黒服の想い
お久しぶりです。約束通り忘れた頃に投稿です。
「え? 本にするの!? あの日記!!」
「千穂ぉー! お前、夢の印税生活するつもりかー!!」
「やらないかって話がきただけだって! 話聞いて!」
今日も騒がしい3人娘やなー。
毎日毎日、よーやるわ。感心するで。これぞ見事な青春謳歌ってヤツやで。
……勘違いされちゃ困るけど、ワイの高校生活一回目、悪くなかったで。二回目の今はこんなやけど。
「聞いてるぞー! やるんだろー?」
「あんた、『このままじゃ憂に養ってもらう形になるー』って、前に嘆いてたよね?」
とか言うてみたけど、会話の中身は女子高生とか思われへんな。印税って。
けど、出したら間違いなくベストセラーや。この自治区だけで何冊売れるか分からへん。バイブル的なもんになるんちゃう?
「……日記だよ? 日記を知らない人に読まれるって思うと……」
「それは恥ずいな」
佳穂ちゃんが千晶ちゃんに目線を送る……と、「わたしなら絶対しない。読まれたら死ねる」って両断。さっきまでとちゃいますやん? 人にすすめておいて自分ならしないってスタイル流石ですわ。
ちなみに憂さんはニコニコしてはるで。たぶん。
ちっさい背中が2つ並んで見えてるから顔は見えんけどなー。この3人娘が楽しそうならそれで良しってスタイルや。やっぱし家で一緒に過ごせる時間がモノを言ってんやるなー思う。憂さんにとって、千穂ちゃんと2人きりで過ごすあの時間はこれだけの余裕を与えてるんや。
「でしょ? もちろん、いっぱい編集してプライバシーには配慮してくれるって話なんだけど……」
「だったらわたしならやる」
「あたしもだー! いくら稼げるんだー!? アンネちゃんレベルじゃないのかー!?」
また意見ひっくり返ったで。面白いコンビや。見てて飽きん。
「……あんたの口からアンネ・フランクの名前が出る日がくるとか一生ないと思ってた」
「私も……」
「急なディスりきたぁ!! あたしでもアンネの日記くらい知ってるぞー!」
嬉しそうやなー。長い高校生活でいじられると大喜びな度合い上がった気ぃするけど、どーなん?
「いくら稼いだんだろーね。アンネちゃん」
「…………」
「………………」
焦点なさそうな遠い目して教室の後ろを眺めてはるけど……それは、ずれてますわ。
……………………。
ほーら。静かになってしもたやんか。
「億単位?」
「それ素で言うてまっか!?」
「わ!」
あ。しまった。ついついツッコミ。誰もなんも言わんから……。
「急に康ちゃん起動!」
「久しぶりに絡んできましたね」
「うん。ちょっと嬉しい……かな」
振り返った千穂ちゃんの、はにかんだ笑顔かわいいわ。あ、憂さんも見てはる。いかん、石や。ワイは石やで。道端の石ころでええんやで。
……上目遣いやめとくれ。座高的な問題なんはわかってるけどな!
「えっと。康ちゃんはどーなるんだってか? 千穂のお兄ちゃんかー?」
…………。
「そうですね。このまま順調に行けば、憂ちゃんのお姉さんと康平くんが結婚。千穂と憂ちゃんが結婚は確定だから、康平くんにとっては2人とも妹ということになりますね」
「それ、何度目かな?」
今まで何度も教えられてるやろ。佳穂はん覚える気ぃあるんか?
いちいち律儀に教える千晶はんもワイへの当て付けやろか?
「何度でも」
ここで悪い笑顔や。そーやってワイを弄ろう思ってもいかんで。
「………………」
「………………」
ははは! ワイが反応せんからつまらなそうにほっぺた片方膨らませたわ。癖じゃないで。あれはワザとや。
「それでアンネの素って?」
「素でおかしなこと言ったのはあんたのほう」
「……だよね」
おぉ……。まいりとるしすたー……。前、向いてしもうた。やっぱりちょい寂しい。
……憂さんもかいな。並んでる小さな背中が2つ。
席順、変わってんで。しかも変則や。
ワイの前に千穂ちゃん。千穂さんの左にぴったり席をくっつけた憂さん。憂さんの左に勇太はんに勇太さんの後ろ。ワイの隣に拓真や。んで、千穂ちゃんの前にうるさいほうでその隣にツッコミ担当な。つまるところ特等席、窓際最後列は拓真の手中……ってか尻の下。
「だからね」
おっと。聞いてなかったわ。
顔を戻すと目に入ったんは千晶はんのめっちゃ嫌そうな顔。2回目の説明やろな。
「これ以上、まとめようのないほどまとめるから聞いてて」
「はーい!」
良い返事やけど、静かになってまうやろなー。
「『アンネの日記』は彼女の父が周囲の声に推され、出版を決意したものです。娘の遺したものを知人親戚に見せたことがきっかけで存在を知られるようになってね。……でも、アンネは収容所で亡くなってるから、印税生活なんて送ってないんだよ……?」
「……なんか、ごめんな」
……チャイムやな。佳穂はんの沈んだ声は途中で掻き消されてしもうた。同時に入室するセンセと席に戻っていく学友。
「きりーつ! 礼!」
「「「よろしくお願いしまーす!!」」」
「着席!」
ガタガタギィギィみんなの座る音。そっと座る千穂ちゃんは性格上。
それでもええ香り運ぶんはなんでや? 食べてるもんでも違うんか?
