっこをしていたカペラの幹部と反乱軍の残党が、実は裏で繋がってましたってことね」


「その通り。この私こそが〈漆黒の牙〉の首領だ」


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