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EPISODE1 A:side

EPISODE1 A〜B:side+EPISODE0 〜黒い部屋〜まで改訂終了。不定期で手直し中です。気紛れですみません。

 それは、突然だった。




 夫が、帰らない。




 決して、夫婦仲は悪くはなかった。




 ある朝、いつものように玄関で夫を見送った。




 様子がおかしいとか、全くなかった。




 どうして……?




 どうして…………?




 どうしてなの………………?

 気だるい体を起こし、枕元の時計を見る。もうすぐ、昼になろうかという時間だった。カーテンは引かれ、昼間でも薄暗い。

 ベッドからゆっくりと身体を起こすと、近くにあるテーブルに置かれた煙草を手に取った。そのまま慣れた手付きで箱を開けると、中は空だった。

 いつも切らさないようにしていたのに。舌打ちしたい気持ちだけど、残念ながら上手く言った試しがない。

 このまま、寝てしまおうか。そう思いガバッと布団を被ってみた。

 ……起きた時に煙草がない。

 考えただけで無理、としか思えなかった。

 結局私は煙草の誘惑に負け、買いに行くことにした。 ぐにゃり。


 世界が、弧を描くように歪んだ気がした。

 それは、一瞬の出来事で。軽く瞬き後には、跡形もなく消失していた。

 気のせい、だったの?

 目の前には、玄関を開けただけの景色。

 向かいの家のガレージが、アパートの冊越しに見え、奥には中学校の校庭、校舎が見える。閑静な住宅街そのものだ。

 近頃身体がだるいことも多く、なんとなく優れない。

 もしかしたら、目眩だったのかもしれない。

 そう考えた時、子供の声が聞こえた。

『……だから。…………ください』

 思わず周りを見渡すが、誰もいない。

 今の声は、何?

 深く考えるのは、止めた方が良い。ふと、そんな気がした。

 部屋の中とは違い、外に出ると容赦ない冷たい風が吹き付けてくる。

 白いコートの上に巻いた桜色のマフラーを口元に当てた。

 やっぱり手袋もしてくれば良かった。

 そんな事を考えてる内に、足は自然と一番近くの自販機が置かれた酒屋ではない方へ向かっていた。

 この道だったら、コンビニの方が近いかな。

 そんな事をぼんやりと思った時、また声がした。

「無様なものね」

 今度は、はっきりと近くから声が聞こえた。

 驚いて声の主を見ると、そこには可愛らしい女の子が仁王立ちしていた。

 全体的に色素が薄い印象だが、黒いノースリーブのワンピースが肌の白さを際立たせている。

 形の整った口元が動く。

「イイ歳のオンナがスッピンで出歩くなんて、恥ずかしくないの? だから、ダンナに逃げられんのよ」

「なっ……知って!?」

 そこまで言ったところで、言葉を失った。

 どうして、私の事を知っているの……当たり前の事が頭に浮かぶ。私はこの子に見覚えが全くないのだ。

「いいから。アタシの言う事を黙って聞きなさい」

 私は口を閉口するしかなかった。

「まず、キレイになる努力をしなさい。タバコはお肌の天敵だから。これ以上老けたくないなら、これからは一切止めることね」

 女の子はビシッと右手の人差し指を私に向け、左手は腰に当て何かのポーズのように見えなくもない。

「……ちょっ、待って! 煙草は止められないの」

 私の声はうわずっていて、完全に目の前の女の子のペースだった。

「一本吸うのに、5分の時間をムダにしてる。1日20本で100分。その時間があれば、十分キレイになれるわよ」

 女の子の栗色のツインテールが風に靡く。桃色の口元の両端が軽く上がった。

「……大人には、大人の事情があるの。あなたには、まだ分からないだけ」

 私の言葉を聞き、女の子の右眉が吊り上がる。

「なによ、オトナの事情って。そうやって、なんにもしないで諦めるのが、そんなにエラいの!」

 女の子の言葉には、容赦がない。

 分からないからこそ、言える事だ。でも、きっと。

 真実はいつだって、変わらない。大人に成る程、いつの間にか見失ってしまうもの、なのだろう。

「……分かった。分かったから。そんなに怒らないで?」

 宥めるような私の口調に、女の子は小さく息を吐いた。

「べつに、怒ってなんかないわよ。一応、忠告しておくわ。火の元には気を付けて」




 ぐにゃり。




 世界が再び歪んだ気がした。 気だるい体を起こし、枕元の時計を見る。

 もうすぐ、昼になろうかという時間だった。

 カーテンは引かれ、昼間でも薄暗い。

 ベッドからゆっくりと身体を起こすと、近くにあるテーブルに置かれた煙草を手に取った。

 そのまま箱を開けると中に煙草が数本入っている。そのうちの一本を右手に取り、しばらく弄ぶ。

 私は手にした煙草を箱に戻すと、そのままごみ箱に向かって放り投げた。

 不思議と気持ちが晴れやかで、小さく伸びをした。

「ん〜。今日はウォーキングでもしようかな」

 小さく呟くと、自然と笑みが浮かんだ。

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