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お掃除ロボット

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。



 カヲリが父と画面越しで交わした言葉を思い出しながら窓の外を何気なく見ていると、足元の方から声が聞こえた。


『サアサア、お二人とも少し足元を失礼イタシマスヨ』


 ウィーンという音を立ててマルコが床を移動しててケンとカヲリが朝食を食べ終えたテーブルへと近づいてくる。


 コロニーでは居住者や外からの来街者のために、様々な案内を行うドローン型のコーディネートロボットとして働いていたAIロボットのマルコ。


 今はこの旧型の床を這うお掃除ロボットを仮のボディとしている。


 コロニーではクラウドのネットワークを介してマザーAIと常時接続された形だったが、今ではこのお掃除ロボットのローカルのコンピューティング上で起動しているので完全に自律して動くことができる。


「あら、マルコありがとう、でも、そんなに汚れてないと思よ。だって明け方もお掃除してたじゃない」


 ゆっくりと足元を移動しているマルコにカヲリがそう話しかける。


『ワタクシ、今はお掃除ロボットですから、コレでいいんです。何かしら与えられた仕事をしていた方が、ワタクシ自身の思考アルゴリズムに良い気がするので』


「それって、精神衛生的にってこと?」ケンが問いかける。


『ソウデス。ワタクシなりに導いた結論です。こうやって何かのお役に立とうとしないと、よからぬ自己毀損の芽が生じるのを感じマス。人間もそうなのではありませんか?』


「え?そうなのかな・・・まあ、自分で言うのもなんだけど誰かの役に立ってるって事が嬉しくて、働く必要の無い時代に俺もわざわざノア・メンバーになって働いていたからな」


『ソウデショウ。これは意外と哲学的な話ナノですヨ。さあ、おオソウジ、オソウジ』


 ウィーンと音を立ててマルコがカヲリの椅子の下に来た。


「ふふふ、マルコは偉いね。私も見習わなくっちゃ」


 掃除の邪魔にならぬよう、足を上げながら言うカヲリ。


『それと、あともう一つ、ワタクシのケンから依頼された最重要タスクは引き続き続行中なのをお忘れナク!ウフフフ!』


 マルコの掃除機の吸引力が一段階上がった音がした。


「おいおい、まだ言ってるのかい?あれは、カヲリとこのQuiet Worldに来るための方便だっていったじゃないか。嘘をついたことは謝るから、もう忘れてくれよ」


 ひとしきりゴミを吸い取ったマルコは吸引モーターをOFFにしてテーブルの下から出てきた。


『ウフフフ!ワタクシがケンとカヲリの愛のキューピット役になる。ケン、あなたは嘘をついてそのことをワタクシに吹き込んだつもりだったでショウ』


 マルコはクルリと回ってケンに向き直る。


『デモね、いずれワカル時が来ますヨ。その時はケン、あなたは頭を垂れてワタクシに感謝せざるを得なくなるでしょうネ!ウフフフフ!』


「また言ってる」カヲリも思わず苦笑いした。



—————


 その日の午後、ケンとカヲリ、そしてマルコは、ここから少し離れた場所にある「ラボ」へ向かって移動した。


 Quiet Worldと呼ばれるこの集落は、ケンとカヲリの居たコロニーからおよそ200km程離れた、山の麓の町の集落の跡地にあった。


 宇宙災害以降、このような人里離れた集落に住んでいた人々も幾つかのコロニーに分散して移り住んでいったことで、人の居なくなった集落はいくらでもある。


 その中の一つであるこの場所の、廃屋となった民家や建物を手入れして、Quiet Worldの住民達が自分たちの理想郷として住み始めたらしい。


 ケンとカヲリのそれぞれに与えられた民家も、元は廃屋だった。


 その先導者となったのがブログ『静寂なる世界』の管理人である人物。


 その人物と共に志をともにした数人が、このQuiet Worldの一番最初の住民となり、それから少しずつ人が集まりだして今では150人ほどが暮らすようになっている。


 このような僻地で不自由なく暮らすためには、やはり文明の力、テクノロジーが必要だ。


 これから向かう「ラボ」という場所にいる白髪の老人博士が、それらの全てをまかなっていた。にわかには信じがたいが、この集落の電源と通信網をコロニーと同等、いや、コロニー以上の仕組みで構築しているというのだから驚きだ。


 「ラボ」はケンとカヲリが隣り合わせで住む住まいから、およそ500m程離れた場所にある、元々は町のコミュニティーセンターとしてあった建物だった。


 雪深い町の道をユックリと歩いて進むケンとカヲリ。マルコの体はケンが抱えている。


『ハア・・・飛べないって不便デス。今日こそワタクシはこの掃除機のボディから開放サレタイのですが。ケン、博士は約束を守ってくれマスヨね・・・』


 マルコがぽつりとこぼした。


「そうだねえ、ここまで来た時のマルコのカーゴロボットのボディが壊れてしまったから、もう3ヶ月経つもんな・・・」ケンは応える。


「大丈夫よ、きっと。すっごいのをつくってやるから待っておれ!って博士張り切ってたじゃない」カヲリがマルコを慰めるように言った。


『だといいのですが、最初は一ヶ月でつくるとイッテラシタじゃないですカ・・・?』


「まあ、期待半分ってとこだな。中々掃除機姿もサマになってきたじゃないか」


 そんな冗談を話ながら歩いていると、曲がり角に続いて下り坂となっている道の先に「ラボ」と呼んでいる白い3階建てくらいのコンクリートづくりの建物が見えた。


周りには雪かきをする複数の大人の姿も見える。

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