プロローグ
好きな時間に起きて、特に何をするでもなくだらだらする。ぐうたら生活サイコー!
……はぁ、現実逃避もそろそろ限界だ。だって、ふかふかのマイベッドがない。食事も一日二回で、それも正体不明の液体だけ。何より、自由がない。
何もない、真っ白い空間。気がついたらここに囚われていた。手足は鎖で縛られ、快適とは程遠い。
時を無為に過ごす。たまにはそういうのも良い。何千年でもだらだらできる自信がある。けどさ、この状態はないよねー。
加えて、このだだっ広い部屋。ずっとここにいると、気がおかしくなりそうだ。精神汚染魔法でもかけられてるんじゃないかな。
どうしてこうなったんだっけ。そうだ、武器の定期メンテナンスでジュードの所に行ったら、ムルムスに攫われたんだ。絶対ジュードも一枚噛んでる。あの二人は何かしら通じるところがあったからなぁ。
こんなコトにならないように、リックを連れてったけど全然役に立たなかったなー。いっつも私の後を着いてきて、「護衛は任せて」とか豪語してたのにさ。
やっぱ最後に頼りになるのは自分の力だよね。今更だけど。
この世の理不尽について考えていると、不意に壁が揺らいだ。
そこから、見覚えのある悪魔が出てきた。浅黒い肌、尖った耳。後ろで揺れている二股の尻尾。ムルムスだ。現れるなり、じっと私を観察し、体のあちこちを触り始めた。
「ふむふむ。体のどこにも異常なし。健康そのものですね、これなら問題ないでしょう」
「ちょっと、いきなり何?」
ぎょっとして身を引く。
「ああ、すいません。気が逸ってしまって。
もう少しで完成なのですよ、進化の秘術が」
「前から進めてた研究の一つ、だっけ」
そうです、と力強く頷くといきなり声のトーンを上げて話し始めた。
「私は神に憧れていました。私たちとは次元の違うその存在にッ!憧れると同時に、疑問だった。彼らと私たちの差は一体なんなのか?その一つは、抵抗力の差、です。彼らの抵抗力は圧倒的に高かった。そして、神へと至る術が、進化の秘術なのですッ!」
片方しかない目が爛々と輝いている。
今すぐここから逃げ出したい。今の話で、なぜここに囚われたのかわかった。
「抵抗力は生物はもちろん、ただの石であろうと、元から持っています。抵抗力を上げる技術はジュードが既に確立していました。しかし、神を神たらしめているのはそれだけではなく……」
「長ーい。もっと簡潔に」
というか、何しに来たんだコイツは。
「つまり、ですね。進化の秘術には、詳しい説明は省きますが神格というものを得る必要があるのですよ。その為には大量の抵抗力が必要でした。あなたは抵抗力が高い。ぜひ私の研究の犠牲になってください」