31.魔法使いと鎧
作戦が決まると、自然と決起集会に移行する。
給仕の娘がエールを持ってきて皆に注いでいく。
「ところで、アリス」
エールを煽りながらグレッグがアリスに声を掛けた。
「今回は、前と違って星の騎士の正装なんだな。見違えたぞ」
鳥竜討伐の時は、アリスは飾り気のない部分板金鎧を身に着けていた。
だが今日は白色に輝く〈星芒騎士〉の正装を身に着けている。
部分板金鎧であることに違いはないが、材質は鋼ではなく、魔導銀製。白色の金属光沢は、この金属の特徴だ。
さらに今日のアリスは、白い鎧の上に蒼色のマントを纏っていた。
「……ああ、この恰好はちょっと目立つので」
アリスは苦笑で返した。
「ただ今回は、カペラの詰所に顔を出す必要もありましたし。それに、団長にも任務の時はできるだけ正装で行くように叱られまして」
「すごいカッコいいです!」
エールのお替りを注ぎに来た給仕の娘が、目をキラキラさせて会話に割って入った。
「確かに。男の俺から見ても恰好良いよ」
ロンドが深く頷きながら同意した。
「でも同じ〈星芒騎士〉なのに、二人の鎧は大分形が違うんだな。それに二人ともなんていうか、騎士の鎧にしては少し軽装……ていうか、肝心の首元とか腹のあたりとか空いているように見えるが……?本来一番に守るべき急所のはずじゃないか?」
「ホントだ、言われてみれば。そういえばケラトス退治の時の鎧も同じくらい軽装だったような」
ロンドの疑問にビスタも同意する。
「なんだお前ら。そんなことも知らねえのか」
それを聞いたガッドは何故か得意げだ。
「何、あんたは知ってんの?」
ビスタの問いに、ふん、しょうがねえな、と言いながらガッドが答える。
「魔法はな、肌で感じるんだよ」
「はあ?」
どうだ、と言わんばかりのガッドにビスタはあきれ顔で返した。
「聞いて損した」というような表情だ。
「……いや、まあなんつーか、間違ってはいねえな」
しかし、シュカがビスタの予想に反してガッドの言葉を肯定する。
「俺達みたいな魔法使いは、大気中の魔力を体内に取り込んで、自分の魔力と融合させて魔法を行使する。んでもって、その大気中の魔力の多くは肌から吸収するんだ。多少個人差はあるんだが、主に頭部と体幹部——特に胸部・腹部・下腹部から多く吸収するとされてる」
「特に金属は魔力を取り込むのを邪魔するんだ。だから金属鎧着て魔法を使えるこいつらは、そもそもすげえんだよ」
ガッドがまた自分のことのように胸を張る。
「だからなんであんたが偉そうなのよ」
と突っ込んだ後で、ビスタは
「……もしかして、だからあんたはそんなカッコなの?」
とガッドに尋ねる。
「今さら知ったのかよ」
ふん、これだからバカなやつは、などと言いながら偉ぶるガッドに。
「うん。ただの露出狂だと思ってたよ」
「お前も大して変わんねえだろ!」
「これはファッションだから。あとあたしの軽戦士としてのスタイルにも丁度いいの。動きやすいし」
ガッドとビスタの応酬を尻目に、ロンドが疑問を口にする。
「でも、頭部、胸部、下腹部って……」
だが、ロンドが言い終わる前に、
「エロいよな……がっ」
「エロいな……うげっ」
ガッドとジェイクがほぼ同時に発言し、ほぼ同時にビスタとセラフィナに肘鉄をもらった。
「あ?ああ、確かにエロいかもな……あ、いや、じゃなくて」
一瞬乗せられそうになりながらも、ロンドは軌道修正しようとするが、
「——人体急所、だな」
先にグレッグが彼の言いたかったことを引き継いだ。
「その通りです。脳、心臓、鳩尾、それから丹田。だからふつう、魔法使いは急所を守る頑丈な鎧を装備できず、前衛には出にくい」
アリスが答える。
「ふーん、だからギルドにいる魔法使いの女たちって、どいつもこいつもエロい格好してるやつが多かったのか」
ジェイクが感心したように頷いた。
