11.不確かな情報
ちょっとこのエピソードは説明が長めです、、、(ごめんなさい)
「まず規模がでかい。目撃例は少ないが、最低でも三十匹はいると見られている。下手をすればもっとだ。それにゴブリンだけではないんだ」
「蛮鬼ですよね?」
アリスの問いに、団長が頷く。
「ああ。だが、ホブだけでもない」
「食人鬼だ」
団長の言葉を引き継いで、副団長が続ける。
「食人鬼が目撃されている」
「食人鬼……それは、かなりの規模ですね」
若い騎士は微かに眉を顰める。
「食人鬼を飼っているくらいだ、邪霊師がいてもおかしくない」
蛮鬼は、小鬼をのそのまま筋骨隆々の大人に成長させたような妖魔だ。
最弱の小鬼とは打って変わって、人間を凌ぐ体格と腕力を持ち、戦闘訓練を受けている平均的な兵士より戦闘力が高いとされる。ただし、知能は小鬼より低い。
一方で、小鬼邪霊師は、小鬼と大差ない体格・外見だが、魔法を操る。
個体差があるが、中にはかなり高度な魔法や呪術を使う者もいると報告されている。
その発生の仕組みは未だ解明されていないが、統計的にみるとホブゴブリンはゴブリン五体に一体、ゴブリンシャーマンはゴブリン二十~三十体に一体程度の割合で生まれるのではないかと言われている。
また、食人鬼は身長三メートルを超える巨体と鋼のような逞しい肉体を持つ超大型の妖魔だ。“食人鬼”とも“大鬼”とも呼ばれる。
優秀な戦士であるホブゴブリンとさえ比較にならないほど圧倒的な戦闘力を誇り、単体で比較するなら以前アリスが討伐した鳥竜ケラトスを上回る危険度とされている。
一方で知能はホブゴブリンよりさらに低く、だいたい人間の四歳児並みと言われる。
外見はホブゴブリンを巨大化させたようにも見えるが、ホブゴブリンやゴブリンシャーマンのように、ゴブリンたちの中から一定の割合で発生する訳ではなく、まったく別の種と考えられている。
もっとも、その知能の低さゆえか、ごく稀ではあるが今回の報告のように本来自分より格下のはずのゴブリンの群れに共生し、狡猾な彼らに都合よく用心棒のように使われていることもある。
とはいえ知能の低さに加えて凶悪な食欲が本能のほぼすべてを占める食人鬼だ。
虫の居所次第でひとたび癇癪でも起せば、周囲のゴブリンを殺したり喰らったりは日常茶飯事の筈で、ゴブリンたちにとってもこの危険な用心棒を飼いならすのは命がけだろう。
「それに、最寄りの街から二週間ほど前に送った兵十人が消息を絶っている。その三日後に先発隊の行方を調査に行った兵十二名も、戻ってきていないらしい」
再び団長が口を開いた。
「それはつまり……二十二人とも?」
「残念だが、全滅したと我々は考えている。生存者もいないから、相手の正確な全体像はつかみ切れていないままだ」
アリスの問いにはギルバートが答え、そしてクロードが先を続ける。
「このまま放置してさらに規模が拡大していけば、最悪の場合、いずれ貴族種が発生しかねない。いや、何かの間違いですでに生まれている可能性も、ゼロとは言えん」
「貴族種……!」
“貴族種”、すなわち“ゴブリンロード”——極稀に、突然変異で発生するとされるゴブリンの最上位種。
食人鬼はもちろん、一般に妖魔の中で最強と言われるトロールさえも凌ぐと言う話だが、何せ報告例が少な過ぎて情報も曖昧な上級妖魔だ。
嘘かホントか、貴族種に率いられた妖魔は、その圧倒的な恐怖によって支配され、死をも恐れぬ狂戦士と化すと言う話もある。
まさに『ゴブリンの王様』と言うわけだ。
思わず声が大きくなるアリスに、「まあ、あくまで最悪のケースの話だ」とクロードは肩を竦めた。
「……なるほど、理解しました」
そう答えたアリスの、その美しく整った少女のような顔からは、すでに当初の少し拍子抜けしたような表情は消えている。
真剣な眼差しで、団長の口から発せられる命令を待つ。
「よし。今はお前の隊長は別任務で不在だからな。団長の俺から直接伝えることとする」
隣に立つギルバートも無言で頷いた。
「一番隊アリス=レーゼに命ずる。討伐隊を編成して当該ゴブリンどもの棲み処を調査及びこれを討伐せよ。一番隊の指揮権も一時的に貴公に預ける——と言っても、今王都にいる一番隊はお前とシュカだけだがな。まあ、それ以外に必要な人員の調達はお前に一任する」
「はい、承知しました」
アリスは直立姿勢のまま、短く答えた。
「わかっているだろうが、相手はゴブリンだ。地上戦に持ち込めればお前たちの敵ではないが、恐らくはやつらの巣穴への突入作戦になるだろう。小鬼どもの巣である以上、十中八九、洞窟だ。お前たちが十分に力を発揮できるような広さなどない中での戦いを強いられると覚悟しておけ。経費の範囲なら何人使っても構わんが、人選の際にはそれを良く頭に入れておくようにな」
そう言って、副団長のギルバートが書類をアリスに手渡した。
今回の指令の詳細が書かれた書面だ。
その書面の最初のページに目を通したアリスは、思わず小さく呟いた。
「——あれ、この場所は……」




