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もし戦国時代に生きていた人物が転生したら

お前にならと、そう思う

作者: まっちゃん

戦国武将転生です。

シリーズ化する予定です。

よろしくお願いします。

 



 記憶が蘇ったのは、弟が産まれた時だった。

 膨大な記憶は俺の頭に痛みと共にやってきて、赤ちゃんを産んだばかりの母親に多大なる心配を掛けてしまった。


 しかしそれを大丈夫だと伝える事も出来ず倒れてしまい、その後数日間目を覚さなかったようだった。


 目が覚めた時には既に母親は産院から退院していて、むしろ自分が病院に入院していた。

 父と母には心配を掛けてしまったと反省すれど、どうしようもなかったと思い直す。


 記憶が蘇った事による人格の変化は、俺がまだ幼かった事もあり違和感で終わったようであった。


 正直、記憶が蘇った事によって現代の記憶が一気に曖昧になった。流石に両親が居た事くらいなら覚えてはいるが、顔を見るまで靄がかかったようにしか思い出せなかった。


 まさに記憶が曖昧であっても、自身が幼かったのに助けられた。

 弟とは三歳程しか離れていない。つまり記憶が蘇ったのが自分が三歳頃の事。

 多少の変な行動は、まだまだ幼児という事で誤魔化された。



 それからずっと、俺は俺であった。

 現代の人格は、一体何処へ行ったと言うのか。

 俺は今でも、戦国を想う。


 特に弟を見ると、心が軋む。

 これは、あれか。



 俺への贖罪か。



 何故弟が産まれたのだ。妹でも良かったじゃないか。

 むしろ俺が下でも良かったのだ。

 何故、弟なのだ。


 わかってる。こんなのはただの罪の擦りつけだと言うことくらい。子供を産んだ両親も、産まれた弟も何も悪くは、無い。


 何年も何年もそうして、自分を騙し騙し過ごしてきた。

 少し弟と距離を取っていたのは、仕方が無かったのだ。

 俺が俺である限り、弟に純粋に優しくする事が出来るのか甚だ疑問だった。


 俺は俺でも、弟は別者だ。

 しかし切り離して考える事が出来ないのは、俺が成長してないのか、それとも。

 罪だと、そう思っているからなのか。


 いつまで経っても俺は現世に馴染めなかった。

 表面上は繕えていたとは思う。まだ幼かったからこそ、戦国の世と現代の差異に混乱しながらも周囲には違和感を感じさせてはいないと思う。


 けれど俺自身は、違う。

 全てが違うのだ。

 風景も自分も、それこそ目に映る何もかもが。



 何年、何十年経っても。それこそ時代を跨いでも。

 弟を助けてやれなかった苦悩が、纏わりつく。


 名を、残せた事に後悔は、無い。

 父も弟も切り捨てた。それでも後悔は無いと、胸を張って言える。


 父も、俺と同じ考えだったように思う。

 敵対しようとも俺達が分散されている時点で、どちらかの勢力が負けたとて名は残る。名を残して行くのが、俺と父の悲願であった。


 弟には好きなようにしろと、それだけ伝えた。

 そしてその言葉通り、弟はまさに自身の信念を貫き通したと思う。

 戦国に生きる者として、羨ましくなかったかと言われれば、それはもう間違いなく羨ましかったけれど。


 名を残していく事もそうだが、敵側に行く事は俺の立場が許さなかった。妻も義父も徳川側だ。


 裏切るわけには、いかなかった。


 その後の人生も、色々あった筈なのに。

 今更ながら思い起こすは、何もしてやれなかった弟の事ばかり。


 それを現世の弟を見るたび、戦国の世での弟を思い出させるのだ。

「兄ちゃん。」

 そう呼ぶ弟を見るたびに。

「兄上。」

 と呼ぶ、前世の弟が、過ぎる。


 俺は俺なりに太平の世を、求めていた。


 例え弟が俺に対して遺恨を残していようとも、名を残し世が平和になった事に比べれば些末な事だと、本気で思っている。


 こうして生まれ変わるなんて事もあるのだ。恨みで殺されたとて、そこに悔恨は、無い。


 現世の弟ではなく、戦国の世の弟が目の前に現れたら良いと、そればかり願う。

 詰られようとも、責められようとも、むしろ殺されようとも。

 俺は笑って受け入れよう。


 弟を想う気持ちが、澱のように心に溜まっていくのだ。


 本当ならば、俺よりもお前が生き残るべきだったのだ。

 そう思う気持ちは戦国の世の頃から、ずっと変わらない。



 父の死に目には、会えなかった。

 それはお互い納得の上、仕方が無い事だと当時は切り捨てる事が出来た筈であった。葬儀が出来なかった事もすまないと思えど、やはりそれも仕方が無かった。


 けれど弟に関しては、違う。



 お前は俺が逃げたと、思っていたのであろうか。


 関ヶ原の本戦には参加出来なかった。

 父と弟が上田城で、俺を関ヶ原へと向かわさないようにしてきた。

 正直、直ぐにでも関ヶ原に向かいたかった。

 いつまでも上田城で、家族で有る筈のお前達と戦っていたくはなかったから。


 そして、関ヶ原で西軍大敗。

 その後流罪となったお前に会いに行った事は有ったが、余り時間は取れなかった。


 それでも俺はお前が大事だった。援助を切らした事もなかったし、様子の確認もしていた。


 なのにお前の考えが、信念が、俺には理解の外であった。


