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17.亜麻色の髪の少女

「……それで、さっきの話の続きだけどよ」


 団欒室の中でまた自分たちだけになると、シュカが中断していた話の続きを促す。


「魔導士って言ってたな。それってさ」


「ああ、うん。何となく、嫌な予感はしてるんだけど……」


 アリスが話を再開しようとした、ちょうどその時。


「あ、いたいた!」


 また団欒室の入り口から若い少女の声が響いた。


「……まあ、そうだよな」


 振り返って確認しなくても、アリスには声の主が誰かわかる。


「やっぱりな」


 シュカは呆れたように溜め息をついた。

 団欒室に入ってきたのは、肩までに切りそろえた艶やかな亜麻色の髪に、蒼穹を思わせる明るい空色の大きな瞳の少女だった。


 身長は先ほど団欒室から出ていったリリィよりわずかに高い程度。

 美しい顔立ちだが、あどけなさが残り、美女というよりは可憐な印象だ。

 そしてその耳の先端はわずかに尖っている。


 所々に繊細な金色の刺繡がある鮮やかな朱色の衣を着ており、その上から丈の短いマントを纏っている。

 マントの色は身に着けている服の朱色とはやや色のトーンが異なる暗めの紅色。


 そして、彼女の右肩には体長二十センチほどの赤黒いトカゲのような生き物がちょこん、と乗っている。


「あ、ディートくん……とシュカじゃん」


 少女はアリスの向かいにいる二人の騎士に手を振って挨拶してから、ふと敬礼の姿勢をとり、そして言葉をつなげた。


「魔導機動隊第三小隊第一分隊【烈火の組】セラフィナ=レーゼ、此度の討伐隊に加わり、兄の任務を補佐します!……なーんてね」


 セラフィナ=レーゼ、十五歳。

 親しいものは『フィナ』の愛称で呼ぶ。

 宮廷魔導士の中でも、騎士や兵士とともに戦闘部隊に編成され、主に魔物の駆除を担当する〈魔導機動隊〉に先月入隊したばかりの、アリスの実の妹である。


「……そんな気はしてたけどさ」


 溜め息交じりにアリスはつぶやいた。

 団長の最後の意味ありげな言葉から、アリスも薄々予想はしていた。


「私、遠征任務はこれが初めてなんだ。お兄ちゃんもシュカもよろしくね!」


 セラフィナが、そのかわいらしい藍玉アクアマリンの瞳をキラキラさせながら言う。


「遠足に行くんじゃないんだからな」


 やれやれ、と半ばあきらめたような顔でアリスが自分とよく似た顔立ちの少女に視線を向ける。


「心配しなくてもお兄ちゃんのお守りは私がちゃんとしてあげるから。ね、ロロ」


 セラフィナが肩に乗せたトカゲの頭を撫でながら笑う。

 トカゲは気持ち良さそうに彼女の手に頭をこすりつけた。


「なんで兄妹で同じ任務なんだよ……やりづらいなぁ」


「……要するに、お前らは初遠征の付き添い要員だったってことだな」


 ぼそっとこぼしたアリスに、ディートクリフが無表情のまま答えた。


「やっぱ代わりに行かねえか?ディートクリフ」


「寝言は寝て言え」


 兄の同期たちにかなり失礼なことを言われているが、亜麻色の髪の可憐な少女は笑顔でスルーする。


「で?どんな任務なの?お兄ちゃん」


 アリス達のソファの空いていたスペースに腰かけて、セラフィナが尋ねた。

 上官から聞いてないのかよ、と思いながらアリスが答える。


「……ゴブリンの討伐」


「はあ?何それゴブリン?今さらゴブリン?」


「だからさ……」


 あからさまに不満げな妹の反応に、もう一度大きくため息をついて、アリスは三度目となる任務の説明を始めた。



     Ψ


 アリスがセラフィナに遠征任務の詳細を話し終えると、ディートクリフは「まあ、せいぜい頑張れ」と応援しているのかしていないのか良く分からない言葉を残して午後の任務に戻っていった。


 一方、アリス、シュカ、セラフィナの三人は、明日からの遠征任務の準備のために午後の時間を充てることを許可されている。

 三人は支給品だけでは足りないアイテムを買い揃えるために、城下町へと向かうことにした。


 〈星芒騎士団スターナイツ〉の団欒室を出て、兵舎の中庭を通る渡り廊下に向かって歩きながら、作戦会議は続いている。


「人員はどうするんだ?ここから兵を何人か連れていくのか?」


 シュカが尋ねる。


「うーん、いや、現地調達でいいかなと」


 アリスが答えた。


「いずれにせよ、たぶん狭い巣穴に潜らなきゃいけないだろうからね。大人数で行くとかえって被害が出る可能性もあるし、腕の立つ人に絞って全部で十人以下ってところかな」


「え、十人?私たち三人だけでも十分じゃないの?妖魔三十匹くらいさ」


「フィナ、ゴブリンを侮っちゃだめだ」


 つい数時間前に自分が団長に言われたばかりであることはおくびにも出さず、アリスが諭すように言った。


「でもさ、ただの小鬼でしょ?私だって何度かゴブリン退治に出動したし、その時にも上位種は何匹かいたけど、別に大したことなかったけどなあ。オーガーって言ったって、お兄ちゃんとシュカがいればそこまでヤバいってわけでもないんじゃない?」


 セラフィナは、まだ納得できない様子だ。


「野外戦ならまあ、そうかもな」


 アリスはそう答えた。


「でもゴブリンの巣穴の中なら、条件が全然違う。暗さも狭さもおれ達には戦いづらいし、逆にやつらには有利だ」


「ふーん……まあ、確かにね」


「実際に全員で巣穴に突入するかどうかは別として、有事の時の援護や伝令なんかのために、俺達以外にあと四、五人くらいってところか?」


「うん、そんな感じかな」


 シュカの問いにアリスは頷いた。


「最寄りの街はカペラだったな。んじゃ、そこで兵を借りるのか」


 アリスの”現地調達”という言葉に話を戻してシュカが聞くと、


「いや、実は一応ひとつアテがあるんだ。以前の任務で知り合った冒険者がカペラの近くにいるはずなんだよ。今ギルドを通して彼らに依頼を打診してるところ」


 アリスはそう答えた。


「ふーん、そういうことね。まあ確かに洞窟探索やゴブリン退治なら、兵士より冒険者のほうが向いてるかもな」


 シュカも頷く。


「うん。慣れてない兵士を連れて被害が出るより良いと思うんだよね。……まあ、彼らが空いてなかったり、断られちゃったりしたら、素直にカペラから兵を借りようと思うけど」


「了解。んじゃ、あとは支給品じゃ足りない旅支度を一通り買い揃えて、今日はお開きだな」


 そう言って、シュカは渡り廊下に差し込む午後の日差しを受けて眩しそうに顔を顰めた。

 セラフィナが二人を振り返って、その可憐な顔に満面の笑みを浮かべる。


「私さ、行きたいお店あるの!おススメのお店なんだよね」


 そう言うセラフィナは、どこかウキウキしているように見える。


「だから遠足じゃないんだけどな」


 アリスはまた、本日何度目かの溜め息をついた。

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