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錬金術師と魔導書(未完)  作者: 彬マキ
プロローグ
3/33

学院

設定上おかしかったので、学院にたどり着くまでの展開を修正。

一行は王都の門に続く街道へ降りる前に、目立つ疾駆龍を隠す。あらかじめ決めてあった場所のようで、後からくるシーゼル達が回収するのだという。

子供たちに頭巾のついたマントを配ると、自分たちも同じようなマントを羽織る。そして、エルとフィルがケルッサと、それ以外の子供たちと残りの4人で行動を開始する。


エルたちは門までたどり着くと、ケルッサの誘導で兵士用の通用門へ向かう。ケルッサが何かを掲げてみせると誰何されることなくあっさりと通された。生暖かい視線や、「大変ですね」と声を掛けられることから、ケルッサの子供だと思われているようだ。


中に入ると、市場で賑わう一画に向かい、そこで他の7人と合流する。旅人用の門から入ったが、空いている時間帯だったようで、それほど時間がかからず通過できたらしい。


マントを脱ぐと、一行は市場を抜け、そのまま中心へと向かう大通りを移動する。


王都はほぼ中心に王城を構え、その周囲を取り囲むように街が広がってる。城壁は二重となっており、主要な機関はほとんどがその内側にあるらしい。


2つ目の門を越えたところでケルッサに、何処に向かっているのか尋ねると「学院ですね」と短く返事を返される。先ほどまでの荒い話方から、昨日のような柔らかな話方に戻っている。固い声の調子に気になって見上げると、顔をこわばらせて緊張しているのが見て取れた。


学院とやらがそこまで緊張するような何かなのかと疑問に思っている間に、大小の建物と塔の立ち並ぶ奇妙な施設の門にたどり着いた。


門の前には、似つかわしくない少年が、一行を待ち構えるかのように立っている。少年はケルッサの知り合いのようで「おかえりなさい」と声を掛けてきた。ケルッサは、彼が何でここにいるのだとばかりに顔を引きつらせながらそれに答えると、少年はいたずらっ子のような目で続ける。


「学院長先生がお待ちです。なんかいろいろ聞きたいみたいですよ。」

「わかった・・・すぐに向かおう。」


ケルッサはあきらめたような顔で他の4人に指示を出すと、少年を引き連れて一番大きな建物に向かって歩いて行った。残された4人は、一番近くの建物に子供たちを誘導していく。


連れていかれた建物は、講堂のような場所で何人かの大人たちが待機していた。


つい立てて簡単に仕切られた中で、問診を受け、全身を改められたところで、年長の子供たち3人がどこか別の場所に連れていかれるのが見えた。エルはフィルとその場に待機するように言われ、壁に備え付けられていた椅子におとなしく並んで座る。


何もすることがないのでぼんやりとしていると、入り口が開く音がして「フィル」と呼ぶ女性の声が聞こえた。


「母ちゃん・・・!」

フィルはエルの側から飛び出すと、その母親という女性に向かって走っていくとかじりついた。

「親父が、親父が・・・」


と、嗚咽交じりに話しながら母親に縋りつくフィルは年相応に見えた。感動的だなと小さくうなずいていると、女性の背後にずっと立っていた男が、すっと近くにいた兵士たちの方へ寄り、何か話始めるのが見えた。

かすかに「引き取る」とか「養子」というキーワードが聞こえる。引き取る相談でもしているのだろう、フィルについては問題がなさそうだとほっとする。


突然、奥の扉が荒々しく開かれ、長い髪を一つに纏めた青年が焦ったように飛び込んで来た。彼はざっと辺りを見まわし、エルとフィルで目を止めると、つかつかと近づいてきて手首を握ると「来なさい」と短く命令する。


あまりに手荒な様子に、慌てて止めようとする周囲を視線だけで制しながら

「緊急事態だ。誰もついてくることは許さない。」

とだけ告げ、2人を引きずるようにして連れていく。


青年の入ってきた奥の扉から出ると、細い廊下があり、それを抜けると建物同士をつなぐ広い回廊に出た。二人の手を引く青年は、話すことも振り返ることも一切せず、ずんずんと進む。


いくつかの建物を過ぎ、小さな箱と塔が組み合わさったような建物の扉の前に着くと、青年は何かつぶやいた。

その瞬間、扉中に光の線が走り、ゆっくりと開く。何が起きているのだと動く扉を観察しようとするが、青年は開ききる前の扉の隙間に身体をねじ込むようにして中に入り、再び引きずるようにして奇妙な部屋に連れて行く。


一体何をするものなのだろうか、壁一面に複雑な機構が組まれ、床には読むことはできないが文字と思われる記号を組み合わせた魔法陣のようなものが描かれている。エルは部屋の入口で手を離され、ここで待っていなさいと言われ、おとなしく立ち止まる。フィルはそのまま部屋の奥、機構の組まれた壁の前まで連れていかれ何か指示を受けている。


(さっきの扉といい、この部屋の様子といい・・・この世界、もしかして魔法があるのかな)


