なんだかんだで花火は出来たようです
「ふっw花火しようとしたけど火をつける道具持ってかなくてコンビニ寄ったけど勇気が無くてたこ焼きだけ買って食べて来た〜?」
「ちょ⋯⋯そんなに笑わなくてもいいでしょ⋯⋯」
なんと誤魔化そうか考えた。でもこんな格好を見られた以上何を言っても無駄だろう。先程の行動を全て伝えた結果、我が家に笑い声が響いた。
「はぁ〜笑った笑った〜そんなに花火がしたかったのか?」
「ま⋯⋯まぁ⋯⋯ほんの少し⋯⋯」
少しの気恥しさと幼じみた行い。強がるように答えた。
「そっかー⋯⋯」
母は私の発言を聞いて、何か思いついたように動き出した。
「あったあった〜ほれ紅葉〜」
「ん? おっと⋯⋯」
何かが飛んできた。
「これは⋯⋯チャッカマン?」
「ほれ、庭に出ろ〜?」
二人して疑問に思ってるうちにバケツを持った母がそう言った。
「ふう⋯⋯暑っちぃなぁ。窓少し開けただけでこれだもんな。ほれ紅葉、庭で花火していいぞ〜火傷だけ気をつけろよ。私は部屋の中でテレビみてるからそれじゃ。あ、なんかあったら呼べよ〜」
母はそれだけ言って水入りバケツを私に渡した。
「ぬっふっふ⋯⋯さすが紅葉ママですなぁ〜それにしてもこんなに早くリベンジできる機会が訪れるとは。
それじゃあ紅葉! いざ手持ち花火を!!」
「紅葉これ、その辺に置いとけ。落とすなよ〜」
再び窓が開いて手渡された。
「おお〜蚊取り線香! やっぱこれがあると夏感でますな!!」
渦巻き状の。早速火をつけた。少しの煙が上がる。赤色の端から灰が落ち、香ってくる匂い。風鈴が揺れた。
「うーーーん⋯⋯」
珍しく真剣そうな顔。
「じゃがバタにたこ焼き、そして外では水鉄砲に花火、ついでに蚊取り線香と風鈴。これ以上ない程の夏要素盛りだくさんの一日ですなぁ⋯⋯」
しみじみと。満喫したような顔を浮かべる。
「そうね、でもメインはこれからよ? まだやってもないのに感動してないで最後にその感想を取っときなさい」
「それじゃ付けるわよ⋯⋯」
手をかけて押した。導線に火が灯る。途端に明かりが夜を照らす。
「うお〜!!」
「あんまり期待してなかったけど思ったより綺麗ね」
「そうだね〜思ってたより綺麗⋯⋯」
弾けるような音と火薬の匂い。隣を見れば口開けて、瞳に明かりが映ってた。こめかみから汗が垂れても気にせず、それに釘付けな様子。
ただ、終わりは突然。次第に小さく、一瞬だった。
「あーん⋯⋯もう消えちゃった!!」
「そうね⋯⋯ほんの数十秒ぐらいしかないわね」
最後の抵抗。水に沈めた。ツンとする香りと一瞬の音。
「紅葉⋯⋯どんどん片っ端から付けてって!!」
「むちゃ言うわね⋯⋯」
「この花火は今は長いけど、どんどん先が無くなっていくやつらしいわ」
「ほぉ? わくわくが止まりませんな!」
火をつけた途端。
「うお〜!これは煙がすごいね!!」
「そうね⋯⋯それにものすごい勢いで短くなって。
あら? 音が変わった」
「なんだこりゃ!! ⋯⋯ありゃ消えちゃった」
「少し短かったけど面白かったわね」
続々と火をつけた。あまり大したものではないけれど子供のようなリアクションをする。何でもかんでも驚いて最後は良かったねの一言。
「残りは線香花火、四本と残りの五本⋯⋯」
「線香花火は最後にやるとして⋯⋯」
「残りの五本どうやって使おうかしら。普通にやってもいいけど一度見たし⋯⋯」
「いっその事一度に全部付けてみるとか!!」
「何馬鹿なことを言っ⋯⋯そうねそれありだわ。青葉やりなさい」
「えー私!?」
「ええそうよ。貴方がやりなさい。私が貴方の姿を録画するから」
「えぇ〜? 録画〜? 照れちゃうなもう⋯⋯///」
何故か急に撮りたくなった。