「え、ってことはさあ。効率良く魔法使うには、本当は素っ裸のほうが良いってこと?」
「まあ、極論はそういうことだ」
ビスタの疑問にガッドが答えた。
「でも、その割に露出が足りないような……ごっ」
隣のセラフィナの胸元を見ながら言うジェイクの顔面に、セラフィナの鉄拳が容赦なくめり込んだ。
「これも結構個人差が大きいんだけどな。大抵の場合は布くらいなら大した阻害要因にはならねえんだよ」
シュカが苦笑しながら答えた。
「冒険者ギルドの魔法職だって、ローブを着てたりハットをかぶってたりしているヤツも結構多いだろ?」
「……なあんだ、つまんねえ」
赤くなった鼻をさすりながら、ジェイクが言う。
「ふーん、じゃあ、やっぱあんたはただの露出狂じゃん」
ビスタがガッドに向かって白い目を向けた。
「話聞いてたのかよ、今個人差があるって言ってただろうが。布でもあるのとないのとじゃあ、魔法のキレが違うんだよ!」
ムキになって騒ぐガッドを、アリスが苦笑しながらフォローする。
「まあ、本当に個人差はかなりありますよ。衣服もそうですし、人によっては肩や上腕、大腿部の防具も魔法の行使に影響することが良くあります。一方で、体幹から離れれば離れるほど——例えば肘より下、脛より下なんかは、大抵の場合金属製の防具を装備していても問題ないことが多いですね。ああ、あと」
そこまで言うと、アリスは身近な知り合いを思い出して、また言葉を続けた。
「稀ですが、たまに全く金属鎧の影響を受けずに魔法を扱える人もいます」
その言葉を聞いて、ロンドとビスタが興味深げな表情になる。
グレッグも「ほう?」と小さく声を漏らした。
「そう言う体質の持ち主は私たちの間では『枷なき者』と呼ばれるんですが、〈星芒騎士団〉の中でもたったの三人……いや、一応四人か。とにかく、結構レアなんですよ」
「なるほどな。人によって違うってことは良く分かったよ。だから同じ〈星芒騎士〉でも一人ひとりオリジナルの形状なんだな」
ロンドがアリスとシュカの鎧を順番に見ながら、少年のように目を輝かせている。
確かにアリスとシュカの鎧はどちらも部分板金鎧だが形状は大分異なっている。
と言っても今は二人とも簡単に取り外せるパーツは全て外して、空いている隣のテーブルや椅子に置かせてもらっている。
「……さてと、作戦会議が終わったなら、あんたたちは少し体を休めたらどうだい?長旅でお疲れだろ?ここはまだ戦場ってわけじゃないし、重い鎧も少しの間くらい脱いできなよ」
興味津々でアリス達を質問攻めにしているロンドやビスタを見かねて、女主人がテーブルへやってきた。
「どうせ今からやつらの巣穴に行ったんじゃ夜になっちまうから、出発は明日だろ?まずはちょっとは休むんだね。今日の夕食はこのアタシが腕によりをかけてご馳走を作ってやるから、積もる話の続きはその時にしなさいな」
アリスがそれに同意する。
「そうですね。じゃあ、お言葉に甘えて少し休ませてもらいます。おかみさん、その間に『魔水晶』の魔力交換をさせてもらっても良いですか」
「ああ。ウチのは大したサイズのやつじゃないけど、ここからゴブリンの巣穴くらいまでなら、なんとか交信は可能だろうね。ついておいで」
アリスは頷くと、立ち上がった。
「あ、おかみさん!ここってお風呂ある?」
セラフィナの問いに、
「ここは宿屋も兼ねてるんだよ。もちろんあるさね。今のうちに一人ずつ入っておいで。リリア、案内してあげな」
ニッと笑顔で答えると、女主人は給仕の娘に声を掛けた。
「はーい」と答えて、リリアと呼ばれた給仕の娘はセラフィナを連れて奥の扉から出ていく。
アリスも女主人について別の扉から退室する。残った一同も席を立ち、昼食後の作戦会議は解散となった。
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