跋
初出:カクヨム
https://kakuyomu.jp/works/16816700426809476053/episodes/822139843731754115
乙巳の年に蛇の話をということで始めた『乙巳蛇話』である。
巳年のうちに話を〆ねばと思っていたけれども、読者諸賢ご賢察のとおり、僕は相も変わらずぐずぐずしていた。そうして、あっという間に、新年を迎えてしまった。
実に始末の悪い話である。
そうは言いつつも、思えばまだ旧正月は来ていないではないか、旧暦で言えば今はまだ巳年であるからして、なあに大丈夫大丈夫などと言訳を頭の中でこね回しながら、一向に筆に手が伸びない日々を過ごすこと廿日余り。あれよあれよと言ううちに小寒も七草も鏡開きも小正月も大寒も過ぎてしまった。
そうして今朝、三上のうちの最もかぐわしき場所である、件の個室にこもって背中の下の方に力を集中し終わった折にはっとして、かかる体たらくは、そろそろ耳順を迎えようとする老大にしてはあるまじき振舞也、愧ずべし愧ずべしと到頭観念した。
そうと決まったら思い立ったが吉とばかり、紙を使い水を流し手をそこそこに洗うや、急ぎ足で机辺にやってきて、そのままキーボードに向かっているのが今である。
『乙巳蛇話』の構想を思いついたのは、旧暦ではまだ辰年であった。旧の辰年に考え始めた物語を巳年に連載し新暦の午年に終えようというのだから、讀者諸子に謂ひて曰く、「龍頭蛇身馬尾」、略して「龍頭馬尾」と。
『甲子夜話』になぞらえた『乙巳蛇話』、「龍頭蛇尾」になぞらえた「龍頭馬尾」。
吾ながら中々に旨いものだなどと悦に入りながらこうして駄文を重ねているわけだけれども――
思えば、『乙巳蛇話』の構想としては、月に一話ずつぐらいは連載していこうじゃないかなどと皮算用していたところ、当初は思うとおりには一向に稿が仕上がらず、年も半ばの六月に至るも、序を除けば、エピソードはたった一つだけという惨憺たるありさまだった。しかるに八月以降、殊に十月以降は、立続けに数話を投ずることができ、何とか曲がりなりにも体裁を整えることができたように感ずる。
終わり良ければ総て良しという言葉がある。まあ、当初の目論見どおりの話数には若干届いておらず、しかも跋文をものする時機が年を越してしまった現状を鑑みるに、厳密に言えば「終わり良し」とはしがたいのかも知れぬが、ご愛敬、ご愛敬。
既述の如く、亞細亞人たる吾人にとって真の意味での新年はまだ来ていないのである。旧暦の師走はまだ始まったばかり。めでたくこれで『乙巳蛇話』シリーズにけりをつけることができるとすれば御の字である。
午年の馬だけに「けりをつける」とは、またしても吾ながら上々吉なる次第。実に、ウマい落ちを付けることができた。
えへん、えへん! 諸君、よろしいですか、これで終わりと致しまする。
<了>




