2.涙の朝食
ミナが目を覚ますと知らない天井が目に入る
何人が寝れるだろうかと思える広いベッドの天蓋からかかった白いレースが
大きく開いた窓からの風で揺れている
心地良い鳥のさえずりを聞きながら部屋を見渡すと
真っ白に輝く床と壁に豪奢な家具と艶やかな調度品が並んでいる
(――生まれてはじめてこんな広いベッドで寝たわ……)
ナカ王国にいたころは
王宮にある聖女であり第一王妃の部屋は使わせてもらえず
王都にあるナカシタ家が持つタウンハウスでは
継母と義理姉に締め出されて
従者たちの共同部屋の片隅で寝ていたし
王宮での仕事が多くて帰れないときは
地下の祈りの間に
ミナだけが発見した隠し部屋の硬い石の床の上で寝ていた
(……ここは何処なのかしら?
随分と体の調子が良くなってるようだけど
一体何日くらい寝てしまっていたのかしら?)
あたりを見回していると
きれいな花を生けた花瓶を持ったミナと同い年くらいの侍女が部屋に入ってきた。
ミナと目があうとその侍女は驚いた様子で
「奥様が目を覚まされました!!!」
と言って大慌てで踵を返して行ってしまった。
(ここが何処かくらいは教えてほしかったのだけれど。)
今度は、食事を持った先ほどの侍女とポーラが現れる
ミナはその食事にくぎ付けになってしまう
なにせもう何日まともな食事をしていないかわからないほどなのだ
(――麦粥のスープだわ、美味しそう……
今食べ始めたらはしたないわよね、ダメよね……)
涎を垂らすミナを見たポーラが厳しい顔つきで
「奥様!」
「は、はい」
「これから奥様の身の回りのお世話はこのアリスが行います」
ミナはアリスの方に体を向けて笑顔で挨拶をする
「アリスさん、どうぞよろしくお願いいたします」
アリスは目を瞬かせて動揺しポーラを見てハッとしてミナの方にカーテシーで挨拶をする
「こちらのほうこそどうぞよろしくお願い致します、奥様」
「あの、奥様なんかではなく名前などで気軽に読んで頂いた方が性に合っ「奥様!」」
ポーラがミナの話を遮った
「はい!」
「従者に敬語は困ります」
「わかりました」
「困ります!」
「…‥。 わかったわ」
ポーラはコホンと咳払いをしてアリスに目配せをすると
アリスがスプーンで麦粥のスープを掬ってミナの口へ持っていく
(自分で食べれるのだけれども、ここは従ったほうが良さそうね……)
パクっと口入れた次の瞬間、
ポーラとアリスがぎょっとしている
ミナは自分でも気づかぬうちに涙を流していた
(こんな優しい味のする食べ物初めてに食べたわ…‥
あれ?視界がおかしいわ。
――私なぜか泣いてしまっているのだけれど、どうしてかしら……。)
その後涙をアリスに拭いてもらいながらこれまでのいきさつをポーラから聞く
彼女達の話によると
ここは右大陸のミギノミギシタではなく
そのとなりにあるミギノヒダリシタ国のクレメンス領にある領主邸宅だそうだ。
ここまでどうやってきたかというと
倒れたミナにポーションを飲ませて
カゲロウと言う妖刀の力を使って
ミナをその妖刀に閉じ込めて連れてきたそうだ
……そうしないと聖教会が放った刺客に殺されてたとのこと。
もしナカ王国から取り寄せたいものが
あれば使者を送ると言われたがお断りした
――関わりたくないし何もない
ポーラは侍女長で家事長でもあって忙しいこともあり
年の近いアリスをミナ付きの侍女にと配慮してくれていた
ちなみに涙を流した麦粥のスープの作り手はなんと
この屋敷の主でもある『ジェラルド・クレメンス』旦那様本人だそうで……。
今はミギノミギシタ駐屯地に軍医として出ていて
今夜ミナの体調が大丈夫なら一緒に食事をする予定になっている
とのこと
(――とにかくここまでこれてよかったわ
祈りの間の地下で見つけたたくさんの本が私の生き甲斐だった
すべて発禁本なのだけれども、でもあの本達のおかげでホントに助かったのよね
そして、本によく出てくる伝説の人『ウキグモダユー』のファンになっちゃったのよね私
だからウキグモダユーが生まれた地ミギノミギシタに行って私もそこから心機一転
0からスタートしてみたかったのよね
貴族でも聖女でもないただ一人の女として
だからここの主の方には悪いけど
悪い噂は訂正せずに、ここからも追放してもらわなくちゃ。
もしそれが叶わなくても
闇属性の私が錬金術を研究しているとでもいえば
置いておくわけにはいかなくなるでしょう)
◇◇
人々はみな魔法が使えて各々に属性を持っている。
【火、水、土、風】
が主な4属性でほとんどの人がこの4属性のどれかだが
稀に【氷、雷】を持つものがいる。
そこからさらに稀に【光、闇】があり
光属性のものは治療ができるので聖教会に囲われて好待遇を受けるものがほとんどで
光を持つだけで将来が約束されているといわれる。
そのいっぽうで逆に闇属性は虐げられる運命にあった
闇属性のものは錬金術に長けているのだが、
全大陸に影響力を強く持つ聖教会がその錬金術を禁忌としているため
闇属性を持つものは迫害をうけているのだ。
ミナの憧れの存在だったりもするウキグモダユーという歴史上の人物は
錬金術の始祖で魔女と呼ばれ忌避される存在であるため
名前を出すことも憚られる。
また、ウキグモダユーは絶世の美女でかつて超人気娼婦でもあり
房中術のスペシャリストでもあったとされているので
貴族のものは余計に口にはしない存在だ。
◇◇
ここまで読んで頂いてありがとうございます!
自分も超特大ベッドで寝てみたい
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