思い出に固執する人間では無い。写真や動画を撮るでもない。撮っても振り返らない。そんなつまらない私。けどやりたくなったから。
「⋯⋯それじゃあ準備は出来たかしら?」
「OKだよ!!」
それぞれの指の間に花火を挟む。
「よし、それじゃ始めるわね」
ボタンを押した。音が鳴った。これから起こることはこの先どんな時も見れる。そんな安心の。
「よし⋯⋯それじゃあ急いで五本の花火に火をつける!!」
一本、二本⋯⋯光が飛び出る。
「もみじ急いで〜!! 花火消えちゃう!!」
「分かってるわ⋯⋯」
後は時間との勝負。何としても全てを光らせる。
「⋯⋯OK!! 青葉!こっち向いて!」
「うお〜!! ほれほれ〜回転じゃー!!」
囲うように火花が包む。まるで舞。鮮やかな色たちが青葉とひとつに。
「いい感じよ青葉!」
「そうだろそうだろ〜私は映える女なのだから!!」
「あ!!」
次々と。付け始めた花火から消えてゆく。
「もう終わりかぁ〜短いなぁ〜」
「そうね⋯⋯でも花火綺麗に写っていたと思うわ」
期待に胸を膨らませ、動画を開いた。
「は⋯⋯花火が⋯⋯」
「う⋯⋯浮いてる⋯⋯」
「それに声が⋯⋯私一人だけ⋯⋯」
「紅葉が一人で喋ってるホラー映像⋯⋯」
絶句。あんなに楽しかったのに一気にお通夜状態。
「⋯⋯線香花火しましょうか⋯⋯」
「そうだね⋯⋯」
「それじゃあどっちが長く火をつけていられるか⋯⋯」
「勝負!!」
否、楽しいのはこれからだ。
「よし⋯⋯それじゃあ付けるわよ」
「キタキタ〜!! 紅葉に負けるな!私の花火よ!!」
「ふっ⋯⋯甘いわねそんな言葉で長くなるわけないで⋯⋯」
「え? ⋯⋯紅葉さん?」
速攻で火種が落ちた。間違いだ。私が青葉に負けるはずがない。急いでもう一本に火をつける。
「ちょ!? 紅葉さんズルくない!?」
「ふっ⋯⋯青葉? 誰が一本だけの勝負と言った? 本番はこれから⋯⋯よ⋯⋯」
つけて早々に。私の小さな火種は散った。
「まぁ⋯⋯そんな日もあるよ⋯⋯」
あの青葉にも肩を叩かれ同情された程。私はこれを受け入れられなかった。
「はああ〜これがラスト一本かぁ〜楽しかったけど一瞬だなぁ〜」
「またやればいいじゃない。楽しいことは何回やってもいいんだから」
「ふふっ⋯⋯そうだね⋯⋯」
最後は静かに。
「落ちたね⋯⋯」
「そうね。次は来年かしらね⋯⋯」
一瞬の静寂。風鈴の音が染みた。
「紅葉ったらぁ〜もう来年のことなんて考えちゃってまったくぅ。来年も私とまた一緒にやるみたいじゃーーん、ほれほれー」
終わりの静けさ。それを追い払うように青葉は私をからかう。いつもならこれに反論していただろう。ただ今は⋯⋯
「その通りよ。また来年も貴方と花火がしたいわ」
私の素直な気持ちを貴方に。
「えっ⋯⋯!! ちょ、それ実質告白じゃーーん! 私の事好きすぎだなぁ全く⋯⋯」
背を向けちゃって。私と顔を合わせられない表情なのかしら。
「紅葉〜? 花火終わったか? ご飯作ったけど食べる?」
「食べるわ!」
「そうか。花火のゴミたち家に入れたら飯にしよう〜」
「ほら、何してるの青葉。いつまでも後ろ向いてないで行くわよ」
「⋯⋯うん!!」
「今日の晩御飯何かしら⋯⋯?」
「――来年もまたやればいいじゃんか――」
欠けた月に手を伸ばす。光が手をすり抜ける。ゆっくりと、手を閉じる。あれを掴むように。
「はぁ⋯⋯出来るわけないのに何してんだか⋯⋯」
「ちょっと青葉〜? 何してるの? 早く来なさいよ」
「ごっめーーん!! まってまってー!!」
「もう⋯⋯何してるのよ全く」
「へへ⋯⋯ごめんちゃい♡」
ドア閉まる。部屋の明かりに映し出された一人の影を飲み込むように。