そんなことを思いながら、部屋の中を観察していると、フィルが壁の一部に手を当て、青年も別の場所に手を当てるところが見えた。青年の手の周りからは先ほどの扉で見たのと同じように線が走り、壁の機構が動きだす。


まるで機械式時計のように絡み合う歯車。ばらばらに走って見えた光の線は、フィルを中心に1つの魔法陣を組み上げていく。

幻想的なその風景と規則正しく動くその機構の動きに目を奪われていると背後から声を掛けられる。


「君はもう、やっちゃった?」


振り返ると、いつの間に現れたのか、先ほど門で出会った少年が喜色を目に宿らせ、こちらを観察するように見ている。警戒に身体を強張らせながら、「まだ、です」と小さくつぶやき返すと、やったと小さくガッツポーズをとるのが見えた。


「これは何なんでしょうか?」

答えを得られそうな人物の登場に、不用心ながらつい問いかけてしまう。


「んー、覗き見装置、かなぁ。」


エルから壁の機構の動く様子に興味を移した少年は、「おお」とか「わぁ」とか感嘆符を発しながら食い入る様に見つめている。やがて機構の動きは停まり、青年が一歩引いて魔法陣全体を眺めている。壁全体に描かれたそれは淡く光を放ち幻想的に見える。

しばらく眺めていた青年が再び壁の前に立ち触れると、壁は何もなかったかのように元に戻る。


「ミレイストス。なぜここにいる。」


フィルを連れて、部屋の入口に戻ってきた青年は、固い口調でエルの背後に立つ少年に問いかける。


「純粋に学術的興味です。この魔巧具が動くところなんてそうみられるものじゃありませんし。僕にも見させてくださいよ。」


「ダメだ」と一蹴し、フィルを講堂まで連れて行くように指示する。

ミレイストスと呼ばれた少年は、「けち・・・」と唇を尖らせながらも、肩をすくめ、仕方がないとフィルを連れて部屋から出て行った。


「君で最後だ、来なさい。」


何を覗き見られるというのか、緊張に心臓が跳ねる。フィルと同様に手を引かれ、同じように機構の組み込まれた壁の前に立たされると、壁の一部に埋め込まれた透明な球面に触れるように促される。


「ここに手を当て、魔力を流しなさい。」


当たり前のように言われるが、魔法が存在するかもと、先ほど気が付いたばかりなくらいである。どうすればいいか全くわからない。指先に力を入れたり、お腹に力を入れたりしてみたりするが目の前の壁に何の変化も現れない。隣に立つ青年を困った顔で見上げると、青年は壁から手を離すと屈み、エルに目線を合わせてくる。


近くで見る青年は銀色の髪と瞳をもち、華やかな美形とは言えないが、かなり整った顔をしている。男性にしては細い輪郭にたれ目気味の優し気な雰囲気、鼻梁はすっと通り、唇は薄い。顔の造形は前世基準でいえばかなり好みの部類に入る。


「手を出しなさい」


反射的に両手を青年の前に出すと、右手をそっととり顔の前まで上げさせ手のひらを合わせてくる。先ほどまで接していた兵士達と異なり、指がすらりと伸び、手のひらも柔らかく重いものをほとんど持つことのない人間の手だ。大人の手に重なる自分の手の小ささに、自分が子供であることを改めて実感する。


目の前の青年が軽く目を閉じ、口の中で何かつぶやいているが聞き取ることはできない。手のひらからわずかに圧力のようなものを感じただけで何も起こらなかった。青年は眉を顰めると、合わせていただけの手を握ったり指を絡めたりしてくる。


(おっと・・・なんかエロいな・・・)


他意はないのだろう、ないのだろうが何をしているのか理解できないその行動は、エルにとっては誰かを誘うときの手練手管にしか感じられない。


「僕、魔力がないのでしょうか。」


絞り出すように声を掛けると、手を離してもらえたが、思わず一歩引いてしまう。


「そういうわけではない。・・・使い方がわからないだけだろう。」


エルから視線を逸らすと、すっと立ち上がる。


「今から教えよう。・・・君、名前は?」


そういえば名乗っていなかった。という昨日からほとんどの人には名乗っていないような気がする。


「エルです。」


名前を聞くと、なぜか青年は驚いたような顔をする。


「そうか、エル。私はファレスト。この学院で教鞭と取っている。今から少しの間、私が君の師だ。」


***


ファレストは部屋から出ると、分厚い本を持って戻ってきた。そしてそれをエルに手渡す。


「魔力行使の基礎本だ。」

「はぇ??」


思わず変な声が出る。本を開くと魔法的な何かで知識が付くとか、そんな便利なものなのだろうか。両手で持つことがやっとのその本を抱えながら、床にしゃがみ込んで開く。残念ながら何も起こらず。目の前には見たこともない文字のが並んでいるだけだ。まさかこの世界の子供は、このくらいの歳で文字が読めることが当たり前なのだろうか。


「・・・先生・・・すみません、読めません・・・」


思わず情けない声が漏れる。ファレストは特に嫌な顔もせずエルの隣に同じように座り込むと、文章を指でなぞりながら読んでくれる。少し読み進めるたびに、読んだことを試してみるように促されたるが、そう簡単にはいかない。いくつか試してみたものの、内容が自分の中の常識とかけ離れすぎていてぴんと来ないのだ。


