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26.カペラ兵団のふたりの騎士

 アリス達は、王都レグルスを発ってから二日後、予定通りカペラの街に到着していた。


 カペラは、人口八千人程度の中規模の街だ。

 石造りの家が立ち並び、街の中央には大きな広場がある。

 王都とは比べるべくもないが、中心付近はそれなりに活気があって賑やかだ。


 しかし街の北側に位置する旧市街地はやや寂れており、治安も良くはない。

 人が住まなくなって久しい廃屋も多い。


 十年前から三年間続いた内乱の際に戦場となり、再建が困難なほど大きく破壊された当時の市街地を人々は放棄し、南側に新たに家々を立て、街の中心を移したためだ。


「ようこそいらした。遠路はるばる感謝いたします、【星屑】のレーゼ卿」


 黒色の短髪、黒い瞳で浅黒く角ばった顔に口髭と顎髭を貯えた男が言った。

 歳は四十代半ば。飾り気の少ない軽板金鎧ライトプレートメイルを纏っている。質実剛健といった印象だ。


 ここはカペラの兵団詰所。

 中央広場に面した三階建ての頑丈な石造りの建物で、今、アリス達はその最上階の一室にいる。


「あ、いえ……卿などと呼ばないでください。騎士としてまだ二年目の若輩者です」


「いやしかし、すでに家督を継がれて爵位もお持ちですからな」


「それは……父が早くに亡くなっただけのことです。貴方のほうがはるかに先輩ですので……敬語もなしで後輩と思って気軽にお話しください」


 アリスが居心地悪そうに苦笑すると、向かいの軽板金鎧ライトプレートメイルの騎士は頷いた。


「そうですか……わかりました。いや、わかった。そうしよう……いやあ、実を言うと俺も堅苦しいのは大の苦手なんだ。助かるよ」


 いかつい顔をした騎士はガハハと豪快に笑った。


「では改めて。ようこそカペラへ。俺はここの兵団長を務める騎士ダリエルだ。こっちは俺の相棒の騎士エクレウス」


 ダリエルと名乗った屈強な騎士は、人の良さそうな笑顔で、隣に控えるもう一人の若い騎士の背をバンバンと叩いた。


「エクレウスです」


 若い騎士は短く挨拶し、一礼した。


 青みがかった長い髪、色素の薄いブラウンの瞳。

 目が細く切れ長でクールな印象だ。

 隣のダリエルと並ぶと多少小柄に見えるが、落ち着いた佇まいはまさに鍛えられた軍人のそれだった。

 彼もダリエルと同じ軽板金鎧ライトプレートメイルを身に着けている。


 二人はこのカペラの街の警護を任ぜられた騎士である。

 ナディアでは王都に居を構える〈近衛騎士団ロイヤルナイツ〉〈王国騎士団アークナイツ〉〈星芒騎士団スターナイツ〉の三つの部隊に所属する者を上級騎士と呼ぶが、それ以外にも騎士は国内各地に配置されている。


 彼らの役割は、配置される都市や街の規模などによっても多少異なるが、基本的には上級軍人として兵士たちをまとめ、犯罪の取り締まりや国民を魔物の脅威から守る任務を与えられている。


 中央集権国家であるナディアにおいては、すべての騎士は国に仕えている形だ。

 そしてここカペラではこの二名の騎士がおよそ二百名の兵を指揮していた。


「カペラの管轄地域内だって言うのに、俺達の手で解決できずにすまないな。ただ、今はそれでなくとも最近出没する野盗の相手で手一杯なんだ。その上、ゴブリンの巣へ向かわせた討伐隊と調査隊を失ったばかりでなあ。正直なところ、今の俺達の手には負えないと途方に暮れていたところだったんだよ。そこへ〈星芒騎士〉が二人も来てくれたってわけでね。他の皆さんも相当な使い手とお見受けする。本当に助かるよ」


 お互いに挨拶を済ませるとダリエルはアリス達に席に着くよう勧め、現在のカペラの状況を説明した。


 ダリエルの話によると、ゴブリンの目撃例はここ数年カペラの管轄地域内ではほとんどなかったらしい。

 しかし一か月ほど前から一気に目撃報告が増え、近くの村を襲うほどに規模が大きくなったという。


 突然群れが発生した原因は不明。

 しかもタイミング悪く、それまで大人しかった野盗たちが、同じく一月前あたりから頻繁に悪さをするようになったのだそうだ。

 ゴブリンたちの隆盛に乗じてやりたい放題だという。


「ゴブリンの調査に乗り出そうとすると、野盗たちが暴れ出すんでなあ。調査も一苦労だよ」


 野盗の対処に追われながらも、ダリエル達は何とか調査隊を送り、ゴブリンの巣穴の位置と、予測される大まかな規模を掴むまでには至った。


 しかし今からおよそ二週間と少し前、十名の兵士で編成した討伐隊を送ったが、消息を絶ち、その後送った調査隊十二名も帰ってこなかった。

 そのため、王都へ救援要請をしたわけだ。


「討伐隊と調査隊は、ゴブリンどもではなく野盗にやられた可能性もあります」


 ダリエルが説明し終えると、エクレウスが付け加えた。


「……野盗って、人間だよね?」


「そりゃそうだろ」


 セラフィナの呟きに、ジェイクが即答する。


「分かってるよ」とセラフィナが口をとがらせる。


「分かってるけど……悪党でも人間と戦うのは、ちょっとやだなと思っただけ」


「正確に言うと、残党だな」


 ダリエルが顎髭をしごきながら言った。


「残党?」


「七年前に終わった内戦の、反乱軍の残党ですよ。この辺りは戦いが激しかったですからね。あの時の反乱軍の生き残りが、そのままこのカペラの近くに住み着いて悪さをしているんです」


 シュカの問いに、エクレウスが答えた。


「まあ、野盗どものほうは我々が対処するとして、だ」


 そこでふと、ダリエルは少しだけ神妙な面持ちになった。


「——肝心のゴブリンどもだが、ひとつちょっと気になることがあってな」


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