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【コミックス3巻発売】結婚前日に「好き」と言った回数が見えるようになったので、王太子妃にはなりません!  作者: 来栖千依


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38/41

SS① 王太子の短くも長い一カ月

 十一輪目の薔薇を渡せなかった王太子に、世間の目は同情的だった。


 幼い時分から王太子妃教育に励んできたキャロル・シザーリオ公爵令嬢が、今になって十二夜から逃げたがっているという話が、まことしやかに囁かれていたからだ。

 公爵令嬢は、王太子を嫌っている。そう信じる者もいた。


 実際には、レオンを心から愛しているからこそ、自分との十二夜を阻止しようとしたのだが……。


 セバスティアンの申し出もあり、窃盗団の魔の手から救い出されたキャロルは、シザーリオ公爵邸で療養することになった。


 王太子の側から婚約者が去った。

 これを好機とみた貴族たちは、こぞって城に娘を送り込んだ。

 十二夜に失敗して消沈している王太子に見初められれば、家から未来の国母が生まれるかもしれない。


 親の打算をくみ取った娘たちは、行儀見習いという名目で王妃の侍女仕えをしながら、偶然をよそおってレオンに近づいた。

 もっとも多かったのは、廊下ですれちがう瞬間に、貧血を起こして倒れる手口だ。


「あ~れ~~」


 今日も、どこかの貴族令嬢が倒れた。

 レオンは、側近の騎士に目をやって、体を抱き起こさせる。自分では手を貸さずに、あくまで上司として命じた。


「王妃の部屋へ連れていけ。いきなり倒れるか弱い者に侍女仕えさせるなと、実家に送り返すように注進するのも忘れるな」

「えっ!? 待ってください、助けていただいたお礼を申し上げたいです、レオン王太子殿下!」


 侍女は、元気に飛び起きた。貧血を起こした人間が、ここまで俊敏に動けるはずがない。無視して廊下を進んだレオンは、執務室に入って溜め息をついた。


「爵位をもって生まれついているのに、なぜあそこまで浅ましい……」


 キャロルであれば、仮病で倒れて相手に取り入るような真似はしない。

 好きになったら一直線で、誰に対しても素直で、この世のすべてを慈しむ優しい心を持っている。


 キャロルの純粋さに救われているのは、レオンだけではない。セバスティアンも、シザーリオ公爵家の使用人も、王城の奉公人たちも、彼女の朗らかさに助けられてきた。彼女を思う者たちは、十二夜の中止を自分のことのように嘆いている。


 レオンは、椅子にぐったりともたれかかって、疲れた目を手で覆った。


「……キャロルに会いたい」


 だが、まだ迎えには行けない。


 国王に十二夜を再開したいと話したところ、前例がないと却下されてしまった。

 前例を見つければ認められると考えたレオンは、司書と手分けしてエイルティーク王国の歴史書を調べている。だが、調査は難航していた。


 十二夜が中止になって破断した結婚は数多くあれど、再開して結婚した王族はいない。たいていが別の相手と十二夜を挙げている。


 このまま前例が見つからなかったら、レオンはキャロルを諦めなければならないのか……。

 悩んでいたら、部屋に側近が入ってきた。


「レオン様、王妃殿下がお呼びです。たまには、一緒にお茶でも、と」

「……行こう」


 お茶はキャロルととるのが日常だったので、母親と対面するのは久しぶりだ。

 レオンが服装を整えて温室に行くと、白いクロスをかけたテーブルに王妃マライアが腰かけていた。


 成人した息子がいるとは思えない、美しく若々しい容姿は今日も輝いている。だが、レオンの足を止めさせたのは、テーブルに飾られた薔薇のブーケの方だ。

 大輪の白薔薇が十本。しかも枯れかけている。


「王妃殿下、その薔薇はもしかして……」

「キャロルちゃんのよ。十二夜が中止になって押収されたのを譲ってもらったの」


 なぜ、とは聞けなかった。彼女もまた、十二夜の中止を悲しんでいる一人なのだ。


 王妃に勧められて椅子に腰かけたレオンは、サーブされた紅茶に口をつけた。

 柔らかな口当たりで、果物の濃厚な甘さと、豊かな香りがおいしい。


「フルーツティーですね。珍しい」

「疲れたときには甘いものが一番よ。あなたには私のせいで苦労をかけてしまったもの。占い師ニナが悪人だと知らずに、城に引き入れてしまったわ」


 ニナは、王妃に取り入って城に出入りし、宝物庫からお目当ての宝石を盗み出した。このせいで、王妃は国王にかなり叱られたと聞いている。


「キャロルちゃんが無事で本当によかった。王妃付きの侍女が色々と噂しているけれど、彼女は、レオンや私のことを嫌ってしまったの?」

「そんなことはありません。相談役の女性の話では、十二夜の中止を悲しんではいるものの、俺や王族への気持ちは以前と変わりないようです」


 王妃は、ほっとした顔で両手を合わせた。


「それなら、まだ私の娘になってくれる可能性はあるってことね! 私、娘を持つのが夢だったの。レオン、さっさと国王陛下を口説き落として、十二夜を再開してちょうだい」

「それができないから、毎晩、徹夜しているんですよ……」


 頭をかかえるレオンを、王妃はクスクスと笑う。


「前例がないといけない、だったかしら。私、そういう話を聞くたびに不思議に思うわ。その前例を最初に作った人は、同じように責められたのかしら」

「責められたのでは? 王族は、ことさら伝統に厳しいでしょう」

「厳しいわね。でも、不可能ではなかったのよ、レオン」


 丁寧な王妃の言葉に、レオンの視界が晴れた。


「……前例があるかどうかは、重要ではないと?」

「ええ。王族の結婚を認めるのは国王陛下。あなたのお父様に認めてもらえば、最初の人になれるわ。書庫に籠っているより、毎日、国王陛下の執務室に押しかけて、キャロルちゃんへの想いを打ち明けた方が、心は動くと思うわよ」

「そうします」


 レオンは、カップの紅茶を飲み干して、席を立った。

 姿勢を正して腕を直角に曲げる、騎士団式の最敬礼を王妃に向ける。


「ご無礼を承知で離席させていただきます、王妃殿下」

「今度は、キャロルちゃんも入れて、三人でお茶をしましょうね」


 温室を出たレオンは、大急ぎで王太子の仕事を片づけ、国王の元へ向かった。


 それから一カ月ほどかけてキャロルへの熱い想いを訴えていき、ついには十二夜の再開が認められた。

 どうして認めたのか尋ねた侍従に、国王はこう答えた。


「認めなければ息子は誘拐犯になる……確実に」


 疲れた様子で吐露する国王に、侍従は心から同情したという。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まあ下手すりゃ心中とか理不尽さにキレて窃盗団や言い寄る雌豚を大量虐殺とかに繋がるからな 前例が作り出されて法が変わるのは、取り返しのつかない悲劇が起こってからなんてパターンが多いですしねぇ…
2024/03/26 06:57 退会済み
管理
[一言] 私もレオンのキャロルへの熱い想いを聞きたいですー!!
[一言] 誘拐犯ww
感想一覧
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