21.不穏な兆し
「——計画は順調なんだろうな」
男の声が暗い部屋に響く。
その声色には多分に高圧的な響きが内包されていた。
「ご心配なく。すべて滞りなく進んでいますよ。お陰様でね」
円形の小さなテーブルの向かい側で、もう一人の男が紅茶を一口、口に含んでから、対照的に静かで落ち着いた声で答えた。
「三人とも無事『扉』としての資格を得ました。優秀ですよ、ええ。後は然るべき地で、然るべき子らが『扉』を開けるのみ」
「“三匹”だ。言葉もまともに知らんのか。それに、そんな簡単な話ではあるまい」
「……彼女たちのことが気がかりですか?」
「とぼけるな。よりによってこの時代に、しかも同時に何人も光の乙女たちが現界するとは……おのれ、忌々しい。愚かな老いぼれどもめ」
尊大な態度の男は眉間の皺をさらに深くして、吐き捨てるように言った。
「確かに、《光の剣》という星の奇跡さえも、所詮は彼女たちの輝きの副産物に過ぎませんからね」
「貴様!我が一族の侮辱は断じて許さんぞ」
男の語尾がさらに荒くなっていく。
「おっと……これは失礼」
向かいの男はカップを置いて、優雅に頭を下げた。
尊大な態度の男は、「ふん」と鼻を鳴らしてから、言葉を続ける。
「貴様ごときには分からんだろうが、我らが母なる『始まりの七人』の力は絶大だ。……それがあのような、誇りを失った尻軽女どもに宿ったのは業腹としか言いようがないがな」
「わかっていますとも。彼女たちの光に触れれば、せっかく授かった『扉』としての呪力もたちどころに浄化されてしまいますからね。ただ、これは偶然……というよりは、因果というものでしょうな」
尊大な男がギロリと突き刺さるような視線を向けるが、向かいの男は相変わらず柔和な微笑みを崩さない。
「彼女たちが現代に降りたからこそ、光の戒めが弱まって『扉』を得ることができたとも言えますしな」
「……貴様、どこまで知っている」
「まあ、ご心配なさるな。光の乙女たちは私の方で策を打っておきますから。それに、彼もちゃんと仕事をしてくれていますしね」
「あのような小物に、本当に任せて大丈夫なのだろうな?」
尊大な男は相変わらず不満げだ。
「よくやってくれていますよ。彼も優秀な協力者です。むしろすべてを話して差し上げてはいかがですかな」
向かいの男の声に、微かにからかうような響きが含まれる。
「貴様、馬鹿か。あのような無能な捨て駒に余計な情報など不要だ」
「可哀想に。彼を同志として勧誘した私としては、なんとも心が痛みますね」
言葉とは裏腹に、向かいの男の表情に同情の色は微塵もない。
「ふん、奇跡も使えぬ一族の面汚しだぞ。『光の母たち』のことすら知らん。せめて駒は駒として、主人の役に立って死ぬのが天命というもの」
そう言ってから、尊大な男は紅茶を飲み干すと、乱暴にカップを皿に叩きつけた。
「ふふ……悪魔より、悪魔のようなお方ですね」
「なに」
「いえ、失敬。でも、褒めたのですよ。そういう方は大好きです」
向かいの男は穏やかな笑みを浮かべたままだ。
「ふざけるな、虫唾が奔るわ。とにかく貴様はなんとしても計画を成功させろ。……この国は一度生まれ変わらねばならん。以前の清浄な時代に戻るのだ。この私の手でな」
吐き捨てるように言うと、尊大な男は椅子を蹴って立ち上がった。
そのまま踵を返すと扉を乱暴に開け、部屋を出て行く。
「『始まりの七人』ですか……」
一人残された男は、椅子に腰かけたまま誰にともなく小さく呟いた。その口元は、恐ろしい笑みで歪んでいる。
「まあ、それすら些細な事。……彼女たちの眩い輝きすらも、ね」
他に誰もいないその広い部屋の中で、彼の乾いた笑いだけが響いた。
連載7日目になりました!
システムの使い方すら良く分かっていませんが(すみません......)、物語はだいぶ先まで構想があるので、毎日投稿していこうと思います。
第一章はこれで終わりです。いよいよ次回から王都の外に出て、アリス達の冒険が始まります。
読んでくださった方、本当にありがとうございます!
少しでも面白いと思っていただけるよう頑張ります。
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