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16.混血と孤児と『奈落帰り』

「好きなだけ言わせときゃいいさ。相手にするだけ時間と労力の無駄ってもんだ」


 シュカがやれやれと溜め息をつく。


「まさに小物代表、って感じね。ゼレン先輩も、あんな人たちとつるむのやめたらいいのに」


 三人が団欒室から居なくなったのを確認してから、ローズは出口に向かってべっと舌を出した。


「小物って……一応あれでも上位ランカーだけどな、ふたりとも」


「それこそ『嘆かわしい』だわ」


 シュカの指摘に、ローズは赤毛の騎士の口真似で返した。


「でも、どうしてあんなひどい言い方……アリスくんもシュカくんも、好きで〈奈落〉なんかにいた訳じゃないのにね……」


「……まあ、もう昔のことだから」


 リリィが消え入りそうな声で言うと、アリスは苦笑して小さく首を振った。


 そう、あれはもう何年も前の話だ。

 それでも当時の凄惨な光景は瞼の裏側に焼き付いて離れないが、少なくともシュカと自分は、まだましな方だった。


「そもそもあいつらは混血も孤児も〈奈落〉帰還者も——要は自分と違うものは全て気に喰わないってだけの話だ。俺みたいに由緒正しい家柄にも関わらず『大地の民』とのハーフと言うのも、それはそれで癇に障るらしい」


「“あいつら”って、一応先輩な」


「あと、自分で“由緒正しい家柄”って言ったな今」


「アレも嫌いコレも嫌い、みんな嫌い……って、世の中全部嫌いな思春期みたい」


「ローズ、どっちかと言うと、思春期はわたしたちだよ、年齢的に」


 ディートクリフの発言にシュカとアリスが、ローズの発言にリリィが律儀にツッコミを入れる。


 今団欒室にいる五人は皆『星の民』の血を引いているが、同時に『星の民』以外の血が混ざっている、いわゆる“混血児”だ。


 ディートクリフの母は『大地の民』、シュカの父は『海の民』。

 ローズとリリィは出生も定かではないが、恐らくローズは『大地の民』、リリィは『海の民』のそれぞれクォーター。


 そしてアリスは、もはや“民族”を超えて、“他種族”の血を八分の一受け継いでいる。


「それにしたって、何かさ。先輩たちって特にアリスへのあたりが強くない?」


「まあ、コイツはあの人たちに嫌われる要素を取り揃えてるからな」


 ローズの疑問にシュカが答えた。


「えーと。戦争孤児で混血で〈奈落〉の元少年兵……ってシュカ、それって全部あんたも一緒じゃん」


「……むしろおれは、親なしではあるけど孤児って言うのかな」


 少なくとも今のアリスには、家もあれば使用人までいる。


「アリスくんには妖精の血が少し混じってるからかな?」


「それもあるかもしれんが」


 ディートクリフは腕と脚を組んだまま顎でアリスを指して、リリィの疑問に答えた。


「成人するのと同時に家督を継いでいるコイツは、こんなでも一応『男爵』だからな。ある日突然〈奈落〉から王都に来たヤツが、五年後には最短で叙勲を受けた挙句に爵位まで手にしてるんだ。名門の生まれでありながら爵位を継げないあいつらにしてみれば、余計癇に障るんだろう」


「“こんなでも一応”ってなんだ」


 アリスは避難がましくディートクリフを睨んでから、


「……まあ、親からもらっただけの爵位だからね。おれだって、父さんが死んで二年もたってから自分の出自を聞かされたわけだし。何の努力もしないで転がってきた身分なのは確かだから、先輩たち疎まれるのは仕方ないのかも」


「なーに弱気なこと言ってんの」


 ローズはアリスの二の腕をパンとはたくと、彼の少女のように細くて華奢な両肩に手を置いて正面からアリスの顔を見つめた。


「心無い言葉にいちいち心を痛めないのはいいことだけどさ、理不尽なことを仕方ないってあきらめちゃだめ。別にあんたは何も悪くないし何も間違ってないんだから、文句言われる筋合いなんてないでしょ。アリスはアリスらしく、堂々と胸を張ってやっていけば良いんだよ」


 それだけ言うと肩から手を離し、今度は椅子に腰かけているアリスの頭をぽんぽんと叩く。


「ありがと。……でも、子ども扱いすんな」


 アリスはちょっと拗ねたようにその手をまた払い退けて、ローズを上目遣いに睨んだ。


「……アリスくんはさ、今でも十分すごいと思うよ」


 先ほどのローズの言葉に、リリィも小さな声で控えめに付け加えた。


「……確かに爵位はお父様の功績かもしれないけど……アリスくんは誰よりも苦労もしてきたし、努力もしてるんだから」


 アリスはもう一度「ありがとう」と笑った。

 自分を気づかうこの二人の少女たちも、実は過去に凄惨な体験をしてきたことを彼は知っている。


 アリスとリリィのやり取りを見てふっと小さく笑ってから、ローズは「さてと」と前置きしてソファに腰かける少年達を見回した。


「じゃ、あたしたちはそろそろ部屋に戻るね。今はクリスティーナ隊長に引き継いでるけど、また夜からお嬢様の警護再開だから、ちょっとでも寝ておかないと」


 そう言いながら、ローズは口に手を当て小さくあくびをすると、踵を返した。

 水分を含んでなお軽やかな長い赤髪がふわりと揺れる。


 そしてふと団欒室の出口の前で振り返ると、


「それじゃね。今回はシュカに譲るけど、次の任務にはあたしたちを指名してよね」


 と言って、手に持った白いタオルをひらひらと振った。


「いや、おれに騎士を指名する権限はないんだけど」


 リリィも振り返って「がんばってね」と手を振ってから、ローズの後を追って団欒室を出て行った。


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