38.奇襲と乱戦
「何やってんだよ、あいつは!」
ジェイクが毒づきながら一気に崖を下る。ビスタとガッドもそれに続く。
『呼声の魔石』を持たない彼らにはアリス達の通信内容は聞こえていなかったが、茂みから一部始終を見ていたので状況はだいたい把握できていた。
「ロロちゃんを待ってたんだよ、フィナちゃんは」
隣を駆け下りながら言うビスタに、
「いや、トカゲは大丈夫だろ、ほっといても!?」
ガッドも速度を緩めないまま叫んだ。
「突っ込むぞ!」
亜麻色の髪の少女を包囲しようと群がるゴブリンの群れに、ジェイクが何かを投げ込んだ。
次の瞬間、爆音が響き、そしてセラフィナの周りが煙に包まれた。
ギャアギャアとゴブリンたちが喚き散らす中へ、ジェイク、ガッド、ビスタが得物を振りかざして躍り込んだ。
「何やってんだ、あいつは……!」
洞窟の入り口付近で煙が上がったのを確認して思わずアリスが呟く。
「アリス、あっちは大丈夫だ。まずはこっちに集中しろ。真下に来たぞ」
そのアリスにシュカの鋭い声が飛ぶ。
「……分かってる!」
短く答えると、アリスは詠唱を始めた。その横で同時にシュカも呪文を唱え始める。
二人の身体が見る見るうちに淡い光に包まれる。そしてアリスの周囲には、さらに小さく煌めく光の粒が漂い始めた。
「《火球》!!」
「《石弾噴射》!!」
アリスの掌からすさまじい勢いで放たれた火の玉が、列の中心付近にいた一体のオーガーの顔面に炸裂する。同時にシュカの繰り出した石の弾丸の雨が、ゴブリンとホブゴブリンが固まっていたところに直撃する。
哀れなゴブリンのうち三体が複数の石弾に頭部を強打されて昏倒、三体のホブゴブリンと四体のゴブリンが大小さまざまな打撲を負った。
「よし、続け!」
グレッグの掛け声とともに、グレッグとロンドがゴブリンの群れに突っ込む。一瞬の後に、アリスとシュカも崖を駆け下り、それぞれ輝く大剣と長薙槍を手にオーガーと対峙した。
顔面が炎に包まれたまま暴れまわる一体の前にシュカが立ちはだかり、無傷のもう一体をアリスが相手取る。
二人の騎士がオーガーたちを引き付けている間に、グレッグとロンドが混乱してギャアギャアと騒ぐゴブリンを蹴散らして、娘たちのところへ一気に駆け抜ける。
「うおおおお!」
ロンドが長剣を突き出す。
「その子たちを放しな!」
グレッグが戦斧を振り抜く。
娘を抱えていたホブゴブリン二体はどちらも攻撃をかわす余地もなく、一方は心臓を一突きにされ、もう一方は太い胴を両断され、どちらも一瞬で絶命した。
「っと」
放り出されそうになる娘たちを、ロンドとグレッグが一人ずつ抱きかかえる。
二人とも恐怖に震えてはいたが、目立った外傷はないようだ。
「あと二人!」
ロンドがそう言って後ろを振り返ると、一筋の閃光が奔り、恐ろしい断末魔の叫びをあげて、アリスの前にいたオーガーが倒れるところだった。
「《火蜥蜴の息吹》!!」
まだ煙が完全に晴れない洞窟入り口付近で、亜麻色の髪の少女の声が響いた。
唐突な煙で混乱していたゴブリンたちを紅蓮の炎が包み込む。
ゴブリンたちはさらに混乱し、手に持ったナイフや槍をやたらに振り回し始めた。
その混乱に乗じて、ジェイクの小短剣とビスタの二振りの短剣、ガッドの広刃剣が舞う。
ゴブリンたちが一気に蹴散らされるのを見て、ホブゴブリン達が慌てて前に出る。
刃こぼれだらけの大剣を振りかざし、セラフィナめがけて三体のホブゴブリンが同時に突っ込んできた。洗練された剣術とはかけ離れているが、その怪力は訓練された兵士のそれを優に上回る。
「私狙いなのね……!」
セラフィナをめがけて繰り出された雑だが強力な斬撃を、ジェイクが、ガッドが、ビスタが、すんでのところではじき返す。
その間に、セラフィナは地を転がって距離をとった。
「おいで、ロロ!」
ちょうど洞窟から這い出てきた相棒を回収し、肩に乗せる。ロロは「キュイ!」と短く答えて、セラフィナの肩にしがみついた。
そこへ巨大な棍棒が振り下ろされる。
「うっわ!」
セラフィナが何とか身を翻して躱すと、一瞬前まで彼女がいた地面が大きくえぐられる。衝撃で大地が揺れ、転びそうになるのをなんとか踏ん張って耐える。
見上げると、体長三・五メートルはある巨体が、よだれを垂らしながら血走った目でこちらを見ていた。
そしてまたセラフィナを凝視したまま棍棒を振り上げる。
「ちょっ……!」
パアアンッ!!
乾いた音が響く。
棍棒を持っていたオーガーの右腕から血が噴き出し、たまらず棍棒を取り落とす。
その向こうには右手で拳銃を持つジェイクの姿。銃口からは細い煙が立ち上っている。
「おお、対魔物拳銃か!」
ガッドが心強い、とばかりにニヤリと笑う。
だが、ジェイクは素早く拳銃を腰のホルスターにしまうと、小短剣を構えなおす。
「……うおい、なんだよソレ、装填数一発かよ!?」
「うるせえ、安物なんだから仕方ねえだろ!連射式なんていくらすると思ってんだ!」
落胆の色を隠さないガッドにジェイクが怒鳴り返す。
オーガーが怒りに満ちた唸り声を上げ、棍棒を拾いなおしてジェイクを睨みつける。
その間にセラフィナは体制を立て直して、ロロを肩に乗せたままビスタ達のところへ合流した。
「オーガーはあたしたちだけじゃ手に余る!一旦アリス君たちと合流しよう!」
ビスタはセラフィナをかばうように前に出ると、二刀流の短剣を油断なく構え、オーガーを見据えながら叫んだ。
「オーガーをかわしつつ、雑魚をぶっ殺しながらアリスたちに合流するぞ」
逆手に持った小短剣でホブゴブリンの喉を切り裂きながら、ジェイクが同意した。
「この数はシャレになんねえなあ、おい!」
《魔法の剣》を付与した広刃剣を絶命したホブゴブリンの胴から引き抜くと、ガッドも叫んだ。
「みんな、ちょっとだけ時間を作って!もう一発お見舞いするから!」
セラフィナはそう叫ぶと、目を瞑って意識を集中させ、呪文を唱え始めた。そのフィナを守るようにジェイクとビスタが前に出る。
「しゃあ!んなら、あのデカブツは俺がかき回しといてやるよ!」
淡いピンク色の光を放つ広刃剣を構えなおすと、ガッドがオーガーに向かって突っ込む。
「ガッド!無茶しないで」
呪文の詠唱中で無防備なセラフィナにとびかかろうとしたゴブリンの腕を、短剣で切り飛ばしながら、ビスタがガッドに向かって叫ぶ。
「分かってらぁぁあ!」
ガッドの声が響いた。




