40.巣穴の前の攻防戦2
「……《火蜥蜴の息吹》!!」
セラフィナの放つ豪火が取り囲んでいた小鬼たちのうちの四体を一瞬で黒炭に変える。
だが、呪文を唱え終えた彼女もよろめいた。
何とか踏みとどまるが、肩で息をしている。
ズウウン……!
雷光のように輝く剣閃が疾り、血しぶきが舞う。
三体目のオーガーが、シュカとアリスの《光の剣》の前に、ついに地に倒れ伏した。
その直後、セラフィナがダメ押しで放った火炎がゴブリン三体の命の炎をかき消し、ジェイクの小短剣がホブゴブリンの喉を貫く。
娘を背後にかばいつつ、グレッグとロンドも小鬼を一体ずつ葬った。
「あと少し……——っ!!」
呟くアリスの顔面に、突然どす黒い瘴気の弾丸が迫る。
間一髪で躱すが、亜麻色の髪が数本宙に舞った。
振り返ったアリスの目に、次の呪文を唱え終えたシャーマンの醜くゆがんだ笑いが映る。
——ドウッ!!
邪霊師の凶悪な魔法の二撃目が繰り出される。
闇の精霊魔法、《闇の弾丸》。
魔力の集中時間も詠唱時間も極端に短い。妖魔のクセに相当な使い手だ。
「ちっ!」
アリスはその魔法の弾丸を躱すことをやめ、輝く大剣を振るう。
造作もなく《闇の弾丸》が両断され、アリスを逸れてそれぞれの破片が彼の後方で炸裂する。
「……魔法を切った!?」
「何でもありだな、あの魔法剣」
ロンドとグレッグが驚嘆の声を上げる。
「アリス、そいつは俺に任せろ!」
なおも三発目を準備するシャーマンの前に、シュカが薙槍を振りかざして躍り出た。
「……任せた!」
アリスは振り返りもせず長い付き合いの仲間とすれ違うと、光の剣で別のゴブリンを両断する。
「ギャゲゲ!!」
シャーマンは詠唱が完了した魔法の照準をアリスから自分に迫るシュカに変え、瞬時に放つ。
「しゃらくせえ!」
シュカはその凶悪な魔法の弾丸を無視してシャーマンに突っ込む。
魔法がシュカに直撃し、凄まじい爆発が巻き起こる。黒い煙が立ち込める。
「直撃したぞ!?」
ロンドの悲鳴が煙の向こうで響く。
「甘いんだよ!」
だがその煙の中から、シュカが姿を現した。
普通の人間なら一撃で絶命するような凶悪な魔法の直撃を受けてなお、突撃の勢いは全く衰えていない。
「……ゲギャ!??」
それがシャーマンの最期の言葉となった。
シュカの薙槍が、髑髏のついた杖もろともシャーマンの体を真っ二つに両断する。
「……魔法障壁か!」
シュカの身体の前に薄っすらと光る魔力の壁に気づき、グレッグが呟く。
「ホントに何でもありだな……」
グレッグの言葉に、ロンドが思わず苦笑した。会話をしつつ、ふたりも手は休めない。
グレッグの戦斧がホブゴブリンの脚を斬り飛ばし、ロンドの長剣がゴブリンの心臓を貫く。
「こいつらみんな異常者の集まりだから、いちいち気にすんな、よ!」
小短剣でゴブリンの腕を切り飛ばし、回し蹴りでもう一体の首の骨を粉砕しながら、ジェイクが怒鳴った。
「誰が、異常者、だ!」
最後のホブゴブリンを屠り、激しく息を弾ませながら、アリスは不満を口にする。
「これで、最後……」
セラフィナは小声でつぶやくと、小振りの短杖を両手で握りしめ、渾身の力を込める。
「……《火蜥蜴の息吹》!!!」
紅蓮の豪火が、残った五体のゴブリンを一気に包み込む。
「もう無理……限界」
炎を放ち終えると、少女はへなへなと膝からその場に崩れ落ちた。
「確かに……間違いなく異常者だな……」
灼熱の炎からなんとか即死を免れた最後の一体の首を長剣で撥ねながら、ロンドが呟いた。
——改めて、周囲を見渡す。
洞窟の前には大小入り混じった妖魔たちの死骸が地面を埋め尽くしていた。




