32.自由の国の理想と現実
「あんたらの十八番の《光の剣》が『星の民』の専売特許である以上、そいつはやむを得ない気もするけどなあ。っていうか、あの魔剣はやっぱり混血じゃ使えないものなのかい?」
グレッグが尋ねると、アリスは「いえ」と首を振った。
「『海の民』とのハーフなら、何人かいます。シュカもそうですね。そもそも『海の民』には魔法の素質を持つ者も一定数生まれますから。ただ、『大地の民』は潜在的に魔法抵抗力が強い体質なので、魔法の習得とは相性が悪いみたいなんです。実際に〈星芒騎士団〉の中で、『星』と『大地』のハーフは三人だけ。いることはいるんですが、圧倒的に少ないですね」
「まあ、分からなくはないな。冒険者の中でも、『大地の民』の魔法使いは滅多に見ないな。全くいない訳じゃないが」
「そうでしょうね。ただ興味深いことに、『大地の民』の血を持つ《光の剣》使いは、同時に【枷なき者】になる確率が高いみたいなんです」
「ほう?さっき話してた、金属鎧の制限を受けない魔法使いってやつか。そいつは確かに面白いな。……それでもやっぱり、《光の剣》を使うには『星の民』の血は絶対条件なんだろ?」
「そうですね。今のところ、〈星芒騎士〉全員が最低でもハーフ以上の『星の血』を持っているみたいです」
「だからなのか、〈星芒騎士〉の中にはお高く留まっていやがる『星の民』至上主義者も結構いるよな」
グレッグとアリスの会話に、ジェイクが口をはさむ。
「表向きはいないことになっている……けど、実際のところはそれも否定できないな」
アリスは赤毛の騎士の顔を思い浮かべながらも、「今はもう、そんなにたくさんはいないけどね」と付け加えた。
「そもそも『星の民』なら誰でも《光の剣》を使えるってわけじゃないんだろ?」
「純血の『星の民』だって、確か魔法の素質を持って生まれるヤツなんてせいぜい十人に一人くらいで、《光の剣》を使えるヤツはさらにその三分の一とかだったはずだぜ。男と女で、また倍くらい確率が違うらしいけど」
グレッグの問いに、アリスより先にジェイクが答えた。
「……お前、よくそんなことまで知ってるな」
アリスが少し驚いたようにジェイクを見る。
「だから言ったろ。学校なんかに行かなくても、オレは大事なことはちゃんと知ってんだよ」
ジェイクはさも当然、と言うように答えた。
ちなみに、魔法や《光の剣》を習得する素質の民族ごとの発現率などについては、詳細は義務教育の学校では教えられていない。特定の民族の血に由来する能力については、禁忌とまではしていないが、センシティブな内容のためあまり積極的に広めづらい、という微妙な内情があるためだ。
「『民族融和』という旗印があるとはいえ、血が混ざりあって『星の民』の血が薄くなると、この国が誇る《光の剣》の使い手がいずれ途絶えちまう可能性もあるってことか……。そりゃあ、国のお偉いさん方も悩ましいところだろうなあ。何せ国防の要だからな」
「ナディアは肥沃な土地が多い一方で、大陸内でも特に魔物の脅威度が高い国でもありますからね」
「相手は何も魔物だけとは限らねえだろ。この国が欲しい奴等は他にもいる。たとえば隣の国とかな」
「ジェイク、滅多なことを軽々しく言うなよ」
「ここは自由の国だぜ」
「ははは。やっぱりこの国のお偉いさんは、いろいろと気苦労が絶えないだろうなあ」
グレッグがもう一度、自分には縁遠い政治家たちに同情するように呟いたころ、三人は丁度村を一周して『星明かり亭』の小さな看板が視界に入るところまで来ていた。
「……ほんと、小っせえ村だな」
振り返って西日が照らす村を一望し、ジェイクが心なしか懐かしそうに呟いた。




