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46.妖魔の巣窟

「くっせえなあ、スラムに慣れてるオレでも鼻が曲がりそうだぜ」


 アリスとシュカが灯す魔法の光とロンド達が持参した陽光石で照らされた洞窟内を進みながら、ジェイクが大げさに鼻を押さえながら不平を漏らした。


「うるっさい、私だって我慢してるんだから、いちいち言わないでよ!」


 セラフィナがイライラしたようにジェイクを睨んだ。


「……敵の巣穴に潜入してるのに、そんな大声を出して大丈夫なのか?」


 ロンドが焦ったような声を漏らす。


「心配すんな。魔法や陽光石で道を照らしている時点で、隠密行動なんてできねえよ。そもそも今更コソコソすることに意味もねえしな。それより、罠と奴らの奇襲に警戒してくれ」


 シュカが抜き身の細剣(レイピア)を片手に、ロンドに答えた。

 オーガーを飼っていただけあって、比較的天井は高いが、それでもところどころ狭い通路がある。この洞窟内で、シュカの愛用の薙槍(グレイヴ)を振るうのは得策ではない。


「た、確かにな」


「それよりジェイク。余計なこと言ってないで、罠がないかはちゃんと確認しろよ?そのためにお前を連れてきたんだから」


「分かってるって。でも今んとこ、その気配はねえな。もっとも、この巣穴に俺達を誘い込むこと自体が罠だとは思うけどね」


 アリスの苦言にジェイクはしれっと答える。


「……そんなことは、分かってるよ」


 一行が悪臭の漂う洞窟を、罠や奇襲に警戒しながら注意深く捜索することおよそ三十分。その間、一体のゴブリンとも出くわさない。もちろん、連れ去られた二人の娘の影も形もなかった。


「……どう考えても、ここだろうな」


「ああ、隠されてるけど、微量の魔力を感じる。間違いねえな」


 洞窟の最奥の一角で腕を組んで言うジェイクに、シュカも同意した。


「そ、そうなのか?」


「……ただの行き止まりにしか見えねえが」


 ロンドとグレッグはただ首を傾げるだけだ。ちなみにロロも、フィナの肩の上で首を傾げるような仕草をしている。

 そこは今まで通ってきた道と比較するとやや天井が高いものの、それ以外は他の場所と何の違いもロンド達には見いだせなかった。


「うーん、確かに。実際にここまで近づくと、魔力の残滓がはっきりと分かるね……」


 だが、セラフィナも岩壁に右手をあてながら、ジェイクたちに同意した。


「で、問題は、どうやってこの扉を開くかだけど……」


 アリスが岩壁をコンコンと細剣の柄で叩きながら、顎に手を当てて考える仕草をする。


「私とロロに挽回させて」


 セラフィナが進み出た。


「いやさすがに岩を火で溶かすことはできないんじゃないか?」


「まあ、大丈夫だろ。仮にも魔導士なら、いろいろとやり方はあるだろうからさ」


 グレッグの素直な疑問に、ジェイクは頭の後ろで手を組んで他人事のように答えた。


「どうやるか、見物しようや」


 ジェイクの言葉に応じてグレッグとロンドが岩壁から離れた直後。


「いくよ!……《火蜥蜴の息吹(サラマンダーブレス)》!!!」


「——いや他にもあるだろうがよっ!?」


 思わず速攻で突っ込みを入れたのは、もちろんジェイク。


 凄まじい紅炎が岩肌に直撃する。その炎がまるで生き物のように、岩壁の中心から四方八方に這うように広がっていく。

 瞬く間に高さ四メートル幅六メートルほどが炎に包まれる。と、一呼吸の後に、炎に包まれた岩壁の左端、地面から一メートルほどの地点が、炎の輝きとは明らかに別の、青い光を放ち始めた。

 大きさは直径五センチほどだ。


「ロロ、あそこ!」


「キュイ!」


 セラフィナの声に短い鳴き声で答え、ロロは少女の肩からまるでムササビのように飛び降りると、燃え盛る炎をものともせず、青い輝きを放つ地点にするすると這い上がっていく。


 そしてその地点に到達すると、頭突きをするように勢いよく頭を押し付けた。


 ガコッ、……ゴゴゴゴゴゴゴゴ……


 地響きのような音とともに、それまでただの岩にしか見えなかった壁面に縦四メートルほどの亀裂が入り、ゆっくりと岩壁が消滅していく。


「……もっと違うやり方があっただろ」


 あきれ顔で妹を見るアリスに、


「そこら中にあたりを付けて魔力を込めてみるより、こっちのほうが早いでしょ」


 セラフィナは悪びれた様子もなくしれっと言ってのけた。


 ゴゴゴゴゴゴゴ……


 徐々に亀裂が左右に広がっていく。

 数十秒の後には、アリス達の前に幅およそ四メートル、高さおよそ四メートルの大穴が空いていた。


「……おいおいおい、まじかよ」


「勘弁しやがれ……」


 ジェイクとシュカが目の前に広がる光景を見てほぼ同時に声を漏らした。


 大穴の向こうは巨大な地下空洞になっていた。

 そして大穴から伸びる石造りの長い長い階段が続く先。そこには明らかにゴブリンとは違う、人間の手で作られた広大な建造物が広がっていた。


「……古代遺跡、だと!?」


「ポルックスのこんな近くに……!」


 グレッグとロンドの声も、驚愕に満ちていた。


「下手したら、あと百、二百はいるかもね……」


 眼下に広がる巨大な建造物に、いつも強気のセラフィナも戦慄したように呟いた。

 アリスは、ゴクリと喉を鳴らしてから、何とか声を絞り出して皆に告げる。


「……とにかく、攫われた人たちを探そう」


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