日記閲覧開始
10分後。
しつこかった。
延々、手を変え品を変え、見せろと言われた千穂は折れてしまった。
「惚気てるとか言われても無視するから」
最後にはこう言ってしまった。
憂とこうして楽しかった。嬉しかった。そんな部分もあるのだろう。
だが、めんどくさくなったにしろ、確かにOKしてしまった。厚い日記帳を千晶に手渡してしまった。
……ので、佳穂と千晶は大喜びし、憂の目の前で日記を開いた。
ポジション上、そうなったのだ。両足を投げ出した憂の大腿部で日記を開き、佳穂と千晶の2人が覗き込む形だ。
2人の頭が近くなったが、憂の顔が赤く染まる……なんて事にはなっていない。憂も女子になって3年。女子との近距離のやり取りにも慣れてしまったのである。
「――いいの?」
憂は2人の頭を回避しつつ、座椅子の上で膝を抱えた千穂に問うた。
「……佳穂と千晶だし……」
「――そう? ――ならいいけど」
見事だ。
普通ならば『僕も読んでいいの?』
こう言ったと捉えるだろう。けれども千穂は『読ませてあげてもいいの?』と正確に憂が略した部分を補って回答してみせたのである。
「へー。保護された時のこと、初めて知ったぞー」
「……聞かれなかったから」
「誘拐されてた時の話とか、普通は聞けません。酷い目に遭わなかったかだけは確認したけど」
千穂の文章は、思い付きのまま書かれているせいか、いまいち纏まりがないので、掻い摘んでみることとする。
―――千穂があの薬を内服し眠りに就いた後、目を覚ますとベッドの傍に女性が居た。
小さな椅子に座った肌の白い、ブロンドで軍服の女性。
その女性は、頭の回らない様子の千穂に微笑みかけた。
「おはようございます。安心して下さい。あなたは助かりました」
片言だったが、確かに日本語だった。
たぶん、日本人である千穂への配慮なのだろうと、日記には書かれている。それで正解だ。先方からしても、千穂は可哀想な美少女だった。全貌を知っていようが、知るまいが、だ。
謂わばこの女性は、保護後の精神面のケアを任された軍人だったのだ。
「……ここは?」
「驚かないで下さいね? ここは第七艦隊旗艦の一室です」
実際の会話はこうだったが、千穂は太平洋艦隊で1番大きな船と記している。まぁ、軍に興味のない女子高生の認識としてはそんなところだろう。
「あの……?」
「はい」
ブルーアイの瞳は優しさに満ち溢れていた。眠ったままの少女を見詰め続け、目を覚ましてくれた。今、この女性の気持ちは、眠り続けていた優が起き上がった瞬間の島井や専属の気持ちに近いものがあるのだろう。
「……お手洗い、いいですか?」
コンテナ内で尿意を誤魔化し、更には薬を飲む時にミネラルウォーターをがぶ飲みした千穂の膀胱は限界ぎりぎりだったのである―――
「風情も何もないよね」
「さっき、千晶が笑ってたの、この部分かー」
「……だって。仕方ないじゃない」
「――ながい」
日記の最初のページの半分ほどを読み終えた佳穂、千晶の感想に千穂がぶーたれた。最初のページに記すような内容ではないように思えるのだが、そこは千穂の微天然さだろう。
「……憂ちゃん。くすぐったい……」
憂に読ます用に書かれていない日記だからか、それとも千穂が嫌がっていたからか。憂は日記そのものからは目を逸らそうとしている。
なので、ちょっぴり暇なのだろう。
千晶の長い尻尾をいじり始めた。
「引っぱっていいぞー? ハゲ促進だー」
「……最近、ちょっと薄くなってきてるような気がしてる時に」
「え? あ! ホントだ!」
「傷付いた」
「そこは……まぁ、千穂だし」
「『そんなことないよ?』くらい言ってほしい」
「……ごめん」
ポニーテールなどを長く続けると、本当に前方が薄くなってしまうことがあるらしい。ご注意頂きたい。
「そのトイレ中に私が目を覚ましたことを連絡したんだろうね。トイレから出たら偉い人がいたんだよ?」
「話を強引に戻しやがった」
「千晶? 聞くぞ?」
「……なんかむかつく」
「それからはみんなが知ってる通りだよ? まずはご両親に連絡してあげましょう……って。それがあの電話」
「なるほど」
「他に裏話みたいなのないんかー? ……って、憂ちゃん!?」
千晶の尻尾に手櫛を通したり、掴んでみたりと堪能した憂は、次に佳穂の髪に手を伸ばした。
