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44.決断

「相変わらず、カペラには連絡が繋がらないままだよ。試しに魔力を注いでみたけど、全然ダメ。ダリエルさんの魔水晶としか魔力交換していなかったのは失敗だったね」


 ガッドの治療中、アリスの指示でカペラへの通信を試みていたセラフィナが報告する。


「それになぜか、ポルックスにも繋がらないんだよね」


「そりゃもう、こっちの魔水晶が壊れてるんじゃねえの?」


 ジェイクが胡散臭そうな目で、セラフィナが手にした『遠見の魔水晶』を見る。


「うーん、魔力に反応しているのは確かなんだけど……それはあるかも。交信ができない原因までは、私にも分かんないよ」


 セラフィナは素直にジェイクが示した可能性を肯定した。


「魔導具も案外アテになんねえな」


 ジェイクがやれやれといった感じでつぶやいた。


「……敵の数は、今把握できている数だけであれば、大した数ではありません。残りはゴブリン十足らず、ホブゴブリンも三。だけど、フィナがロロを経由して見た巣穴の規模通りなら、そもそもあれほどの数が帰ってきても入りきらなかったはず。洞窟の中には何かあると考えて間違いないと思います」


 アリスが一同を見渡して見解を伝える。


「なんだよ、最初(ハナ)から情報が間違ってんじゃねえか、役に立たねえトカゲだな、おい」


 セラフィナの隣にいたジェイクが、ロロをつまみ上げて恨めしそうに自分の顔の前に持ち上げた。


「所詮、ただのトカゲだったな。丸焼きにして食っちまおうか、コイツ?」


 ゴウッ!


 その瞬間、ジェイクの顔めがけてロロの小さな口から火炎が噴き出される。


「あっちゃっちゃ!何しやがんだ、このクソトカゲ!」


 思わず顔を抑えて飛び跳ねるジェイク。前髪がまだチリチリとくすぶっている。


「ばーか、お前が丸焼きになれってさ」


 セラフィナがロロを苛めるな、という風に避難がましい目でジェイクを睨んだ。

 そのセラフィナの横で、着地したロロがジェイクに向かって威嚇する猫のように背を丸め、「フーッ!!」と声を発している。


「でも、ロロの目で見た洞窟の広さと、あいつらの数が合わないのは確かだよ。ということは、洞窟内のどこかに隠し扉か何かがあって、もっと広いところにつながってるんだと思う」


 セラフィナが意見を述べる。


「隠し扉?なんだってわざわざてめえんちの中に隠し扉なんて作るんだあ?単純に通路を見逃しただけってことはねえのかい?実際に見たのはトカゲなんだし……」


 ガッドはそこまで言ってから、はっとロロを見た。ロロが今度はガッドを見ながら、「フーッ」と背を丸めて威嚇している。


「……あ、いや、ちょっ、ちょっとたんま!俺ケガ人だから勘弁してくれよ」


 ガッドが青い顔でロロに苦笑いを向ける。


「それはないよ」


 セラフィナがむっとした顔でガッドを睨んだ。


「俺達みてえな討伐隊が洞窟内に突入したときの対策かもしれねえな。下っ端だけを囮にして、偉い奴らは奥に隠れてやり過ごせるようにしていた可能性もある」


 シュカが言うと、グレッグが「ありえない話ではないな」と頷いた。


「いずれにせよ、普通なら間違いなくボスであるはずのシャーマンを置き去りにして、洞窟の中に逃げ込んで行ったやつらがいる。つまり、あのシャーマンと同等以上の本当のボスがまだ中にいるってことだ」


 グレッグの言葉に、シュカが続ける。


「早い話、シャーマンがもう一体か、最悪のケースでは貴族種がいるって話も、一気に信憑性が増してきやがったな。どうする、アリス」


 皆が一斉にアリスを見る。


「……カペラにもポルックスにも連絡がつかない。今からカペラに戻って援軍を連れてここまで来るのには最短でも半日以上はかかる。それまで連れ去られた人たちが生かされているかも分からない」


「つまり?」


 シュカの静かな問いに、アリスはゆっくりと頷いた。


「敵の数がどのくらいいるかは分からない。情報もない。だから状況に応じて臨機応変にやるしかない。だけど、たった今から、我々の目的は敵の殲滅じゃない。最優先事項は人質の救出です」


 一同も無言で頷く。


「……突入します。ガッドさんとビスタさんは、ここに残ってその人たちを守りながら、引き続きカペラとポルックスへの連絡を試してもらえますか?」


 ビスタが「了解」と短く答えて、セラフィナから魔水晶を受け取る。


「この子たちは、あたしたちに任せて」


「いや待て、俺は……!」


「今のあんたは、足手まといだよ」


 抵抗の意を表そうとしたガッドを、ビスタが強い口調で遮った。


「……ちっ、分かったよ」


 自身の動かない利き腕を恨めしそうに睨みながら、ガッドは渋々、と言った口調で吐き捨てた。


「フィナ」


 アリスが妹に声を掛けると、セラフィナも頷いて兄の耳飾りを外した。


「ガッドさん、これ」


 紅玉の耳飾りをガッドに手渡す。


「魔力を込めれば、交信できます。何かあったらそれで連絡をください」


「分かってらぁ。……気を付けていって来いよ」


「……本当に、気を付けて。ちゃんと戻ってきてよね」


 心配そうなガッドとビスタに、アリスは力強く頷いて答えた。


「……はい、それでは行ってきます」


 ——休憩時間はおよそ十五分。


 救出した少女たちから事情を聴き、その後彼女たちを寝かしつけ、カペラやポルックスとの通信を試み、回復薬で自身の治療をする。その間、アリスはガッドの手当てを続けていた。


 実際に“休憩”に充てられた時間などごくわずかだ。


 それでもガッドを除けば、みな傷も癒え、体力も魔法力もある程度は回復した。十分だ。少なくとも、これでまた戦える。それに連れ去られた二人の少女のことを思えば、これ以上は待てない。


 五十を超える妖魔の死骸が散乱する地獄絵図の中、魔法薬で眠る娘二人と、ガッド、ビスタを残し、アリス達七人は妖魔の巣窟の中へと入っていった。


お読みいただきありがとうございました!

いつも読んでくださっている方、本当にありがとうございます。

第三章はこれで終わり、次からはいよいよ第一部のクライマックスに入っていきます!(物語自体はまだまだ続きます!)

次回は『黒猫と魔女』です。

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