迷子
膝をつき、乱れた息を整える。あーもうわけわかんないよ。地面には全身鎧の男が伸びている。今は兜が取れて、意外と若いというか幼い顔が露わになっている。
「エリナさんのパーティーを襲ったのがまさか人間だったなんてね……」
「ああ、迷宮内での殺人など、三年前以来であるな」
ダリウスが、伸びている男を冷たい視線で見下ろした。三年前かぁ。たまに起こるんだよね、こういう事。過去の歴史を紐解けば前例もいくつかある。きっかけはパーティー内の不和とか、色々だ。厳罰が下されるし、迷宮内での殺人はほとんどないが、それに巡り合った私たちはかなり不運だよね。
もう一つ、面倒な事が起きた。未知のエリアに迷い込んじゃったんだ。こんな目に遭う探求者なんて、発掘期を除けば、古今東西見渡しても私たちだけだろう。
どうしてこうなった。予想外もいいトコだ。亜空間を出る時には想像もしてなかった。
蘇生中にこの男に不意を突かれて、蘇生中の一人が傷つけられた。それで、ダリウスがキレて、反撃したんだよね。男は形勢不利と見るや否や、逃げ出したけど、ダリウスが深追いした。気が付いたら暗闇の中にいて、いつの間にか荒野にいた。私もほっとけなくて着いてきちゃったけど……ああっ!
救助依頼ほっぽり出しちゃったよ。これ以上過去を振り返るのはやめよう。後悔する事がありすぎで、立ち直れなくなりそう。よし、先の事を考えよう。前を向くんだ、私。
「これからどうしよう、ダリウス」
「見たことも聞いたこともない場所だ。だとすればここは未開のエリアである可能性が高い。発掘期の記録によれば、そのエリアのボスを倒すことで魔法陣が出現、地上に帰還できる、とある」
「前例からすると、ボスって決まった場所に生息してるんだよね。で、ここは未知のエリア……つまりボスの生息地から探し始めなきゃならない……」
口に出してみて、気が遠くなりそうだった。むかしの探求者は大変だったんだな、うん。今でこそ、各エリアに出現する迷宮生物は何々で、どこで資源が取れるかっていう地図もあるけど、それは先人たちの努力の賜物なワケだ。
ふと、鎧が鳴った。同時に、繰り出された拳が空を切る。あっぶなー。鎧男が目覚めるなり殴りかかってきたのだ。次の行動に移る前に、ダリウスが取り押さえた。
「この殺人鬼め」
苦々しくダリウスが吐き捨てる。大柄なダリウスにがっちりと羽交い絞めにされ、男は身動きが取れない。
「ガガガ……」
それでも、男は獣のように唸りながら、ジタバタと暴れようとしている。目は血走り、口からは涎が垂れている。明らかに正気じゃない。まあ、殺人犯だし当然か。
そこで、私は違和感を感じた。男を凝視する。返り血やら泥やらで汚れた鎧。血の気のない顔。焦点のあってない瞳。もしや……。
ゆっくりと男に手を伸ばす。
「すぐ静かにさせてやろう。……フィー殿?何をする気か」
「大丈夫よ」
伸ばした手が、ひんやりとした男の頬に触れた。すっと息を吸いこみ、魔力を練り、呪文を唱えた。
「解毒」




