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33.狂宴の始まり

 ポルックスは何せ小さな村なので、アリス達が一周して帰ってきても、まだ夕食までには時間があった。


 散歩から店に戻った三人も、ロンド達のテーブルに合流する。

 その頃には話題が王国の騎士たちの話から、今までこなしてきた任務の話を経由して、終いには巷で永らく噂されている——だが、未だに誰もその真相を知らない——通称【魔王】の話題に変わっていた。誰が名付けたかも定かではないが、【宵闇の魔王】と呼ばれ国中の酒場で酒の肴になっているが、実際のところそれが人間なのか、むしろ実在するのかすらもはっきりしない一種の都市伝説だ。


 やがて太陽が完全に地平線の彼方に沈む頃、【魔王】の正体についてガッドが延々と持論を展開しているところへ、女主人と娘のリリアが夕食の大皿とエールを持ってきて、少し早めの夕食となった。


 そして夕食が終わると各自早々に部屋に戻り、翌日に備えて就寝した。


     Ψ


 深夜。いやまだ暗いがもう早朝というべき時刻だ。あと少しで、空が白み始めるだろう。

 カペラのほとんどの者が寝静まっているはずだが、エクレウスは詰所の自室で鎧を身に着けたまま、連絡を待っていた。


 ほどなく、執務机の上に置いてあった、直径十センチほどの球体が、キイン、キインと甲高い音とともに赤色に点滅する。


『開け。時空の扉』


 エクレウスが小さく呪文を唱えると、水晶に緊迫した表情の男の顔が映る。


『副長!』


「状況はどうなっている。野盗の制圧は完了したか?報告せよ」


 その水晶に映った男に向かって、エクレウスが短く問う。


『それが……〈漆黒の牙〉とはまだ交戦中!当初はこちらが優勢でしたが……』


「でしたが?」


『……ゴブリンです!混乱に乗じて、ゴブリンが来やがったんです!』


 報告をする兵の顔は明らかに引きつっており、声も上ずっている。


「落ち着け。ゴブリンだと?このタイミングでか?数は?」


 エクレウスが尋ねる。


『およそ五十です。ホブゴブリンも十くらいいるようです。しかもオーガー二体を伴っています!』


「五十!?しかもオーガー二体だと!持ちこたえられるか?」


『副長もご存じの通りこの村は今ちょうど〈漆黒の牙〉への警戒のため、カペラから派遣されている兵も含め約五十名の戦力があります。〈漆黒の牙〉はすでに撤退をし始めており、今のところこちらの被害はわずかです。ゴブリンどもの目的は不明ですが、殲滅は不可能でも、追い払うだけならなんとか……』


 その時、水晶に映った男が誰かに話しかけられたように横を向く。誰かから報告を受けているようだ。数秒の後、さらに血の気の失せた表情でこちらを向いた。


『報告!〈漆黒の牙〉は退却。ゴブリンどもも退却を開始したようです。現時点での被害状況は兵十数名が負傷、民間人が三名負傷。死者はなし。……しかし、村の娘四名がゴブリンに攫われた模様です!』


 報告する水晶の向こうの男は、もはや泣きそうな声だ。


「四人も……!何という……お前たちは何をやっているのだ!」


『副長、ご指示を!』


 エクレウスは少し考えるように間をおいてから、答えた。


「……お前たちだけでオーガーを連れたゴブリンの軍勢を追うのは無理だ。まずは正確な被害状況をもう一度確認せよ。分り次第、私に連絡してくれ。ダリエル殿には、私から報告する」


『くっ……、了解しました!』


 シュン……、と小さな音とともに通信が切れた。魔力を失った魔水晶は、徐々にその輝きを失い、やがてごく普通の水晶玉のそれになった。


「四人だと。おのれ、何をやっている」


 エクレウスは立ち上がって、窓の外を見る。

 いつの間にか、空が白み始めていた。


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