……間のひと声は凌平はんが始めたんやけど、憂さんが真似して以降、広まったものや。憂さんの影響力は絶大で、今や全クラスが『よろしくお願いします』も『ありがとうございました』もやってんで。
なんら気にする様子のない、凌平はんも大したもんだけどな。
うわ!!
ブィィって机の中からバイブ設定のスマホ音が!!
慌てて停止……しようとしたら止まった。通知かいな。誰やこんな穏やかな時間に……。
千穂ちゃんの肩が震えてるわ……。笑われた……。声でも漏れてしもたか……?
憂さん、わざわざ振り向いてガン見してるし! 先生まで。いや、ホントすんません。スマホ開くんは問題なし。校風もやけど、それよりもワイは護衛だからな。今でも。
……その期間も、あとちょっとなんが寂しいけどなーとか思いつつ、スマホ画面確認。緊急事態なんぞもう起きんやろけどなー。
拓真【珍しく3人に絡んだじゃないっすかパイセン】
左を見ると拓真がガン見。机の下でスマホを弄びつつ。メッセージの主は、お前かい!
とりあえず通知オフしてから入力……。
【ついついツッコミ入れてしもうたんや】康平
拓真【いいんすか? 黒服がそれで】
【たまにはいい!】康平
黒服呼ぶな! 薄ら笑うな!
仕方ないやろ。梢枝が辞めた以上、護衛顕在をアピールするにはこれが一番なんやで!
ワイよりも梢枝のほうが存在感あったんちゃうか……って、梢枝不在以降思ってるわ。あの日本人形みたいなドぎつい外見がモノを言ってたんや。怖い怖い。
通り掛かる人間をジッと観察してたしなー。あんなん従えてる人おったらワイも避けるわ。
梢枝はもうちょい可愛くしてりゃ男どもがほっとかんはずなのにな。あいつ可愛くないから。そもそも認める人間が極端に少ないんや。自分がレベル高いせいで求める基準が高い。告った場合、こっぴどく断りそうな雰囲気出してやがるし。
……心配になるやんか。二十歳になっても男っ気一切ないからな。どうするつもりなんか全くわからん。
あ!!
なんでワイがあいつの心配せにゃならんのや! あいつはワイなんぞが心配せんでも巧くやるわ!
第一、ワイが黒服なんぞ着る羽目になったんもあいつのワガママのせいやで! そのせいでなるべく絡みを控えてんのや! 黒服と話すJKとか周りから敬遠されかねんからな! 3人娘のために寂しい思いをワイは……!
梢枝、口では『自治区の成立により研究が加速的に進んだ結果、憂さんの危険は個人的怨恨を除き、皆無になりました』とか例の安全宣言で言ってたけど、本当のこと俺は知ってんで!
あいつ、二十歳でセーラー服を回避するために護衛降りたんや!!(※康平の個人的な見解です)
憂さんと昔、約束したからな。
『似合ってるよ?』
『そ……う、ですか?』
『これからずっとね?』
『わかりました』
こんな感じのやりとり。
梢枝は姑息だからな。
『これから(学校にいる限り)ずっとね』
こう歪曲したんや。これなら約束破ったことにならんとか思ってんやろ。
……梢枝なぁ。はよう身を固めりゃええけど、40までは無理やろなぁ……。
…………。
うわ! 梢枝が見下すように見る画が脳裏に……!
……かと思ったら、『兄さん』とか久しぶりに呼んだときのしおらしい姿が……!
なんなんや! あのギャップは!!
お前がどんだけ可愛くし始めてもな! お前とだけは無理なんや!
「パイセン?」
……拓真もその『パイセン』やめろ!
ワイの後継者。卒業後の憂さんの警護担当内定。
たしかに先輩だけど、なんか嫌やわ!
梢枝と憂との昔の約束については「本編45話」を参照下さいませ。




