30.星明かり亭にて
「ええと、改めまして。ロンドさん、グレッグさん、ガッドさん、ビスタさん。この度は討伐隊への参加、ありがとうございます」
「いやいや。むしろ〈星芒騎士〉直々にご指名いただけるなんて、光栄だよ」
改まって礼を述べるアリスに、ロンドが笑顔で首を振った。
「竜ならともかく、ゴブリンごときにわざわざ駆り出されるとはな」
ガッドが偉そうに鼻を鳴らすと、
「ゴブリンごときにはるばる王都から駆り出されたアリス君たちの前でよく言うわね」
ビスタが呆れた目で彼を睨んだ。
一同は昼食を取り終えると、そのまま『星明かり亭』で作戦会議を開始した。
ポルックスからゴブリンの巣穴は近い。むしろカペラからより近いくらいだ。
ポルックスはカペラの管轄ではなく隣街カストールの管轄地域に所属しているが、むろんゴブリンたちにしてみれば人間が勝手に決めた管轄など知ったことではない。
ポルックス以上にゴブリンの巣穴に近い村もいくつかあるが、このままゴブリンたちの規模が拡大すれば、いつポルックスに被害が出てもおかしくはない状況だった。
だからこそ、普段はカストールを活動拠点としているロンド達も、アリスからの要請を受けてすぐにポルックスへ帰ってきていた訳だ。
「しかし、正直不思議だよ。ついこの間まではこの辺りじゃゴブリンなんて数か月に一匹見るか見ないかぐらいだったんだ。それがあっという間に三十匹以上に増えて、しかもどこかからオーガーまで連れて来るなんてなぁ」
とグレッグは首を傾げた。
一年前の鳥竜討伐の共闘以来、それまでソロの冒険者として活動していたグレッグは、ロンドたちのパーティに入り、ともに行動するようになっていたらしい。
「報告ではゴブリンが最低三十以上、ホブゴブリンも数匹、オーガーもいるとの話です。おそらくシャーマンもいると思います。とは言え、ちょっと不可解なのはカペラ兵団の討伐隊十名と、調査隊五名が消息を絶っていることですね」
「一般論だとオーガーは平均的な兵士十人分の脅威度って話だろ。オーガーとホブを中心にしつつ、さらに雑魚三十に周りを囲まれたら、ベテラン兵十人が全滅してもおかしくないんじゃないか?」
「まあ、討伐隊も調査隊も全滅している以上、その情報自体の正確性にも疑問が残るんだけどな」
アリスの説明にロンドが感想を述べ、シュカが続けた。
「情報が足りない分、最悪のケースを想定して準備したほうがいいだろうな」
グレッグが頷いた。
「そうですね。とりあえずゴブリンは五十、ホブゴブリンは十、オーガーも二体か三体はいる前提で作戦を考えます。それから可能性は極めて低いですが、貴族種がいる確率もゼロではありません。もしこの想定をさらに超えるなら、一旦撤退して兵を集めて再度掃討に向かいます」
アリスがそう告げると一同は口々に同意の意を示した。
それから、各々の装備や力量を把握し合い、いくつかのケースを想定した上で、突入時の手順や役割を打ち合わせていく。
と言っても、あまり難しい話にはならない。
アリス達も魔物の討伐に慣れた軍人であり、グレッグ達も歴戦の冒険者だ。
正直なところ、妖魔退治はそこまで高難度のミッションとは言えなかった。
「アリス君、この一年ちょっとで、随分立派になったね!」
「ああ、頼れる男になった、ってカンジだな」
「そ、そうですか?」
淀みなく作戦を説明するアリスを眺めていたビスタとロンドが、しみじみと言うと、アリスは少しだけ照れたような顔になった。
「最初に会った時にゃ、びくびく、おどおどしてまともに喋れてもいなかったじゃねえか」
ガッドがまた鼻を鳴らす。
「まあ、この一年、いろいろありましたので……」
アリスは苦笑で答えた。




