孤独の勇者
敵、敵、敵。
邪魔だ、排除しないと。ぼんやりして、うまく働かない頭でそう考える。
斬りつけられた剣を払い、態勢が崩れた敵の喉を切り裂く。もう一体も殺そうと剣を構えなおしたところで、邪魔が入った。左肩に、ざっくりと切り傷。風魔法による斬撃。
みれば、遠くに敵がもう二体。煩わしいと、顔をしかめる。
「凍れ」
一言そう唱えると、敵はすぐに物言わぬ氷像になった。
「よ、よくもっ……!」
最後の一体にもあっけなくとどめを刺す。脅威が去り、ふらふらと歩く。
少しして、ここに来た目的を思い出した。食べ物を探しに来たんだった。辺りを見回すと、木の実らしきものが木からぶら下がっていた。抱えられるだけもぎ取り、来た道をたどる。門を抜けて、元居た場所に戻る。ここは静かで、誰もいない。木の実を一つ食べると、眠くなってきた。瞼が落ちてくる。
段々と意識が遠のいていき……。
夢を見ていた。もうずっと前の出来事だった。
僕はただの高校生だった。中三の頃に頑張って、県内有数の進学校に進学したものの、勉強についていけず、腐っていた、ただの高校生。いつものごとく授業中に居眠りしていた。窓から差し込む日が暖かくて、気持ちよかったのが記憶に残っている。
目が覚めたら、見知らぬ場所にいた。目の前には神だと名乗る謎の光。異世界に行って、世界を救えと言われた。餞別に次に目覚めた場所は、大きな広間だった。僕のほかにも勇者として召喚された人たちがいた。たくましい体つきの男二人と、今まで見たことがないような美女だった。ちょっと場違いな気もしたけど、この時の僕はまだ希望に満ちていた。
その日はふかふかのベッドで休み、次の日にこの世界の常識を教えられ、戦い方を教えられた。
訓練が終わると、迷宮という場所に連れていかれ、迷宮生物と戦った。倒すと経験値が手に入り、基礎能力が上がるらしい。今、人族が魔族に攻め入られて大変なことといい、ゲームみたいだと思った。
だが、日が経つほど僕の肩身は狭くなった。ほかの三人が優秀すぎて、僕が落ちこぼれだったからだ。三人は毎度毎度言われたこと以上の進歩を見せ、僕と彼らの差は開くばかり。
何もかも嫌になって、僕は逃げ出した。迷宮での訓練中に、脱走した。他の迷宮へとつながる穴に入り、無事逃げおおせた。危ないから近づくなと言われていたけど、そんな事は気にならなかった。
逃げた先は、真っ暗な闇の中だった。上下左右、方向感覚もなく、ただ彷徨い続けた。その内、正気じゃなくなった。自分が誰だったのかも忘れてしまいそう。
誰か、誰か、誰か………助けてくれ。伸ばした手は、何も掴めなかった。