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15.星の選民思想

ちょっとだけ、誤字を訂正しました。

 多分に険を含んだヤジを飛ばしたのは、少し離れたソファに座っていた、三人のうちの一人。

 先ほど嫌そうな目をアリス達に向けた、赤毛の騎士だ。


「クレド。よさないか」


 同じテーブルについていたシルバーブロンドの騎士が慌てた様子で窘めようとするが、クレドと呼ばれた赤毛の男は構わず続ける。


「たかが小鬼に天下の〈星芒騎士〉が二人掛かりで、しかも魔導士のおまけ付きだと?団長も随分と大盤振る舞いじゃないか」


 広いが今は二組しかいない団欒室に、あからさまに敵意のある声が響く。

 その声音は馬鹿にしているようでいて、苛立ちの色も含まれているように感じられる。


「まあ、俺たちは命令に従うだけなんで。それに今回は結構規模が大きいみたいっスよ。すでに兵士が二十二人も行方不明になってるようでね」


 アリスが穏便にやり過ごすにはどう回答したらいいかと、思考を巡らせながら苦笑だけ浮かべている間に——そしてディートクリフが無言のまま凍り付くような冷たい眼で声の主を一瞥したところで——、ふたりより先にシュカが軽い調子で受け止める。


 シュカの敵意もないが怖れもないその顔に、赤髪の男は一瞬肩透かしを受けたように言葉に詰まるが、またふんと鼻を鳴らして軽蔑するような眼差しをシュカに返した。


「雑兵が何十人やられようが、星の騎士が束になってかかる理由になどなるものか」


「まあ、俺は念のためのオマケ……ってことじゃないスかね」


「ふん、そいつのお守りか腰巾着か知らんが、大した実力もない割に随分と余裕じゃないか」


「クレド」


 シルバーブロンドの男が諫めるように短く赤毛の男の名を呼ぶ。

 しかしクレドの侮蔑の本当の理由は、シュカの実力の話ではない。


「……雑魚相手の戦場を少し経験したくらいで調子に乗るなよ。まがい物の”雑種”風情が」


「おいおい、その辺にしとけよ」


 明るいブラウンの髪の騎士が赤髪の男に声を掛けるが、シルバーブロンドの騎士と違って本気で止めようというふうには見えない。


「あれでも試験一発合格だぜ。…まあ『お情け枠』だろうけどさ」


 むしろ面白がっているようにも聞こえる。

 だが、赤毛の騎士は一層不機嫌な表情を浮かべた。


「ふん、〈奈落〉で拾われたが故の『お情け枠』か」


「まあ今やそんな奴らばっかりだけどね」


「雑種に親なしに、極めつけは〈奈落〉の奴隷兵……まるで救貧院か、さもなくば厚生施設だな。いつから星の騎士はここまで廃れたものか。なんとも嘆かわしい」


「クレド、オルトス!いい加減にするんだ」


 それまで控えめだったシルバーブロンドの声が低く鋭くなる。

 静かだが迫力のこもったその諫言に、茶髪の男は「おっとこれは失礼」と短く謝罪して口をつぐんだ。

 だが、にやにやとした笑いはその顔に張り付いたままだ。


 赤毛の騎士も彼には逆らえないのか一度は続きの言葉を飲み込むが、忌々し気に睨んだ先でアリスが困ったように苦笑すると、苛立ちが再燃したのか吐き捨てるように呟く。


「ちっ、亜人ごときが……」


「クレド!」


 シルバーブロンドの声音がさらにきつくなる。


「おい」


 赤毛のその度を越した発言に、それまで涼しい顔をしていたディートクリフが鋭い目で二人を睨む。

 だが、その腕をアリスがそっとつかみ、無言で首を振る。

 シュカもやれやれといった表情で肩を竦めるのみだ。


 ディートクリフの代わりにローズが、さりげなくアリス達のテーブルの半歩前に進み出る。

 ちょうどクレドたちとアリス達の視線を遮る位置だ。


「先輩。ちょっと今のは傷ついちゃうなぁ。私もリリィも"親なし"の"混血"なんで……」


 大げさに悲しそうな表情を浮かべ、美しい金色の瞳を潤ませて真正面からクレドの顔を見つめる。

 ローズの後ろで同じく大きな瞳を揺らして、リリィがうんうん、と頷いた。

 クレドの頬がさっと紅潮し、途端にもごもごと口ごもる。


「それに先輩。今回の任務、通常種だけじゃなくってシャーマンとかオーガーまでいるんですよ。下手したら“貴族種”もって」


「ハッ、“貴族種”などいるものか……」


「まあそれはそうですよね。でももしオーガーが何匹もいたら、それだけでも小さな街の兵団だけじゃあ、ちょっと手に負えないですよね?救援要請を放置して被害が大きくなっちゃったら、それって〈星芒騎士団スターナイツ〉の責任問題になっちゃいません?」


「それは……」


「そ、それこそ、もしかしたら〈星芒騎士団スターナイツ〉が臆病者扱いされちゃうかも……」


 ローズの背後に半ば隠れながら、小さな声でリリィも付け加える。


「ぐっ……」


 クレドはさらに言葉に詰まったようだった。無言でリリィを睨む。


「ひっ」


 リリィはまたローズの背に完全に隠れてしまった。


「……ま、まあこいつらには妖魔退治くらいがお似合いかもな」


 一方、赤毛の騎士は憮然とした表情で、もごもごと答える。


「クレド、もうよすんだ。君の負けだよ」


 シルバーブロンドの騎士が、静かに首を振った。


「彼女たちの言う通りだ。妖魔とは言え、食人鬼は侮れない。犠牲者を少しでも減らしたいと思うなら、星の騎士が出動するのは何もおかしいことじゃないだろう?」


 シルバーブロンドの騎士が、穏やかな口調で諭すように言う。


「……ふん、せいぜい、オーガーに喰い殺されないように気を付けるんだな。死ぬのは勝手だが、星の騎士の名誉を穢すことは許さんからな」


 あからさまに苦し紛れな捨て台詞を絞り出すと、赤毛の騎士は居心地が悪くなったように席を立った。

 最後にもう一度アリスに嫌悪のこもった視線を向けると、ひとり団欒室を出ていく。


「おいおい、クレド。どこ行くんだよ?」


 心なしかからかうような、面白がっているような声を掛けながら、ブラウンの髪の騎士がその後を追って団欒室を出ていく。


 シルバーブロンドの騎士も、小さくため息をついてから少し遅れて席を立った。

 アリス達の横を通り過ぎる際に、「すまないね」と困ったように苦笑してから団欒室を出ていく。


「旧時代の選民主義者どもが」


 ディートクリフは相変わらず表情に乏しいが、その声には苛立ちの響きが滲んでいた。


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