(自分の外に、自分が存在するようにイメージって、ドッペルゲンガーかっ)

(いつもそばで守ってくれる神聖な存在を意識してとか・・・怖いわっ)


これで理解できる人がいるとか、もしかして、前世で忌避してきた類の脳内お花畑人類の跋扈する世界なのか。理解できないというより、理解することを拒否しはじめたエルに、ファレストは少し考え込むと本を閉じると向き合うように座りなおす。そしてエルの右手を自分の腕に乗せ、指先に集中するように言う。


「そのまま、触れているものの組成を考えなさい。君はそれをどうしたい?」


指先から感じる肌の質感に筋肉の流れ、血管の弾力と鼓動。ゆっくりと確かめ、”恵留”の時の感覚で、ついどう切ると傷が残らないか、余計なものを傷つけてしまわないかを考えメスを入れるイメージをしてしまう。その瞬間ファレストがビクリとして手を引く。


「えっ?」


ファレストの腕はエルのイメージした通りに1本赤い筋が出来ていて、そこからジワリと血がにじんでいた。

何が起きたのかわからないが、自分の所為であることは確かだ。


「す、すみません、手当てを・・・」


深くはなさそうだが、そのままでは血で衣服が汚れてしまう。抑えるための布か何かがないかと辺りを見回すエルを手で制し、胸元から試験管状の小瓶を取り出し、中身を傷に落とす。赤色のそれが肌に落ちると、まるで傷口を埋めるかのように広がり、すっと消えた後には傷など初めからなかったかのようななめらかな肌になっていた。


「・・・それは何でしょうか?」


そう聞くと、ファレストは小瓶を嫌そうな顔をして眺めてから、「傷薬、かな。」とだけ言った。この世界では、傷薬とは一瞬で傷を治してしまうものなのだろうか。前世での、外科医としての矜持が砕けた気がする。最も、ここには”外科医”というものすら存在しない可能性が高いが。


もう少し練習しなさいというファレストの提案に、さすがに他人の肌をこれ以上切り刻むのはと思い、自分の足で試そうとズボンをまくり上げる。


「何をしている。」

「いえ、自分で試してみようかと思いまして。」


正直に答えると、あきれたように溜息をつかれる。


「先ほどやったことは、魔力を体外に出す感覚を掴んでもらうために行っただけだ。今度は同じ感覚で、目の前にないものを自分の一部として存在するモノとしてイメージしてみなさい。」


自分の手を見つめながら、自分の手に最も馴染んだ道具の形状であるメスを思い浮かべる。さっきまでは全くできなかったのに、今度は手の中にメスが現れる。


「おぉ・・・」


腕に当てようとした瞬間、それはぐにゃりと形を失い消えてしまう。


「・・・君は何をしようとしたのかな。」


あきれを通り越して、冷ややかな声である。


「せっかくできたので、その、切れ味を・・・。そ、それより何故消えてしまったのでしょうか!?」

「適正もあるが、君の場合は慣れていないせいもある。適正はあくまでも行使する力の使いやすさでしかなく、制御の技術を体得しなければうまく扱うことなどはできない。」


無理やりの話題転換だったが、ファレストの気を逸らすことはできたようだ。


「・・・さて、君も魔力の外部行使ができるようになったことだ。これ以上馬鹿なことをされる前に計測を済ませてしまおうか。」


うん、できてなかった。「馬鹿な真似」をされないように監視するような視線が居たたまれない。


先ほどと同じように壁の前に立つと、手を当て魔力を流す。今度はうまくいったようでフィルの時と同じように機構が動き出す。同じように魔法陣が組み上げられていくが、先ほどとは少し形状が違うように見える。この魔法陣そのものが何かを示しているのだろうか。カチリと音がして魔法陣は完成する。


ファレストが壁から一歩引くとその完成した魔法陣をじっと観察している。自分も手を離してよいものか判断ができないのでそのまま壁に手を当てていると、魔力を流し込むのではなく、強制的に吸われるような感覚になる。


「あの、ファレスト・・・先生?なんか変・・・」


なんですが、と言い切る前に魔法陣が強烈な光を放ち、機構がすごい勢いで動き始める。眩しさと恐怖から思わず目を瞑る。魔力の吸われる感覚と光はしばらくすると収まり、恐る恐る目を開くと、目の前には瞑る前とは異なる風景が映る。


部屋は暗く感じられ、目の前の魔法陣は形を変え、象る光も淡い水色から毒々しい赤に変わっている。びくりと目の前の壁から手を離すが変わらない。ファレストの姿を求め振り返ると、それまでただの部屋だったはずのそこは霞がかかったようになり何処までも広がっているように見える。そして壁から延びる床の魔法陣は淡く光り、無数の言葉を産み出している。


「何故・・だ」


少し離れたところでファレストが呆然と立ち尽くし、産み出される言葉を見つめていた。

ロリコンじゃないよ。

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