表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/76

36.小鬼の巣

 アリス達は、ポルックスの宿で早めに床に就いた翌朝、まだ空が白み始めたばかりの時刻にポルックスを出発した。

 馬を全速で飛ばせば二時間程度の距離だが、無駄に野生の魔物を刺激しないよう、半日かけてゴブリンの巣窟に向かった。

 一行の中では唯一、ビスタだけは馬を駆ることができないので、ロンドの後ろに乗せてもらっていた。


 太陽が真上に昇る前に、アリス達はゴブリンたちが巣食う洞窟のすぐそばまで到着した。

 今、まさに突入前の調査を行っているところだ。


 洞窟の入り口付近は広大な広間のようになっていて、洞窟のある山の中腹あたりから麓まで、複数人が馬に乗ったままでも行き来できそうなほどの幅がある道が作られていた。ゴブリンたちがそれなりの人数で山を上り下りしている証拠とも言える。


 さすがにアリス達はゴブリンの作った道を堂々と通るわけにはいかず、山の麓の目立ちにくい林に馬を繋ぎ、山の中道なき道を登って、ここまで来ていた。


 金属鎧を装備したアリス、シュカ、グレッグ、ロンドの四人は洞窟の入り口からかなり離れた崖の上で、洞窟を見下ろせる位置に待機し、セラフィナ、ジェイク、ガッド、ビスタが音を立てずに洞窟の入り口付近へ向かう。


 セラフィナは兄の耳飾りを右耳に着けていた。

 『呼声の魔石』と呼ばれる魔導具(マジックアイテム)で、〈星芒騎士団(スターナイツ)〉の標準装備だ。

 魔法処理を施した紅玉(ルビー)の原石を砕き、それぞれを加工することで、その欠片を身に着けた者同士で通信することができる。

 ただし、『遠見の魔水晶』と異なり、姿は映せないし、通信可能距離は最大で五キロ程度。また、魔力交換により新しい『魔水晶』との魔力回路を『開く』こともできず、同じ原石からなる欠片同士でしか通信はできない。その上、微量ながら使用には魔力を必要とするため、魔法の素質を持つものしか扱えない。

 基本的には類似した効力を持つ『遠見の魔水晶』の安価かつ劣化版と理解されている。

 ただ、『魔水晶』と違って、同じ原石から作られた欠片同士であれば、効果範囲内で魔力を込めれば、頻繁に魔力交換をしなくても半永久的に交信が可能という特長もある。


『今から入り口まで近づくね』


 セラフィナが小声でつぶやくように告げる。だがその小さな声を魔石はしっかりと拾い、アリスの左耳に鮮明に届けた。


「分かった。くれぐれも気を付けろよ」


 アリスが応じると、セラフィナは短く『了解』と囁いてから、木々の間を音もなく下り、洞窟の前の開けた場所に降り立った。

 そこから十数メートル背後の崖の上で、ガッド、ジェイク、ビスタが茂みに身を隠して待機する。アリス達はそこからさらに五、六十メートル離れた深い藪の中から、セラフィナを見守っている形だ。


 今のところ、洞窟の入り口付近に動きはない。日の光を嫌うゴブリンたちは、通常なら棲み処に引きこもっている時刻だから、おかしいことではない。

 セラフィナは周囲を警戒しながら入り口の前まで来ると、肩に乗せていた『火とかげ』のロロをそっと地面に置いた。


「ロロ、お願いね」


 大きな目でフィナの顔を見上げると、「キュウ」と小さく返事をして、ロロは洞窟の中にするすると消えていった。


「アリス、フィナちゃんは何をしてるんだ?」


 離れた場所から一部始終を見守りながら、ロンドが小声でアリスに尋ねた。


「ああ、あの子は『精霊獣』と言って、フィナが契約している火精霊の化身で、まあ、フィナの親友みたいなものなんですが」


 アリスも小声で答える。


「目立たない彼に洞窟の中を偵察してもらってるんですよ。フィナが大地や風の精霊使いなら、もっと簡単に中の状況を探れるんですけどね」


 セラフィナはロロと視覚を共有することができるのだと、アリスは説明した。


「もっとも、ロロが見えているのとまったく同じように鮮明に見える、とまではいかないそうです。特に真っ暗闇の中では……。でも洞窟の広さや、敵の数とか規模とかを調べるには十分だと思います」


「へえ、ただのペットかと思いきや、あのトカゲくんもちゃんと役に立ってるんだな」


 ロンドは感心したように言った。


 ロロの調査は、思ったより早く終わったようで、数十分の後、再度セラフィナから通信が入る。


『大体わかったよ』


 まだロロは洞窟から姿を見せないが、洞窟内の最奥まで調査を終えたようで、セラフィナがロロの目を通して見た情報を伝えてくる。


『広さは、想定よりはちょっと狭いくらいかな。三十匹ちょっとが暮らすのがせいぜいだと思う。でも、中にいるのは十匹くらいしか見えなかった。朝なのに、狩りにでも出てるのかな……』


 まさか、人里が襲われていないと良いけど……というセラフィナの呟きも、アリスの左耳に入ってくる。


『あと、暗くて中の奴らに上位種が何匹いるかまでは分からなかったけど、とてつもなく大きい奴が一匹だけいる。コイツは間違いなく、オーガーだね』


 アリスは、妹から受けた報告を直ちにシュカたちに共有した。


「情報としては十分だな、数が少ないのは気になるが、どうする?」


 シュカが尋ねる。


「突入しよう。まずは一気に中の奴らを片付けてから、ほかの奴らが戻ってくるのを入り口付近で待ち伏せて殲滅する」


 シュカ、ロンド、グレッグが頷いた。


『お兄ちゃん、ちょっと待って。ロロが戻ってきてからね』


 それを『呼声の魔石』で聞いていたセラフィナが言った、その時だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