 気付けばお前は、大阪城へと入城していた。


 そこまで。

 そこまでしてやり遂げようとしているお前が、本当に羨ましかった。

 豊臣は、もう終わりなのは確実だったのに。


 それと同時に。

 酷く、妬ましかった。



 あぁ、俺はやっぱり純粋に弟であるお前を想っていた訳では、無いのだとやっとの事で気付く。


 幸村。



 俺がお前にしてやれる事など、無かったのかも、しれない。

 せめてもの救いに、と思っていた筈なのだが。

 俺が俺自身の気持ちに気付けば、そうでなかったのかもと感じるのだ。

 俺は最期までお前と顔を突き合わせて戦う事を、選択出来なかった。


 最期であろう大阪の陣でさえ、俺は幸村に会わない選択をした。




 目を閉じれば、未だ全てが鮮明で。

 むしろ前世で死ぬ前の時の方が、戦国の世であった乱世を覚えてはいなかったかもしれない。







「・・・・・・ちゃん!兄ちゃん!!」

 ハッと目を開けると、目の前には現世での弟。


「いつまでボーっとするつもりだよ!」

 俺が距離を測りかねているのでさえ気付いているのに、そんな事は気にもせず俺を兄だと慕ってくれている。


 良い奴だな、と思う。


 前世も、今世も。

 弟は、良い奴だった。


 どちらも矮小な俺には、過ぎたる弟。


「あぁ、すまない。」

 何年も、何十年も素気無くされてなお、何故慕ってくれるのだろうか。


 俺は弟の顔を見ずに、立ち上がり背を向けて歩き出す。


「兄ちゃん。」

「何だ?」

 背を向けたまま、返事を返す。


「兄ちゃんは一体、俺を通して誰を見てるの?」

 感情を、押し殺したかのような声であった。


 ピタリと、歩いていた足が止まる。


「・・・・・・・・・・・・・・・」

 避けている事は当然の如く、気付かれているだろう事は予想の範囲内。


 だが、まさかそこまで見抜かれているのは、些か予想外で。

 動揺が態度に、出てしまった。


 あぁ、しまったな。と思えど、今更取り繕う事も出来なくて。


 チラッと後ろを伺い見れば、真剣な顔で弟が俺を見ている。

 思わず手で顔を覆ってしまう。


 何処をどう見て、そう思ったのだろうか。

 流石にそんな事まで、わかるとは思えないのだけど。


「何でそう思う?」

「兄ちゃん、俺を見てるようでいつも、俺を通して別の人を見てるような顔してる。」

「・・・・・・・・・」

 気のせいだ、と一喝するのは簡単だ。

 けれどこの聡く俺の視線の先に気付いている弟に、それで良いのかと自問自答する。


「間違ってないでしょ?」

 コテン、と首を傾げる弟を見る。

「誰を見てると、言うんだ。」

 悪あがきのように、唸るような声で呟く。これでは否定したところで、嘘にしか聞こえないだろう。


「流石にそれはわかんないけど。

 でもずっと俺を見る兄ちゃんは、別のものを見てる。

 俺は何で兄ちゃんに避けられてるのか、ってずっと兄ちゃんを観察してたおかげか、観察眼が育ったと思うんだけど。」

 実際間違ってないでしょ?と笑う弟を見て、前世も今世もどちらの弟も賢いな、と思う。


 それとも、俺が分かり易過ぎなのか。

 ちょっと自分の迂闊さが、恨めしい。



 どうしようかと、思う。

 前世の記憶があってお前が前世での弟に見えるなんて事、言えるわけが無いのだ。

 けれど誤魔化す事も、叶わなさそうで。


 ・・・どうしようか。


「どうしても。

 駄目だと知っているのに、お前を見ると俺はどうしようもない感情に翻弄されるんだ。」

 意味は、わからないだろう。

 それでも今まで俺という兄に、蔑ろにされていた弟に嘘を付くのも忍びなかった。


 実際弟はよくわからないと、難解なパズルを解くかのような顔をしている。

「後悔がある訳じゃないのに。それでもお前の顔を見るだけで俺は償う事さえ出来ない罪の意識に苛まれるんだ。」


「それは兄ちゃんがたまに此処に居ないような、まるで消えそうに感じる時と同じ理由?」

 痛ましい顔になっている自覚は、ある。

 何だか泣きそうだ。


「消えそう、か。

 そうだな。

 消えたいと、思う事も、ある。」

 けれどそれは決して、自殺とかでは無いのだけれど。


「死にたいの?」

 確かにそう思っても、仕方が無い言い方だったかもしれない。


「いや、死にたい訳じゃない。」

 でも、と小さく小さく呟き弟に近寄り耳元に口を寄せる。


「でもお前に殺されるなら、俺は受け入れるよ。」

 幸村。これは口に出さず、口の動きも見られずに。


 そして弟から離れ、再度背中を向けて歩き出す。


 チラリと見た弟の顔は、俺が言った事が冗談じゃないと気付いているようで。

 青い顔で呆然としていて、俺を追い掛けたりはしなかった。



 あぁ、やっぱり俺はこの現代には馴染めないな、と誰にも聞こえないようなに小さく呟くーーーーー






真田信之。

父である真田昌幸、弟である真田幸村は西軍に。

真田信之の正室が本田忠勝、徳川家康の忠実な家臣であり、東軍に属しました。

真田家が分断された事で、真田家は滅亡する事はありませんでした。


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