39.巣穴の前の攻防戦1
「そろそろくたばりやがれ……!」
「ごぼぁあっ!」
口から大量の血を吐き出しながら、オーガーが奇妙な唸り声を発した。人間の十倍以上はあろうかという分厚い胴体を貫いていたグレイヴを、シュカは力任せに引き抜いた。
傷口からまるで噴水のように、どす黒い汚れた血が噴き出る。
顔にひどいやけどを負ったそのオーガーは、白目をむいて前のめりに倒れた。
ズウウンッ……という低い地響きとともに、砂煙が舞い上がる。
アリス達が奇襲をかけた妖魔の群れは、すでにオーガー二体が地に伏し、ホブゴブリンもゴブリンも残り半数程度になっていた。
だが、アリス達の疲労も色濃い。
そしてまだ娘二人が、ゴブリンに担がれたままだ。
「……こっちは残りが通常種二八、ホブゴブリンが四。あっちはシャーマン一、オーガー一、ホブが三、あとは通常種が……」
ゴオオオオウッ!!
シュカが肩で息をしながら、戦況を確認していると、洞窟付近で轟音とともに爆炎が上がった。
「……洞窟側は通常種が残り八だな」
たった今丸焦げになったゴブリンたちを計算から除外し、シュカが状況を共有する。
「ガッドが危ない!」
ロンドの叫び声とほぼ同時に、鈍い音がここまで届いた。オーガーが横殴りに繰り出した巨大な棍棒が、ガッドを捉えていた。
ガッドの体が十メートル近くも吹っ飛ぶ。
「ガッド!!」
遠くからビスタの悲鳴が聞こえる。
ビスタがガッドに駆け寄り、セラフィナとジェイクはアリス達と合流する。
アリス達を、洞窟の入り口側から来た軍勢と、麓側から来た軍勢が取り囲むような形になった。
アリスとシュカが残るオーガーに対峙する。セラフィナとロンドが救出した娘たちを守る位置に下がり、それを中心にジェイク、グレッグが前に出た。
「ギギギャ、ギャギャギャアアアア!!」
その時、唐突に一体の小柄なゴブリンが奇怪な声を上げた。
髑髏が先端に着いた悪趣味な杖を持ち、汚らしい赤いマントを纏っている。シュカが邪霊師であると検討を付けた個体だ。この距離まで来ると疑う余地はない。邪悪な魔力がにじみ出ているのが、魔法使いであるアリスにははっきりと分かる。
その声を聴くや否や、ゴブリンたちがびくっと震えた。まるで怯えるような眼だ、とセラフィナは感じた。次の瞬間、唐突に娘二人を抱えたゴブリンたちが、口から泡を吹きながら脱兎のごとく洞窟の入り口に向かって駆け出した。
「おい、待て!どこ行きやがる!?」
グレッグが叫び、戦斧を振りかざして阻止しようとするが、その前にホブゴブリン達が捨て身で立ちはだかり、道をふさいだ。
「やばい、行かせるな!!」
アリスたちも追いすがろうとするが、ゴブリンたちやシャーマンまでもが妨害する。
「くそっ、邪魔すんじゃねえよ!」
シュカも刃渡り五〇センチを超えるグレイヴを薙いでホブゴブリンを蹴散らすが、死よりも恐ろしい何かに怯えるように、ゴブリンたちが半狂乱で群がってくる。
「何なのよ、あんたたち!」
セラフィナが火炎魔法で小鬼たちを薙ぎ払いながら叫んだ。
「だめだ!間に合わない……!」
アリスの口から悲痛な呟きが漏れる。
無謀な特攻で、さらに十体近くの小鬼たちが瞬く間にアリス達に始末されたが、その頃には二人の娘は洞窟の中に連れ去られていた。
娘を運ぶゴブリン八体とともにホブゴブリンも三体、後を追って洞窟の中に消えていった。
「どうなってるんだ!シャーマンがまだ残ってるってのに、何であの娘たちを連れて行く!親玉の守りが手薄になるだろう!?」
怒りに任せて長剣を振るいながら、ロンドが「訳が分からない」という顔をする。
「とにかく、今はこいつらの殲滅が先だろ!でなければ人質の救出もできねえ」
ジェイクがゴブリンの首を両手の短剣で撥ね飛ばす。
声は落ち着いているが、その額には汗が浮かんでいた。