耳に掛かる部分を触ろうとしたものだから、耳に触れてしまったらしい。
流れに参加していない子が混じっていると、何かと話を混乱させる。
それでも止めろとは言わない。
何気に千晶も言わなかった。
嬉しいのだ。憂から触ってきているのが。
「起きる前、夢見てた」
そんな様子を見せる2名に千穂は余裕だ。
単なる『憂の見せる女子っぽい行動の1つ』である事を理解しており、同時に強い愛情で結ばれている確信がある。
「聞こう」
「よっしゃ。話せー? ん……。うぅ。鳥肌」
佳穂の鳥肌は話に参加する意思を見せない子の手櫛のせいだろう。
「あんまり覚えてないんだけどね」
「なんだそりゃ」
「夢だし、仕方ないんじゃない?」
「白かった。なんか真っ白の世界を漂う……って言うか、ふわふわ飛んでるって言うか……。その時は『これが天国なのかな?』とか思ってたんだけどね」
佳穂千晶の頭が話す少女に固定された。興味をそそる話し口だったからだろう。
それに勘付いたらしい憂も千穂をきょとんと見た。
「……そこで色んな人の声が聞こえた気がするんだ。姿も見えてたかも」
出た。憂の大好きな千穂のふんわり笑顔が。
「わたしも居た? なんて言ったの?」
「……千晶は『馬鹿。早く戻ってきなさい』だったと思う」
「千晶らしいなー。あたしは?」
佳穂がキラキラした期待に満ちた目を千穂に向ける。
これはある意味、千穂がどう思っているか。どんな印象が1番強いか、に直結している話だ。
「ごめん。覚えてないんだ」
「なんだそりゃー!」
「ぷくくっ。オチ要員」
「その中にね」
「スルーされたっ!」
「佳穂、うるさい」
「お母さんも優もいた気がするんだ」
うるさいを聞き取ったのか、憂が佳穂の頭をよしよしし始めた。相変わらずの癒し上手である。
「……何か言ってた?」
「……残念だけど覚えてません。大事なこと言ってた気はするんだけどね」
「そっか」
「良かったなー。きっと、こっちはまだ早いとか言って、追い返してくれたんだぞー? 優しいお母さんだ!」
「優くんは手を繋いでこっちに戻してくれたんじゃない? それでまた優くんも憂ちゃんの中に」
「……そうだね」
急に3人の目線が集まった憂は、佳穂の髪に伸ばしたままの手をサッと下ろした。
怒られるとでも思ったのかもしれない。
……例の薬を飲んだことを佳穂と千晶の2人は知っている。
生と死の間を漂ったのだと思い込んでいる。
なので成立した会話である。
その薬は蓼園自治区となって以降、『これはもう必要ありませんえ?』と、まだこの後日談で名前しか出ていないあの人が回収していった。
だから永遠に知ることは出来ないだろう。
その後は軍の食事はどうだったかなど、そんな質問に終始してしまった。
そして、今後……。
卒業後も千穂の部屋を訪れ、日記を読みに来ると宣言し、2人は去っていったのだった。
あとがきですよー。
本編では雰囲気壊しそうでなかなか書けなかったあとがきなんですけど、やっぱり何か書きたかったりするんですw
要らんわって人はスルーして下さいね。
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Twitterでちょこちょこ呟いてる新作ですけど、まだまだ迷走してたりしてますw
半脳流で書こうか、それとも一人称のみで突っ走ろうか……って具合ですね。
色々試作してるんですけど、なろうで必要不可欠な『興味を強く惹く第一話』になりません。困ってます。
書きたいものなので、どこかで折り合いつけて投稿するとは思うんですけどね。
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ところで皆さん、話が変わる瞬間(シーン変更)での『✧』とか、どう思います?
書籍化作品でも普通に使われてたりするものなので、大丈夫なんですかね?
空行たっぷりでも構わない気もするし……。
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全話あとがきのクイズなんですけど、正解って必要でしょうか?
個人的には正解を出された瞬間を待ってるんですけど、いつまでも出なかったらモヤモヤされるんじゃあないかと心配……。
なのでメッセージなど、お送り頂けたら回答致しますのでご気軽にどうぞー。




