雫と晴の初喧嘩!?
「晴、醤油とって。」
何気ない朝食中の会話
「はいっ!どうぞ!でも何にかけるの?」
にこりと笑顔を浮かべ雫に醤油を渡す晴
「何って、目玉焼きに決まってるじゃない。」
当然だというような雫の表情に驚く晴。
「ええっ‼︎目玉焼きには塩胡椒でしょっ!?」
のちに思いかえせば本当に些細なきっかけで二人の関係に亀裂が入り始める。
「えっ…?」
「それにもう塩が振ってあるのに醤油かけたら健康に悪いよ‼︎」
晴にしては珍しく強い口調で雫に言い返す。
「僕の家は代々醤油派だったんだよ…でもなんかショックだなぁ。晴は僕の半身だと思ってたのに。」
噛み付くような言い方が少し癪に触った雫は、ため息をつきながらそう言った。
「俺はただ雫の健康を心配して言っただけなのに、勝手に幻滅されたー!てか半身だと俺たち夫婦になっちゃうからね!?」
頬を膨らませて怒る晴
「確かにそうだね、なら家族でもなくて友達とは少し違う僕達の関係って例えるならなんなのさ。」
ふと浮かんだ疑問をぶつけた雫
「一心同体の二人組…心…互いの心臓?」
一心同体という言葉の意味を噛み締め、考えながら晴がそう口にすると、引き気味の雫がこう言った。
「わーなんか重っ…」
「何さ!俺だって恥ずかしかったよ!一心同体から連想した中で言っちゃっただけなのに‼︎雫の馬鹿‼︎」
晴は恥ずかしさのあまり思ってもいなかった事を口走ってしまった。
「ふっ、馬鹿なんて言葉選びをするなんて幼稚だな。」
晴が謝ろうとするより早く、雫があきれ気味にそう呟いた。
「俺はどうせ雫より馬鹿で幼稚だよ!これから一心同体としてやっていく自信なくなってきた…」
思った以上に幼稚という言葉は晴の心を抉っていた。
「何もそんな風には言ってないだろ!?でも奇遇だな、同じく一緒にやっていく自信はなくなってきたよ。」
雫の視線の冷たさに過去のトラウマがフラッシュバックした晴は、思わず身をすくめ何も言葉が出なくなった。
「なら解散しようか…」
晴はそう言って立ち去って行く雫の背中を、追いかけたい追いかけなければとは思いつつも金縛りにあったかのように動けなかった。
やがて体の力が抜けて、ペタリと地面に座り込んだ。
それかずっと晴がうずくまって泣いていると、目の前に意中の相手が現れた。
初めは願望が見せた幻かと思ったが、雫その人だった。
「ちょっと晴、なんで追いかけてきてくれないの?まさか本当に解散するつもりだったんじゃないだろ…?」
心配と不安の瞳で晴を見つめた後、少し拗ねて見せた。
「僕だって、晴が隣にいてくれなきゃ一人になる。」
晴は目にいっぱいの涙を浮かべて、精一杯雫の名を呼び、言葉を紡ごうとしている。
その様子を見て自分が馬鹿らしくなった雫は、落ち着くようにそっと晴の背を撫でて、優しい声で囁いた。
「ごめんね、晴。晴の過去の話も聞いた事あったのに意地の悪い冗談だった。完全に僕のやりすぎだ。
晴に、甘えすぎてた。」
そう言って雫に深々と頭を下げられ、晴は驚き慌てた。
「そんな…顔を上げてよ…!馬鹿って言ったのは俺だし、追いかけてダメだったらって俺は怖くて動けなかった。雫、戻って来てくれてありがとう…!」
口にすると雫が戻って来てくれた安堵が込み上げて来て、また晴は涙した。
「晴、これからもそばにいてくれる…?」
つられて涙がこぼれ始める雫からの問いかけに、「決まってるじゃん‼︎」といつもの明るい笑みを浮かべようと顔を上げると目があって、二人は涙でぐちゃぐちゃになった互いの顔と考えると本当に小さくてくだらない喧嘩の理由が、ずいぶんと壮大な話になったものだと笑い合った。
違いも認め合い干渉する距離感も掴んだ二人の関係性は本当の意味で一心同体になり、これ以来喧嘩をする事はなかった。
飲み会の場などでよく、二人は喧嘩をした事があるのかと聞かれる。
その時にこの話をするととても驚かれると共に、直接は聞かれないが喧嘩前の距離感についてとても興味を示される。
しかし、喧嘩の原因と仲直りの方法は、二人だけの秘密である。