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20.『便利屋』ジェイク

 全速力で走ってきたのか、少し肩で息をしながら、その灰色の髪の少年——ジェイクはアリス達の進路の前で立ち止まった。


 背はアリスより少し高い程度。

 歳はアリスの一つ下、セラフィナと同い年の十五歳だ。


「……なに、今の気持ち悪い呼び方」


 アリスが面倒くさそうな顔をする。


「ん?大陸最強の〈星芒騎士〉様に、最大限の敬意を表してみたんだけど?」


「ばか、お前な……」


 悪びれた様子のない灰髪の少年を、アリスは避難がましく睨んだ。


 わざわざこんなところで身元をばらすな、馬鹿。

 周りからの視線がいよいよ険悪になったのは気のせい——ではないだろう。


「お前らがこんなとこに来るなんて珍しいな。回復薬ポーションでも買いに来たん?」


「正解」


 ジェイクの問いにセラフィナが即答した。「良く分かったね」と付け加える。


「そりゃ、あの店は冒険者の中では結構有名だからな。上級騎士御用達とまでは知らなかったけどね」


「何か用か、ジェイク」


 シュカが尋ねる。


「わざわざ地下街アンダーグラウンドまでポーションを買いに来たってことはさ、大きな仕事があるんだろ?オレも混ぜてよ」


 ジェイクは本来ならアリス達のようないわゆる王国のエリートたちとはめったに関わりのない——もしくは「取り締まる側」と「取り締まられる側」という関わりのみの——環境に生きる人種だ。


 彼はレグルスの生まれではなく、今から四年ほど前にこの王都にやってきた。


 親もなく、他に頼る大人もなく……ごく自然な成り行きで地下街に暮らすこととなったが、生まれもっての腕っぷしの強さで、王都に来てたった半年足らずの間に、地下内に複数存在する不良たちの派閥の一つをまとめ上げるに至っていた。


 そして今から三年ほど前、アリス達がまだ養成学校の訓練生だったころ、とある事件でアリス、シュカ、ディートクリフの三人と関わりを持ち、それ以降は何となく腐れ縁が続いている。


 過去には弟分たちの生活を守るために盗みなどもしていたが、今は一応、不真面目ながら表向きは冒険者をやっている。


 ちなみに、先ほどのように今でも悪党限定で金を巻き上げたりしているが、もちろんこれはアリス達には内緒にしている。

 その他にも王国に仕える立場であるアリス達には言えないことも、本当はもう少しあるのだが。


 シュカが「どうするよ?」というような顔で、アリスを見た。

 別に反対する気はないようだ。


「うーん……」


 アリスは少し考えた。


 今回のように経費の範囲で自由に人を雇うことを許可される任務はよくあることだ。実は過去にも何度か、アリスは任務にジェイクを同行させたことがある。


 もっとも、当然ジェイクをあまり良く思わない騎士や兵士も少なくないので、一緒に任務に赴く同行者次第なところもあった。


「別にいいんじゃない?そこそこ器用なやつだし」


 セラフィナが兄の顔を見る。


「そこそこってなんだよ、この天才に向かって」


 ジェイクは口をとがらせてセラフィナを睨んでから、アリスに向き直って、


「このジェイク様が活躍しない訳ないだろ。はっきり言って雇わないと損だね」


 薄い胸を張った。


「……そう言えば、ジェイクは冒険者登録してたよな?」


「ああ、一応『便利屋カニングフォード』で登録してるよ。めんどくせえから試験は受けてないけど、実力なら『プレート持ち』にも負けない自信はあるね」


「はいはい。ちなみに洞窟探索の経験は?」


 アリスの問いに、ジェイクはニヤッと笑って「もちろん」と答えた。


(ま、ちょうどいいか)とアリスは思った。


 ジェイクはセラフィナが言うように結構器用だし、口は悪いがそれなりに信頼できる男であることはアリスも良く分かっている。


 アリスは最終決断を下す前に再確認の意味でシュカに視線を送った。


「お前が良いなら、俺は別に構わねえぜ。コイツがいれば、援護は任せて俺も前衛に専念できるしな。それに洞窟に潜るんなら慣れてる案内役がいたほうが何かと便利だろ」


「OK。本当は現地調達のつもりだったけど、一人くらいまあいいか。……その分きっちり働けよ、ジェイク」


「よっしゃ、契約成立だ。大船に乗ったつもりでいてくれて構わないぜ」


 アリスが頷くと、ジェイクはにっと笑った。


「——で、今度はどんな仕事だ?」

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