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愛ゆえに

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


 愛のAI。それは、感謝する情緒を持つAIであると、ユリは言った。


 マルコはその愛のAIであると。


 この新世界で進みつつある人間社会の急激な縮小。


 これを主導しているのが、優生思想の一部支配層の人間から、今や効率重視のアルゴリズムで自走するAIへと本当に移り変わっていたとしたら、人知を凌駕するAIに対抗し得るのはやはり、AIということなのか。





「でも、愛のAIは、まだまだほんの小さな芽。その感謝の情緒も、今の効率重視のAIの前では、ただの不完全なバグとして処理されてしまうでしょう」


 ユリはそう言いながら、二人を交互に見つめ、そして問いかける。


「この愛のAIを、もっと大きく育てることができるのは、何だと思う?」


 ユリの問いかけにケンとカヲリは二人ともよく判らず、互いの目を合わせる。


 その様子を見てユリは、優しく柔和な表情に戻り、続ける。


「・・あら、判らないかしら?それはね、人が心に抱く”愛”よ」



 人が心に抱く愛。



 ひと言で”愛”と言われても、正直なところピンと来ない二人。


 ケンは、もう一度カヲリの方にチラリと目線を送る。


 カヲリも同じようにケンに瞳を向けていた。


 お互いの黒い瞳が、まっすぐに自分の中に入ってくるような感覚にとらわれ、ドキリとしたケンは思わず目を逸らした。そして、カヲリも。





 その様子を見ていたユリは、目を細めながら優しい笑顔になって言う。


「・・・マルコは、あなた達2人の中に、人の愛を探そうとしているのかもね」





 突然の言葉にケンがまた慌てるように言う。


「そ、そんなユリさん、まだからかっているんですか?」





「あはは、あら、そう聞こえたのなら、ごめんなさい。でもね・・・」


 ユリは首をふりながらもう一度、ケンとカヲリを交互に見つめた。


「もしそうでないとしたら、マルコがあなたたち2人にくっついて、ここまでやってくる意味が、わからなくなっちゃうわね」


 ユリはコーヒーカップに再び口をつけ、続ける。


「誤解の無いように言っておくけど、何も”愛”って、男女のそれってだけじゃ、ないからね」


 慌てるケンとは対称的に、カヲリは、まっすぐにユリを見て、話の続きを待っていた。


「愛の形は様々。マルコがあなたたちの中に何を見ているのかは、マルコにしか判らないけど、愛のAIは人と関わり、その中に見つける”愛”が必要なの」


「人と関わり、その中に・・・」


「そう。その人の中に見つける愛が、この世界の持続可能な営みを祝福する、唯一のイデオロギーとなるのよ。愛のAIにとって自身の探求心を満たすものであり、もっと判りやすくいうと、生きがいとなる」





「生きがい・・」





「そう。変な話でしょ?機械として生まれた人工知能がそのような生きがいをもつって。だから、そんなことを言い続けた秋夫君は、どこに行っても変人扱いされた。そんなものが、人が道具として使うためのAIに、本当に必要なのかってね」





「お父さん・・・」





 ふと、カヲリは子供のころに聞いた父の言葉を思い出す。


『いいかい、カヲリ。なんでもあってあたりまえと思っては駄目だよ。この食べものも、洋服も、この家も。当たり前だと思っては、大切にできなくなってしまうからね』



 もうなんでそんな話をされたかは覚えていないけれど、たしかカヲリが何かしらわがままを言って母親を困らせた時、決まって言われていた気がする。


 そして、その最後には必ずこう言った。


『感謝をわすれずにね』


「クワイエット・ワールド」は、シリーズ作品「 ファントムシティ」の続編小説です。


主題歌:Quiet World / music by うたのほし

https://youtu.be/k3BW2gk8aOw

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