22.闇の大地でキャンプ
連載開始から一週間になり、今日から第二章がスタートです!
ちょっと前置きが長くなってしまいましたがいよいよアリスとセラフィナたちの冒険始まりです。
アリス、セラフィナ、シュカ、そしてジェイクの四人は、妖魔退治の指令を受けた翌日の早朝に王都を発った。
目的地は王都から北東の方角にある。
途中までは大きな街道を使って進み、ゴブリンの巣があるとされる場所を管轄しているカペラという街へ向かう。
王都からカペラへは列車が通っていないので、馬での旅路だ。
カペラまでは丸二日程度の道のりの予定である。
カペラの街からゴブリンの巣があると思われる場所までは馬の足でさらに半日ほどかかる。
ちなみにアリス達はカペラから直接ゴブリンの巣へ向かうのではなく、少し遠回りをして別の村に向かいそこで人員を調達する計画だ。
鉄道の線路は敷かれていないものの、カペラまでの街道は大部分が整備されており、およそ百メートル置きに魔物除けの聖石灯が建てられている。
街道を逸れない限りは街の外と言えど比較的安全な旅路になる見込みだ。
とは言え、魔物の中には聖石の効き目が薄いものもいるし、聖石灯と聖石灯のちょうど中間付近では魔物除けの効果も薄れるので、そうした場所で魔物に襲われる可能性は十分にあり決して注意は怠れない。
整備された街道であろうと、聖石に守られていようと、街の外は『光に祝福されし子ら』の領域ではなく、魔物たち——そして『闇に魅入られし子ら』の領域なのだ。
王都レグルスは標高千メートルを超える高台にあることから、北東に向かう街道は、延々と続く緩やかな下り坂となる。
舗装された道を除けば見渡す限り手つかずの広大な草原で、遠くにはこの土地に生息する野生動物が見える。
『光に祝福されし子ら』と違って魔物たちの殺戮衝動の直接的な対象とならない彼らは、同じ闇の大地にありながら魔物とは別の食物連鎖の中で、独自の生態系を築いている。
道中、セラフィナは馬上から双眼鏡をのぞいては、「あそこにサーベルタイガーがいる!」とか「あれってメガテリウム?」などと一人ではしゃいでいた。
天気も良く、季節的にも多少厚着をしておけば寒くもない、旅をするには丁度良い気温だ。
初日は広大な草原を一日中進んだが、運よく一度も魔物に遭遇することなく平和に終わった。
Ψ
日が完全に暮れたところでアリス達は馬を止め、街道に設置された聖石灯のすぐ脇で野宿の準備をし、火を起こした。
ちなみに焚火に火をつける役は、フィナの相棒である『火とかげ』の子ども、ロロの仕事だ。
「とりあえず、カペラに着いたらまずは詰所に挨拶だな」
この季節、夜になると、さすがにまだ冷える。
アリス達は満天の星空の下で火を囲み、体を休めながら食事をとっていた。
一同が口にしているのはシュカの作ったシチュー。
シュカはこのメンバーの中では唯一まともに料理ができる。
それもかなりの腕前だ。
「うん。街に着くころには、冒険者ギルドからの連絡も来ているだろうから、そこでまずは人員を確定する。今声を掛けている人たちが参加できなさそうなら、素直に兵団から人を借りる必要があるしね」
アリスはシュカにそう答えると、シチューを一口、口に入れた。
「つっても最近はカペラの周辺には野盗が出るって話だし、それでなくてもあの街は二週間前に十四人もの兵を失ったばかりだろ。あんまり優秀な人材は期待できねえかもな」
そう言いながらシチューのお替りをよそってセラフィナに渡してやったところで、シュカがふと思い出したように呟いた。
「……そう言や、隊長もカペラの近くに来ているんだったな」
それを聞いたセラフィナが、口いっぱいにシチューを頬張ったまま「え、隊長ってあのルシア隊長?」と声を上げた。
「うん。五番隊と一緒に、確か遺跡か何かの調査任務をしてるんだったと思うけど」
アリスはシュカとセラフィナの両方に向かって頷いた。
ルシアとは、アリスとシュカが所属する〈星芒騎士団〉一番隊の隊長の名だ。
「じゃあ、最初からそっちに援護を頼めばいいんじゃない?」
というセラフィナの言葉に、
「〈星芒騎士〉が六人も援護に来たら、むしろ俺たちはいらねーだろ」
とジェイクがあきれ顔をする。
「それに、今の任務が終わり次第、隊長と五番隊は次の任務でさらに内陸へ移動予定らしいよ。だから、援護は期待できない。ていうか、そうでなければジェイクの言う通り、おれたちに今回の任務は回ってこなかっただろうしね」
「そりゃそうだ。次の任務がねえなら、今のが終わり次第、隊長たちが寄り道がてらゴブリンどもを蹴散らしてから王都に帰ってくりゃいいだけの話だからな」
アリスの言葉にシュカが同意する。
「……任務終わっても家に帰れずすぐまた別の任務って、〈星芒騎士〉ってやつぁブラックだねえ。そりゃ、三十歳まで七割死ぬっつうのも頷けるぜ」
ジェイクが憐れむようにつぶやいた。
「ねえ、なんかさ。〈星芒騎士〉って単独任務多いよね。なんで?」
セラフィナの素朴な疑問に、
「中でも特に俺達一番隊は、隊長も含めて個別任務が多い気がするけどな……」
シュカが苦笑しながら答えた。
「五人一組の小隊であたるのは過剰なことが多いんだよ。よほど強大な魔物の討伐なんかでもねえ限りはな。それより分散させて任務に就かせるほうが効率がいいのさ。何せ俺達は『超』が付くほど、常時人手不足だからな」
「じゃあ、今ルシア隊長たちがやってる任務っていうのは、よほど強大な何かってこと?」
「五番隊の五人にさらにもうひとり隊長を付けているんだから、たぶんそうなんだろうね。しかもあのルシア隊長とカレン隊長だ」
セラフィナの問いに、今度はアリスが答えた。
ナディア王国の騎士団は〈星芒騎士団〉に限らず、基本的に五人一組の小隊を組む。
だが〈星芒騎士団〉は、小隊での行動より個別任務が与えられることが多い。
シュカが言うように、中でも特に一番隊は個別任務が多い印象だ。
「ああ、【魔女】と【戦女】ってやつね」
「無学のあんたでも、さすがにルシア隊長たちのことは知ってるんだね」
「学校に行ってないってだけで、馬鹿にすんじゃねえよ。王宮に閉じ籠って勉強しかしてねえ奴らよりよほど世の中を知ってるわ。……てか、ナディアの【三女帝】て言ったら、大陸中で知らねえ奴なんていねえんじゃねえの?それにオレも【魔女】のほうは一度だけ見たことあるしな」
シュカから三杯目のシチューの入った椀を受け取りながら、ジェイクは目を細める。
「ギルドのクエスト受けた時にさ。遠目でちらっと見ただけだったけど、ありゃ相当なバケモノだよな。お前らのボスだっけ。あん時は随分ちっちゃく見えたけど、実際にはすげえごついんだろうな。【魔女】とか呼ばれてるくらいだし、お伽話に出てくるみてえに鉤鼻のババアなの?」
「ジェイク、お前な」
心なしか、アリスの目が冷たい。
だがジェイクは気に留めた様子もなく、
「ところで、今回の仕事だけどさ」
シュカのシチューをかき込みながら話題を変えた。
「ゴブリンが急に増えたって話だろ?——てか、そもそもゴブリンって、どうやって生まれるんだ?」
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